[ミラノ 5日 ロイター] - 欧州ではマクロ経済と企業利益が改善し、政治不安は後退している。それにもかかわらず投資家は、米銀に比べて欧州銀の株式保有拡大には腰が重い。大きな理由は、欧州の金融システム強化に向けた規制面の取り組みのタイミングや範囲に不透明感が広がっていることだ。

今年前半は、フランス大統領選にマクロン氏が勝利して政治リスクが払しょくされた上に、景気回復が予想を上回るペースで進んでいるデータが示されたため、欧州株は値上がりした。

ところが足元を見ると、欧州中央銀行(ECB)とバーゼル銀行監督委員会がそれぞれ整備に動いている規制が欧州銀に新たな資金調達を迫り、配当に悪影響を及ぼしかねないとの懸念が台頭し、銀行株は伸び悩んでいる。

メディオバンカ・セキュリティーズの銀行アナリスト、アンドレア・フィルトリ氏は「規制が正真正銘の障害だ。経済の話であれば、投資家は銀行株を買っている」と話す。

多くの投資家にとって最も気掛かりなのは、ECBが10月に示した銀行に不良債権引当金の積み増しを求める提案だ。財務基盤の弱い銀行であれば、実行するために株主に増資を要請せざるを得なくなる。

このルールにイタリア議会は猛反発し、中小企業向け融資を妨げ、ひいては経済成長を阻害する恐れがあると主張。欧州議会の一部からは、ECBの過剰な権限行使だとの声も出ている。

新ルールの実施予定は来年1月1日だが、ECB銀行監督委員会のダニエル・ヌイ委員長は先週、反対意見が強いことから準備が整うまでにはさらに数カ月必要だと発言した。複数の関係筋はロイターに、最長で1年延期される可能性もあると語った。

バーゼル銀行監督委員会が主導する新銀行自己資本規制が最終的にどうなるかまだ固まっていないという問題もある。

シティ・リサーチのアナリストは、今は640億ユーロの資本余剰がある欧州銀は同規制によって最悪なら1620億ユーロの資本不足に転じる恐れあると試算した。

ブランデス・インベストメント・パートナーズのルイス・ザウアーブロン氏のようなポートフォリオマネジャーは、視界が晴れてくるまでは欧州銀の投資を資本が十分な先に限定している。ザウアーブロン氏は「非常に不確実性が大きい。われわれは規制当局が何を考え、もう決断をしたのかどうか知りようがない」と述べた。

<米銀に見劣り>

欧州銀が規制強化に直面している半面、米連邦準備理事会(FRB)は米銀に対する規制緩和と示唆し、既に余剰資本を株主に還元するのを認めている。またFRBが利上げに着手しているのに比べ、ECBはずっと先まで利上げしない意向をにじませている。

こうした状況からEPFRグローバルによると、今年は米国の金融セクター投資ファンドへの資金流入が急増し、11月には累計120億ドル強に達した。一方で欧州への資金流入は頭打ちとなり、11月までの累計は40億ドルだった。

欧州銀の株価は5月のピークからの下落率が5%と、欧州市場全般の2倍を記録。この間米銀株は17%も値上がりした。

米国は伝統的に欧州よりも銀行監督が厳しかったため、米銀の方が欧州銀よりも資本手当てが進んでいることも、ザウアーブロン氏などの投資家が米銀はより安全と判断する根拠となっている。

そうした実情も踏まえたECBの引当金積み増しルールは、ユーロ圏の不良債権の3分の1近くを抱えるイタリアの銀行が主な対象と言える。欧州銀行監督機構(EBA)のデータでは、イタリアの銀行の不良債権比率は12%と、欧州連合(EU)平均の4.5%をはるかに上回る。

カルミニャックのグローバル金融機関アナリスト、マシュー・ウィリアムズ氏は「方向性ははっきりしている。ECBは相応の期間内に欧州銀の不良債権比率を(軒並み)1桁台に抑え込むことに非常に力を注いでいる」と指摘。イタリアの銀行をECBの狙い通りにするには200億─250億ユーロの追加資本が必要で、その点からすると現時点でイタリアの中小銀行に投資すべきかどうか確信は持てないと述べた。

ウィリアムズ氏は、バーゼル委員会の新銀行自己資本規制が正式発表された場合、多くの銀行が特別配当を支払う能力を失いそうなことから、当初の市場の反応は良くない可能性があると予想した。

ただ正式発表で安心感が得られてもおかしくないとの声も聞かれる。メディオバンカのフィルトリ氏は顧客向けノートで「新銀行自己資本規制を巡るもやもやが払しょくされることは、これまでずっと規制面の不透明感に悩まされてきた欧州銀セクターにとってプラスに働くだろう」と説明した。

(Danilo Masoni記者)