【2018年特集】社会の大動脈「物流」の進化は世界の発展に直結する

2017/12/21
2015年、国連は161の加盟国首脳陣の承認のもと、世界が向き合うべき17のゴールと169のターゲットからなる「SDGs」を採択した。国際社会が掲げるグローバル課題に対し、ビジネスを通じて解決を図るのが住友商事だ。SDGsを経営の主軸に据えた住友商事の“未来につながる事業”をひもとく。
製品や原材料などを供給者から需要者へと移動させる物流インフラは、社会と産業を支える“動脈”にも例えられる。
陸運、海運、空運──社会が豊かになり生産者と消費者が積極的に活動するほど、流通する物資量は増加し、それらが広く行き届くことによって、経済はさらに発展していく。
途上国・先進国に共通したSDGsのゴールのひとつである「働きがいも経済成長も」の礎となるものが、まさしく物流だ。物流網の発達によって、社会はどのように変わるのか。
物流戦略のプロであるイー・ロジット代表取締役社長の角井亮一氏と、住友商事物流事業部長の安部賢司氏に、これからの物流の未来について語り合ってもらった。

貨物量はGDPの2倍に比例する

──まずは、物流ビジネスが社会や産業に与える影響をあらためて教えてください。
角井:一言で物流といっても範囲は広いですが、我々が生きている社会のほぼすべてのビジネスが、物流という仕組みの上に成り立っています。国内だけで見ても、物流業界の市場規模は20兆円を超えており、全GDPの約5%を占めている巨大産業です。
市場で仕入れた新鮮な食材をトラックで運ぶのもそうだし、海外で発掘したエネルギーや鉱物資源を貨物コンテナ船で運ぶのもそう。規模や距離は違っても、あらゆる産業に「物を運ぶこと」は必須の要素です。
安部:つまり物流というのは、企業にとっては競争力の源泉であり、社会にとっては発展のための土台です。
製造業でいえば、優れた機械設備があっても材料がなければ製品は作れません。またそれが欲しいと思っても、運ばれてこないものは手に入りません。
日本は世界トップクラスの物流網が張り巡らされた国ですが、たとえばアジアの新興国・途上国などのなかには、まだまだ物流インフラが整備されていない国、発展の余地が大きい地域が多くあります。
人口が増加している国は、それに応じて消費も増え、所得が増えるので、物流が増加する傾向にあります。
ある意味、物流インフラの整備が、消費者サービスのレベルアップ、生活の豊かさへつながると言えるでしょうし、経済発展のボトルネックになり得るとも言えるでしょう。
角井:産業がある所には必ず物流がある。住友商事さんは、電力が十分に供給されていない地域でも物流インフラ構築から手がけて、グローバルな物流網を築くことができる数少ない存在です。もはや国を代表して途上国の物流開発を行っているのに近いと感じますね。
安部:たとえばアジアのGDPは日本などに比べると大変高い成長率となっていますが、貨物量はGDPのおよそ2倍で増えていくという考え方もあります。
貨物の移動の増加に応じて、港湾や鉄道、道路、物流施設の整備など、我々総合商社として貢献できるポイントは非常に大きいと考えています。
住友商事の物流事業には2つの領域があって、ひとつは世界中のさまざまなお客様から相談を受けて、総合的な物流ソリューションを提供すること。もうひとつは、住友商事および住友商事グループでそれぞれの事業が必要とする物流の仕組みを構築することです。
地球上のどこかで事業を起こすにあたり、そもそもどのようなサプライチェーンを構築することができるのか。国によって事情も環境も異なることを踏まえて、常に最適なソリューションを提供しなければいけません。
角井:その国・地域での生産活動を大本から支える取り組みですね。
現在、世界の海で1年間に運ばれるコンテナの量は、20フィートコンテナ換算でおよそ1億2000万〜1億3000万個と言われる。

2030年までに物流は自動化するか

──今春には、自動運転やドローンなどの活用によって、2030年までに物流を完全無人化するという政府方針も発表されました。
角井:日本国内に暮らす私たちの生活に最も身近な物流といえば、やはり宅配便ですよね。この分野だけを見ても、不在配達によって現状2600億円もの無駄が出ていると言われているので、これをテクノロジーで解決しようという動きは当然あります。
たとえば消費者が持つスマホのGPS機能を使って、自宅以外の場所で荷物を受け取れるようにする、などというのも一案です。
安部:角井さんがおっしゃるように、テクノロジーの活用で確実に荷物を届けられるようになり、人手不足も解消していく側面があると思います。また、ロボットの導入などで、物流センター内のオペレーションの効率化を図るのも、そうした取り組みの一例ですよね。
物流におけるテクノロジーは今、大きな変革期にあります。自動認識技術やAI、IoT、ロボット技術等が急速に進歩しています。
我々もショップチャンネルなどの大規模な物流センターを運営していますが、そうした新しい技術をいかに現場で実際に活用していくか、さまざまな実験を進めています。
角井:海外の物流センターへ行くと、意外と日本語がそのまま定着した用語があることに驚かされるんです。たとえば「カイゼン(改善)」とか、「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」とか。
つまりはそれだけ日本企業の物流ノウハウが伝わっているということですね。
安部:物流において技術的には完全自動化が可能になっていくと思いますが、一方でそれぞれの現場ごとに対応しなければいけないことが非常に多いのも事実です。
ですから、すべてを自動化するのが必ずしもベストではなく、あらゆる選択肢の中から自動化、ロボット化やマニュアルを組み合わせて、トータルシステムとしての物流をいかに構築するか、そのデザイン力、提案力がますます大切になっていくと考えています。
また、ロボットやRFID(※ICタグに記憶された個別情報を無線通信によって読み書きする自動認識システム)などがもっと活用されるようになれば、そこで働く人は今より楽になって、でも作業の生産性や正確性は向上していくといった楽しい職場作りにもつながっていくでしょう。
角井:まさにAI、IoTで変わっていく領域ですね。しかしそれでも、人の力や能力がまったく介在しなくなることはないでしょうね。
ドローンによる荷物の運搬・仕分けなど、物流センター内での活用が期待されるテクノロジーは多い(写真はイメージ)。

新しい物流が企業の競争力を変える

──海外ではUberによる物流が始まっているように、物流の進化によって新たな産業が生まれる可能性も考えられそうです。
角井:そうですね。なにしろ中国では、宇宙経由で物を運ぶ事業が研究されているくらいですから。
安部:我々も今年、Automated Freight Brokerといわれる新たなトラック輸送業態を展開する米国のスタートアップ企業、トランスフィクスに出資しました。
また、グローバルで見れば、製造業の現場では世界中から部品供給が行われていますから、サプライ・チェーン・マネジメントがますます高度化しています。在庫管理やトラッキングなどにおいてICTによるリアルタイムの拠点間連携が急速に進められています。
角井:そうしたトレンドの中で、製造業と小売業、あるいは卸売業などが一体化する流れもありますが、特に在庫管理は企業にとって大きな問題です。
拠点が分散すればそれだけ在庫リスクも増しますから、それを一極集中させることでコストカットを果たし、その分を原材料費に回すことで、よりいいものを安く消費者に届けられるという好循環につながります。
たとえばZARAはすべての製品を一度、スペインの物流センターに集約する流れを構築していますが、かつてはアパレル産業が空輸で製品を運ぶという発想はあり得ませんでした。
──住友商事の液体輸送向けコンテナ「MAXICON」などは、物流事情の変革に寄与する発明ですね。
安部:「MAXICON」が開発されたのはもう20年以上前のことですが、ここへ来て国内市場で急成長しているんです。簡単に説明すると、内側にライナーバッグという袋を入れて液体を格納できるコンテナで、主に食品や化粧品などの運搬に活用されています。
角井:面白いですね。国際輸送にも対応できるんですか?
安部:実際にそういう使い方をされているメーカーさんも存在します。1000リットル、500リットルのコンテナを用意していて、タンクローリーなどを使わず小ロットで液体を運べることで、さまざまな用途が生まれています。
角井:越境ECの促進などによってグローバル物流でも小ロット化が進んでいるのは、まさに追い風ですよね。時代にマッチした、非常によく考えられた設計だと思います。

新興国の物流量はさらに増大する

──SDGsのゴールとして設定される2030年には、世界の物の流れはどのように変わっているのでしょうか。
角井:国内の物流に関しては、急速にロボット化が進められていくはずです。また、配送の面では、やがて高速道路を走るトラックはすべて無人化するのではないかと思います。
そうなると、そのトラックの所有者は運送会社ではなく自動車メーカーに変わり、もしかすると物流業者は取次の立場に変化するかもしれません。
実際、トヨタがUberほかシェアリング関連に多く投資をしているように、自動車業界は車が売れなくなる時代を見越していますから、業態は大きく変わるでしょう。
安部:現在のスピードで進化していけば、国内の物流は2030年には相当変わっているはずです。
我々にとっては大きなチャンスです。新しい技術の取り込みやスタートアップ企業との提携や出資にもどんどんチャレンジしていきたいと思っています。これらは個人的にも非常に意欲を感じるテーマです。
一方で、新興国では物流インフラが急速に立ち上がっています。物流を整備することが、結果としてその地域の人々に豊かさをもたらしていることは随所で実感しています。
角井:確かに、私は2011年から東南アジアを回っていますが、ここ4~5年でそのあたりの事情は大きく様変わりしたと言えます。
安倍:物流のスループット(※単時間当たりの処理能力)が、経済発展を大きく左右するのは間違いないと思います。新興国では、物量が相乗的に10倍、100倍になるケースも決して珍しくありません。
食品から自動車までさまざまな分野で社会との接点を持っている総合商社として、新たな物流の未来をつくるつもりで、これからも多様なビジネスニーズに取り組んでいきたいと思います。
(編集:呉琢磨、構成:友清哲、撮影:岡村大輔、デザイン:九喜洋介)