いつかW杯で勝つため、“弱小”日本に必要な戦略立案の一歩目

2017/11/21
ついに、来年開催されるロシア・ワールドカップに出場する32チームが決まりました。
アメリカ、オランダ、チリなどのワールドカップ常連の強豪国が予選敗退、と番狂わせが多くメディアを騒がせました。特に、ワールドカップ優勝国である強豪イタリアの予選敗退は、ただいま出張中のここ中国のメディアでも大きく取り上げられ、中国のサッカーファンの間で大きな話題となっていました。
時を同じくして、日本代表がブラジルやベルギーと欧州で親善試合を行いました。ベルギーには善戦したものの、2戦とも敗れたのに加え、ブラジル代表(セレソン)には惨敗したためか、メディアでの酷評が目立ちました。
しかしながら、「強いだけではなく美しくなければサッカーでない」を信条とするセレソンを幼いころより愛してきたセレソンファンかつ欧州サッカーを生業とする身からすると、ある意味驚きのメディアの反応でした……。
正直に言うと、
「そもそも、日本って、そんなに強かったっけ?」
「ワールドカップ最多優勝国ブラジルや世界ランキング5位のベルギー相手にこの結果は、ある意味当然な感じでは?」
といった感想を抱かざるを得ませんでした。

現在地の把握が肝

なかなか結果が出ないチームに対して、メディアが活を入れるのは当然ですし、必要なことでもあるので、否定するつもりは毛頭ありません。
ただ、もし「日本は、本当はもっと強いはずだ」という半ば勘違いとも言える視座から、論理の展開がスタートしているのであれば、それだけは避けるべきだと思っています。
イタリア、オランダ、チリ、アメリカなどの強豪国すらワールドカップに出場できないような熾烈な世界のサッカー界において、少なくとも現時点においては、日本は「弱小」にすぎないのですから……。
パフォーマンスを改善するための戦略立案を行う際に、まず自身の現在位置の正確な把握が肝になるのは、ビジネスに限らず、サッカーも同じはずです。

長期的プランの必要性

ワールドカップ出場国が出そろう少し前ですが、出張で日本に行きました。
時を同じくして、ブンデスリーガの友人が、レジェンドツアーで日本にいましたので、彼と一緒に講演イベントを行い、ピッチ内外で長期的な成功を収めているブンデスリーガの近年の発展について、日本の皆さんにお話をしてもらいました(アジア人初の欧州プロサッカー選手として、1970年代後半にドイツに渡り長いことブンデスリーガで活躍された奥寺康彦さんが、日本でブンデスリーガを盛り上げていくレジェンドとして任命されました)。
「2000年欧州選手権(ユーロ)におけるグループステージ敗退という大きな挫折が、近年のドイツサッカー発展の転換期となった」とのことでした(ワールドカップで何度も優勝しているイタリアですらワールドカップ出場を逃す熾烈なサッカー界において、「ユーロのグループステージ敗退が大きな挫折」とは、日本のような弱小国からすると羨ましいばかり、と聴衆の前にて冗談で対応しておきましたが……)。
その2000年の挫折を機に、ドイツサッカー協会、ブンデスリーガ、クラブが一丸となって、育成と強化の革新を続けてきたからこそ、欧州における近年のブンデスリーガのクラブの躍進、そして2014年ワールドカップ優勝に繋がったのだ、とのことでした(当然の如く聞こえるかもしれませんが、実は、多くの国において、協会、リーグ、クラブは複雑な利害関係にあり、共通目標に向かって一丸、というのはなかなか見られない現象です)。

日本がドイツに追いつくために

2000年から2014年ですから、実に14年間かかっています。
日本の場合、1993年に始まった初のプロサッカーであるJリーグを転換点だとすると、Jリーグが始まってから、24年経ちました。
ただ、この14年と24年を比べることはできません。サッカーの歴史的な背景がまったく異なるからです。
ドイツ代表の場合、近年のドイツサッカー躍進の転換期となった2000年ユーロでの挫折前には、すでにワールドカップで3回も優勝している世界サッカー界の超強豪国でした。
それに対して日本は、1993年に初のプロリーグが開始。1998年の初出場以来、これまでワールドカップ5回出場(ブラジルのような優勝回数ではなく、出場回数です)。ワールドカップのグループステージ突破は、今までたったの2回しかありません。確率的に言うと、現時点においては、決勝トーナメントに進出できないのが普通のチームにすぎないのです。
少しネガティブなトーンに聞こえるかもしれませんが、日本が弱いと批判したいわけではありません。進化し続ける強豪がひしめく世界のサッカー界で勝ち抜いていくためには、「並大抵ではない努力」と「途方もない時間が必要」ということを、私含めた日本のサッカーファンや関係者が重々理解する必要があると思うのです。
繰り返しますが、ワールドカップ5回優勝のブラジルに次ぐ4回優勝を誇るイタリアですら、ワールドカップに出られないような過酷な競争社会です。
同じく強豪ドイツは、上記に挙げたように、近年目を見張る躍進を続けています。1990年イタリア・ワールドカップでの3回目の優勝時には、歓喜に沸くローマにて、当時のベッケンバウアー監督(選手としても1970年ワールドカップで優勝したドイツサッカーのレジェンド)が、「今後、しばらくワールドカップのトロフィーがドイツを離れることはないだろう……」と、有名なコメントを残しました。
しかし、そう自負してもおかしくない圧倒的な強さを誇ったドイツですら、4回目の優勝を果たすためには、その後24年もかかったのです。
世界のサッカーの歴史は長く、強豪国への道のりは決して簡単なものではありません。
Jリーグが始まって以来の日本サッカーの歩みは胸を張って良いものだと思います。
ただ、日本サッカーの現在位置を見誤ってはいけません。進化をし続ける世界のサッカー界を根気強く地道に研究し続けて、臥薪嘗胆の気持ちで育成と強化に取り組み、「並大抵ではない努力」と「途方もない時間」をかけて初めて、何とか強豪への道筋が見えてくるのだと思います。悲観的にも、楽観的にもならずに、忍耐強くやっていきましょう!
2014年ワールドカップの時のように、メディアとファンが一体となって日本サッカーの実力を勘違いし、ワールドカップに挑むようなことだけは避けなくてはなりません。
いまの日本サッカーに必要とされるのは、日本が古来得意としてきた「謙虚で忍耐強い圧倒的な努力」です。2018年ロシア・ワールドカップも厳しい戦いが予想されますが、叱咤激励しながら、応援しましょう!
Go Japan!
(写真:千葉格/アフロ)