浦和レッズ快挙の夜に実感。日本サッカーの「単調と不便」

2017/12/19
先月、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝のため、欧州サッカー協会のお偉いさんとともに日本を訪れました。浦和レッズの優勝を生で見ることができてとても幸せでした!
正直サッカーの内容においては注文をつけざるを得ないところもありましたが、10年近くアジア制覇から遠ざかっていたJクラブゆえ(2008年のガンバ大阪以来じつに9年ぶりのアジアタイトル奪還!)、何よりも勝つことが大事でしたので、文句なしの最高の結果だったと思います。
他にも、試合運営が素晴らしかったと思います。アジアサッカー協会、日本サッカー協会、Jリーグ、浦和レッズなどの協業だと思いますが、一緒に観戦していた欧州サッカー協会の重鎮たちの前でも、日本人として胸を張っていられる試合運営ぶりで、感心いたしました。
日本最大のクラブである浦和レッズということで、そのファンにも触れなくてはいけません。
欧州に長らく住み、世界のサッカーの中でも最高峰のUEFAチャンピオンズリーグに携わり、熱狂的なサッカーファンを世界中で見ていますが、浦和レッズのファンは、世界のどこに出しても恥ずかしくない、日本サッカーが世界に誇るべき財産だと思います。
強烈に熱狂的なファンたちは結構色々なところにいるのですが、浦和レッズのファンはスタジアムの雰囲気を最高に盛り上げる熱狂度に加え、日本人的な紳士的なマナーを兼ね備えているので、世界的に見ても稀有な存在だといえます。
Jリーグの過去25年の歴史やその前から脈々と受け継がれてきた日本サッカーの歴史のもとに、育まれてきた素晴らしいサポーター文化であるので、今後の日本のサポーター文化の更なる熟成が楽しみです!
ただ、日本サッカーのすべてがうまく行っていて改善点がない、というわけではありません。
2点ほど、観戦しながら気づいた点を挙げます。

変化の早い時代に必要な多様性

1つ目は、「多様性の欠如」です。
これは、一緒に観戦した欧州サッカー協会の友人たちと試合後に飲みながら話していて、意見が一致しました(酒席とはいえ、皆の意見が偶然にも一致したので、一理はあるかと思います……)。
「まず、体格的にほぼみな同じ……」「フィジカルは仕方ないとしても、走り方、間合いの取り方、ボールの持ち方、リズム、シュートやパスやドリブルの判断基準、シュートのレンジなどが、みな似たり寄ったり……」
確かに、アラブ系とアフリカ系のミックスで構成されている対戦相手のアルヒラルと比べると、「多様性に欠ける」のは一目瞭然でした。
「多様性に欠ける」とはどういうことかというと、「単調」であるということです。
「単調」であるということは、対戦相手からするととても与しやすいのです。どんなに速かろうと、うまかろうと、強かろうと、「単調」なサッカーを繰り広げる相手であれば、何とか対応しやすくなるのです。突然のリズムの変化などで「予定調和」を崩されるゆえに、対応しづらくなるのです。
ドイツ、ブラジル、アルゼンチンなどの強豪が強い理由は、全員の技術とフィジカルが優れているだけでなく、体のサイズ、スピード、リズム、プレーの判断基準などの「引き出しが豊か(=多様性)」ということも多々あります。
日本サッカーの特徴でもある「多様性の欠如」は、何もサッカーだけではなく、日本社会の特徴ともいえます。極東の島国である日本という国の地理的条件、移民制度、学校や家庭での教育などに起因していると思います。
「周りと同じようにしなさい」という「同調と同化圧力」が、サッカーグラウンドにおける指導にも大きな影響力を及ぼしているのが、サッカーの国際試合を見ただけでも垣間見えてくるのです……。
日本の地理的条件、移民制度(変えようと思えば変えられるはずですが……)、教育制度などは、変えられない、もしくはなかなか変わらないのかもしれません。
それでは個人、家庭、チーム、企業レベルでどうすれば良いかというと、以前「本連載」でも述べたように、若いうちから海外との行き来を増やして(アウトバウンドとインバウンド)、日本では経験できないものに触れて引き出しを増やしていく必要があると思うのです。
上記の過去記事でも述べた2014年W杯コートジボワール戦後にJリーグクラブ所属の選手が述べた「未知との遭遇」を、若い頃から繰り返していれば、メンタル的に臆さないだけではなく、自らのプレーも「単調」ではなく「引き出しが増える」のは自明です。
筆者の子どもたちを例にとると、四方を欧州の大国で囲まれたスイスで生まれ育ったので、自然に多様な人種、言語、文化に囲まれて育っています。ゆえに、人間の生き方の根底をなす「モノの見方・考え方・信じ方」が、多様性に富んでいます。
彼らは人種的には読者が想像するような欧州人ではなく、日本人の両親のもとに生まれた日本人です。単に生まれ育った環境が日本の子どもたちと違うゆえに、そうなっているのです。
ということは、「多様性」を育むのは「人種」ではなく「環境」ということになります。
もちろん、日本の皆さんが海外という「環境」に住めるわけではありません。しかし、技術革新の進むこのご時世、様々な手法で若いときから海外を行き来するのは、その気さえあれば不可能ではありません(元FCバルセロナの久保建英君や現レアル・マドリードの中井卓大君などの例もあります)。
色んな意味で個人的に行うのは難しいというのであれば、地方自治体、学校、サッカークラブ、企業、政府などの主導で、インバウンドとアウトバウンド両方向をミックスした「未知との遭遇」機会を創出していけるはずです。
サッカー選手ではありませんが、過去20年以上にわたって6カ国に移り住み、様々な国で仕事や旅をしてきた自らの経験をもとにいうと、素晴らしい国民性を持ちながらも「多様性」に欠ける日本人は、海外という異なる「環境」を通した「未知との遭遇」をすることで「多様性」を育んでいける、と自信をもっていえますので、ぜひ積極的に取り組んでいきましょう!

スタジアムが都心から遠い……

最後に、欧州サッカーに慣れた身から、もう一つ顕著な改善点だと感じたのは「スタジアムへのアクセスの不便さ」です。
欧州サッカー協会のお偉いさんと一緒でしたのでVIP送迎の車に乗って行きましたが、都心を離れて埼玉スタジアムに行くにもかかわらず、首都高速が渋滞で、大幅に時間がかかりました。キックオフには何とか間に合ったものの、危うく遅れるところでした。電車で行かれた多くのファンにとって渋滞は無縁でしょうが、いずれにせよ都心から遠すぎます。
Jクラブが約10年ぶりにアジア制覇を成し遂げられるかもしれないという、日本サッカー界にとって大事な一戦ゆえ、日本を代表する都市である東京のど真ん中でやってほしいと思ったのは、私だけではないはずです。
もちろん新国立競技場ができたらそこで開催可能になるかもしれませんが、サッカー専用競技場ではないので、臨場感が違います。やはり、欧州を代表するクラブを抱える大都市ロンドン、マドリード、バルセロナのように、街の真ん中のアクセスの良いところにサッカー専用スタジアムが欲しい、と改めて思った次第です。
これは莫大な資金と政治力を要する大事なトピックですので、またの機会にでも触れたいと思います!
(写真:赤坂直人/アフロ)