(Bloomberg) -- 野村証券の初代外国為替部長を務めた大柿敦郎氏と、JPモルガンの為替オプショントレーダーだったダミアン・ロー氏が、人工知能(AI)を使ったヘッジファンドを来年1月にも始める。日本国内外の投資家から7500万ドル(約83億円)を目標に集め、運用する予定。

両氏はAI先進国を目指すシンガポールで「アンサンブル・キャピタル」を設立。当初は為替オプションで運用する。例えば豪ドルとニュージーランドドルのクロスレートには鉄鉱石や牛乳の価格変化と関係があることが、これまでのトレーダーとしての経験で分かっている。こうした経験などに基づいて当初約200のデータを使い、季節性や資産間の相関、経済統計モデルなどで分析。AIが為替の動きの方向と幅、確率、期間を予想する。

これを基に大柿氏とロー氏が最適なトレードのウエイトや組み合わせを決める。大柿氏によると、収益の三分の二程度がAIが出すシグナル、残りは人間が決めたオプション戦略が貢献する。

個人富裕層やファミリーオフィス、機関投資家などから資金を集め、運用を開始。収益率は年率15%以上を目指し、目標通りのリターンが上げられれば10年間で運用額50億ドル(約5500億円)も可能とみている。過去10年間にさかのぼってテストした結果は、報酬控除後の年率複利で12.7%、リスクに対する収益性を示すシャープレシオは1.34だった。

同社がモデル開発で一番こだわったのは、株式相場との相関関係を減らして、どんな局面でも安定的にリターンを上げること。テストの結果を見ても08、09年の世界金融危機時や15、16年のチャイナショック時はS&P500種指数との相関はマイナス。一方、10-15年の株式相場の上昇時はプラスだった。来年は日米中央銀行のトップ人事、米中間選挙が控える「激動の年だ」として、大柿氏は「本来のオルタナティブ投資が生きるのではないか」と意気込む。

当初はG10とアジアの通貨オプションで運用するが、モデルが実際の運用で収益が上げられ、他のアセットにも適用できると確信できた場合は、流動性のある金利オプションや金利スワップ、コモディティ、株式指数なども運用対象にする。

シンガポールの利点

同社は米エヌビディアの創業支援プログラムでシンガポール第1号の認定を受けた。エヌビディアはAIの心臓部分である演算装置GPUで世界7割のシェアを持ち、今回の認定によりアンサンブルはGPUテクノロジーやハードウエアを安価で得られるほか、AI関連人材の採用がしやすくなったという。大柿氏は、通常ヘッジファンドはスタートレーダーを雇うことに投資するが、「資金が許す限りたくさんのデータサイエンティストを雇う」と話す。

すでにアジアの大学1位のシンガポール国立大学を上位の成績で卒業する学生1人を採用。そのほかにデータサイエンティスト、深層学習のスペシャリストを来年2月ころまでにあと2人採用する予定で、計7人体制となる。

大柿氏は1988年にチェース・マンハッタン銀行(現JPモルガン)入行、為替オプショントレーディングに携わり、10年に野村証券に移籍し、為替ビジネスの立ち上げに従事。東京外国為替市場委員を4年間務めた。ロー氏は02年からJPモルガンで為替オプショントレードに携わり、在職中の15年間プラスの収益を上げ続け、リーマンショックや2015年の人民元切り下げの時期に最高益を記録した。両氏とも大学ではコンピューターサイエンスを専攻した。
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