【2018年特集】石油資源は枯渇するのか。エネルギーを未来につなぐ方法

2017/12/18
2015年、国連は161の加盟国首脳陣の承認のもと、世界が向き合うべき17のゴールと169のターゲットからなる「SDGs」を採択した。国際社会が掲げるグローバル課題に対し、ビジネスを通じて解決を図るのが住友商事だ。SDGsを経営の主軸に据えた住友商事の“未来につながる事業”をひもとく。
現代社会の生活、そして産業を成り立たせるエネルギー基盤として、石油や天然ガスなどの化石資源は不可欠だ。だが、その埋蔵量は有限であり、20世紀後半から「このペースで消費が進めば、数十年後にエネルギーは枯渇する」といった警鐘が鳴らされてきた。
しかしながら、21世紀になった今でも世界のエネルギー基盤はガスや石油が中心だ。その背景には、たゆまぬ技術革新による「可採埋蔵量」の増加がある。
テクノロジーの進化で人類の深刻なエネルギー危機はひとまず先送りされた格好だが、ここにはCO2排出という別の課題が存在する。SDGsが掲げる目標設定に呼応し、世界が求めるエネルギー環境は大きく変容しつつある。
エネルギー自由化を推進するRAULの江田健二氏を迎え、住友商事 鋼管本部長の横濱雅彦氏と共に、これからのエネルギー事情について語り合ってもらった。

世界の産業基盤としての化石資源

──世界のエネルギー産業において、住友商事はどのような役割を果たしているのでしょうか。
横濱:我々が手がける鋼管事業は、エネルギー開発に欠かせない採掘資材である鋼管、いわゆるパイプを取り扱っています。
なかでも大きなものが、石油・ガスを地下からくみ上げる油井管(ゆせいかん:石油ガス採掘用の鋼管)。そしてくみ上げた石油・ガスを遠隔地まで送るためのラインパイプです。
ひところ盛んに叫ばれていた石油の枯渇論は、その時点での可採埋蔵量をベースに、将来予想される消費ペースから割り出した推計によって生まれたものです。
油井管をはじめとした採掘資材や操業技術の発展により、これまでは技術的に採掘が困難とされていた油田からも石油を取れるようになったことが、可採埋蔵量の増加に直結しています。
海底油田など、かつては困難だった採掘が技術発展により可能に。確認できている可採年数は、石油が51年、天然ガスが53年(出典:BP統計2016)。photo by  / Harald Pettersen © Statoil.
江田:地球上にある化石燃料の埋蔵量自体は、どうやっても変えようがない。石油の枯渇が懸念されなくなったのは、ひとえに技術の向上による可採埋蔵量の増大に尽きますね。
ガスや石油の重要性は今後も不変だと思いますし、発展途上国については住友商事さんのような海外パートナー企業と連携しながら、一層の開発が進められていくはずです。
横濱:そうですね。世界の石油・ガス産業は、オイルメジャー(国際石油資本)と呼ばれる欧米の巨大複合体企業が独占していた時代が長らく続いていましたが、中国や中東、南米といった資源国の国営石油企業の台頭により、その勢力図は大きく変化しています。結果的にオイルメジャーも再編が進み、戦略も変わってきています。
かつては石油の探査・採掘・生産などの上流部門から、輸送・精製・販売などの下流部門までの全ての工程とそのサプライチェーンをメジャー自身が自社で手掛けていました。
しかし、メジャーの本業は石油開発であり石油精製。ここに必要となる資機材やサービスは専門家に任せた方が効率的でコストも下がることに気づいたわけです。
日本では石油・ガスの生産規模が小さいため目立ちませんが、ひとたび世界のエネルギー開発市場に目を向ければ、油井管やラインパイプには膨大な需要があります。
そのなかで、当社は全世界に鋼管のバリューチェーンを展開し、オイルメジャーや国営石油会社をはじめとする世界の巨大石油資本とのビジネスに携わっています。

尽きることない世界のエネルギー需要

──住友商事が手掛ける鋼管事業は、具体的に世界でどのように展開されているのでしょうか。
横濱:世界の代表的なオフショア開発の現場でいえば、アメリカのメキシコ湾、ヨーロッパの北海、西アフリカ、マレーシア沖、豪州……など、あらゆる地域で品質の高い日本製の油井管を当社が供給しています。
もちろん、油井管製品そのものはメーカーさんの技術力が競争力の源泉ですが、マーケットリサーチや顧客要求の掌握を通じて我々もその製品開発のお手伝いをしています。また単なる輸出販売にとどまらず、在庫オペレーションや製造・加工にまで当社独自のサプライチェーンを広げています。
ときに地中5000mを超える深さへ埋められる「油井管」は想像を絶する圧力を受けるため、安全な掘削に耐える品質と適切な関連サービスが不可欠。Photo by Ole Jørgen Bratland © Statoil.
江田:流通だけでなく、エネルギー開発をトータルにサポートしていくスタンスですね。石油採掘に用いる油井管は「縦のパイプ」ですが、一方で、それを輸送するための「横のパイプ」、いわゆるパイプラインについても、私は商社ならではの強みが活かせる領域だと感じます。
というのも、パイプラインは数百km以上にも及び、なかには国境を越えるものも少なくない。
これを敷設するのは、当然ながら民間企業だけでは不可能な事業で、各国の政府をはじめとした多くのステークホルダーと利害を調整する必要があります。その点は、まさに商社のネットワークと調整力が生きる部分ではないでしょうか。
横濱:おっしゃるとおりで、パイプラインの敷設は国家間の調整が伴う特殊な事業です。現在、我々はパイプや付帯加工の供給側から各国のパイプライン事業に関わっていますが、パイプラインというのは敷いて終わりではなく、その後の運用保守も重要です。
たとえば、1000km以上に及ぶ長いパイプラインが通っているところでは、随所でエネルギーの盗難が発生するということもあります。そうした被害を防ぐためにIoTのセンサーを実装したり、ドローンを飛ばしたりといった試みが実際に始まっています。
グループ全体としては、こういった保守管理や点検補修などの面でも新しいビジネスチャンスを見いだしていきたいと思っています。

新たな採掘領域が日本のチャンスに

──自国で資源が採掘できる国は、今後いっそう大国化が進むことが予想されます。日本をはじめとする周辺国はどう対応すべきでしょうか。
江田:日本企業が関わるプロジェクトとしては、今年の末頃より新たにアメリカからの天然ガス輸入が新たにスタートします。つまり、供給を中東だけに依存せず、輸入元を分散させることでリスクヘッジする動きが、もう始まっているんです。
先ほども少し触れましたが、エネルギーというのは、実は一般の人々から見えにくいところで日本企業が大きく貢献している分野です。
海底油田やシェールガスなど難易度の高い事業がさらに活発化すれば、いっそう日本のチャンスも増えていくでしょう。将来的な日本の競争力を支える意味でも、重要な分野と言えます。
横濱:一方で、自国に資源があれば絶対に安泰かというと、そうではありません。産油国のなかでは、資源が豊富にあるが故に、石油以外の産業が国内に育っていないという課題も出始めています。
我々の鋼管事業のグローバルオペレーションでは、各国で進めるサプライチェーンを含め、世界5カ国の拠点を軸に、世界で約4000人の仲間が働いています。そのうち日本人は約400人余り。つまり、約90%が現地で雇用した社員や事業会社の経営者で運営しています。
世界各地の拠点には、鋼管のSCMに必要な資材が集積されるベースが展開されている。
これにより、たとえばノルウェーで育成した人材を米国へ異動させ活躍してもらうといった人材のダイバーシティも生まれています。一昔前は、日本の本社からの駐在員に頼っていましたから、これも大きな変化です。
江田: 日本は素晴らしい要素技術はあったのにIT分野で後れをとった過去があります。日本には高い技術力があるわけですから、エネルギーの分野にはまだまだモノづくりの力を発揮するチャンスが多々あるのではないかと期待しています。
横濱:そうですね。環境保全を考える際、たとえば石炭の消費を伴うエネルギーへの風当たりが強まっていますが、世界にはインドや中国のように、石炭が自国で豊富に採れる国もあります。それらの国に対して「石炭を使うな」とするのは先進国のエゴになりかねません。
一方で、日本には石炭によるCO2排出量を抑える先進技術がありますから、このテクノロジーを輸出して活かすことも、地球環境への貢献だと思います。製品だけでなく、日本の環境対策や省エネのノウハウも輸出できる可能性があるということですね。

再生可能エネルギーへのブリッジ

──再生可能エネルギーの台頭が、世界のエネルギーの需給バランスにどう影響を及ぼすか、というのも気になるテーマです。
江田:ヨーロッパを中心に、再生可能エネルギーが急速に普及しているのは事実ですし、欧州メジャーも再生可能エネルギーの推進に舵を切っています。また、ご存じのように日本でも国が補助金制度などでそれを後押ししています。
それでも、向こう30年程度のスパンで考えても、ガスや石油が使われなくなる世界というのは、ちょっと考えにくいでしょう。シェールガスやシェールオイルといった新たな資源も見つかっているわけですし。
再生可能エネルギーはもちろん素晴らしいですが、それだけで世界のエネルギー消費を賄うことは難しいのが現実です。両者を有効に併用することが、効率的な産業発展や経済成長にとって不可欠だと思います。
横濱:江田さんもおっしゃるように、再生可能エネルギーの利用を促進することに異論はありません。ただ、インフラ整備の問題や、技術面などでまだ課題があることも事実です。
風力にしても太陽光にしても、その経済性は政府の補助金を必要とするケースも多く、クリティカル・マス(一気に普及する分岐点)にはまだ届いていません。
また、世界には未電化地域を含めて、エネルギーの供給が十分に行き届いていない国や地域が少なくありません。
理想と現実のバランスを踏まえながら、まずエネルギーを安定して届けることが我々の事業の社会的価値であり、世界の発展に寄与すると考えています。
江田:唐突な転換は現実的ではないわけですから、中長期的にブリッジとなる方法を考える必要があるでしょうね。
横濱:私自身は10年来の天然ガス信者なんです。必ず天然ガスの時代が来ると言い続けている。石油と比べてCO2排出量が少なく、採掘や処理におけるテクノロジーも高いレベルにありますからね。
江田:ただ、ガスの場合はいくつか問題がありますね。取引市場についてはいかがでしょうか。
横濱:確かに、天然ガスは各国それぞれに市場が存在してはいても、石油と違いグローバルで共通の市場がまだありません。これは性質上、輸送や貯蔵に大きなコストが発生するためでもありますが、地産地消や個別契約で取引されている状況です。
それでも天然ガスは、石油から再生可能エネルギーへの移行期間のブリッジエネルギーとして、まだまだ成長するポテンシャルが十分にあると私は見ています。

次の100年のエネルギーを確保する

──持続可能な社会作りを念頭に置きながら、日本は今後どのような立ち位置からエネルギー問題に向き合うべきでしょうか。
江田:日本国内では、現在は発電の方式について、あれこれ意見が交わされている状況です。しかし、エネルギーに限らず、物事は必ずしもはっきり白黒つけられるわけではありません。
人類全体の歴史から考えれば、極めて短い期間で世界は驚くほど豊かになりました。つまり、先のことは誰にも予想できず、もしかすると今ベストと言われる再生可能エネルギーも、半世紀後には何らかの問題が生じているかもしれません。
横濱:思いもよらない変化というのは、常に付き物です。だからこそ、総合商社のネットワークやアンテナ力を最大限に発揮して、取引先にとって代替不可能な存在になっていかねばなりません。
前例にとらわれず時代の先を読み、多角的な視点から当社の持つケイパビリティを活かせる人材がますます重要になってきます。
江田:「次の100年間をより良い社会にする」という強い意識を持っているかどうかが問われると思います。今後、エネルギー産業と国際社会の関係性のなかで、多彩な人材を持つ住友商事の活躍に期待しています。
(編集:呉琢磨、構成:友清哲、撮影:岡村大輔、デザイン:九喜洋介)