英国最大のオンライン食料雑貨店では以前、食料品50点を箱詰めするのに2時間かかっていた。それが今では5分でできるようになった。

倉庫内を走る1000台のロボット

英国最大のオンライン食料雑貨店であるオカド(Ocado)は2017年、ひとつの節目を迎えた。農産物、肉、乳製品など50品目の注文を5分で箱に詰められるようになったのだ。
以前の施設だと、同じ注文の対応に平均で2時間ほどかかっていた。しかし今では、1000台のロボットが倉庫内を走り回り、つかんで持ってきた商品を人間が詰めるという方式になった。
こうしたブレークスルーは、食料雑貨ビジネスの現代化の促進につながる可能性がある。
食料品のオンライン購入を衣料品や家電と同じくらいシンプルで当たり前のものにしたいと、この業界は考えている。しかし、生鮮食料品の注文に収益を出しながら高い信頼性で迅速に対応するのは非常に難しい。
先日、ホールフーズ・マーケットを買収したアマゾンもこの問題を解決できておらず、最近、米国の複数の州でアマゾン・フレッシュのサービスを停止した。
17年前にロンドン近郊のハットフィールドで設立されたオカドによると、それぞれに異なる食料品の注文を大量に扱うには自動化しか方法はない。ロボットは、そうした同社の自動化手段における最新の戦力だ。オカドは同時に、自らが開発したソフトウェアとハードウェアを、他の小売業者に対して販売もしている。
こうしたロボットシステムの販売に関しては、これまでのところ確かな手応えはない状態だが、最高技術責任者のポール・クラークは次のように語る。
アマゾンのホールフーズ買収によって「見込顧客との議論において切迫感が高まっているのは確かだ。世界が変わりつつあり、可能な限り早くオンラインに移行する必要があることが明確になった。自ら17年間かけて革新することなくこのビジネスに参入できる方法に関心が集まっている」。
ロボットに投資をしたくない、あるいはできない食料雑貨店に対しても、オカドはウォルマートが使っているような店内のピッキングシステムの設定に役立つソフトウェアを提供し、最終的にはパッケージ全体を購入してもらうことを目指している。
現在、食料雑貨店のほとんどはオンライン注文に手作業で、つまり労働集約的な努力で対処している。
「人間が倉庫の通路を歩いて回り、ひとつずつカートに入れていく。これはベストの方法とは言えない」と、ABIリサーチでロボティクスのリサーチディレクターを務めるダン・カラは語る。

ゴールドマン・サックス出身の3人

オカドは最初から自動化を取り入れた。設立したのはゴールドマン・サックスのマーチャントバンカーだった3人で、最初は棚の間を一種のトロッコが移動し、停車すると従業員が降りて必要な商品を取るという方式だった。
しかし、並行してエンジニアが自動化技術の開発を進め、2年足らずでコンベヤーベースのシステムに移行した。それからもソフトウェアの改善を継続し、食料の入った大箱を棚に移動させるクレーンなどさまざまなマシンを追加していった。
約1年目にオープンしたオカドの最新施設では、商品を取ってくるピッキングと呼ばれるタスクなど、注文処理の労働集約的な部分の大半が自動化されている。人間は約200人働いており、トラックの積み卸しなど今のところ機械ではできない作業を担当する。
この施設はフル稼働すると、以前のより大きな倉庫(3倍の従業員が必要)と同等の生産性になる。
最新のフルフィルメントセンターは常温、冷蔵、冷凍に分かれており、最初の2つは仕組みが似ている。製造元のサーサス(Tharsus)が作ったずんぐりとした四角いロボットが、四角いグリッドの上を移動する。
グリッドの下にはカゴが何層もあり、オカドが販売する50万点を超える商品が収められている。ロボットは秒速4mで移動し、必要な商品をリアルタイムで把握しているソフトウェアがこのロボットを制御する。
ロボットはフックを下ろし、カゴをつかみ、飲み込んで人間のところまで運ぶ。人間はカゴが空ならば補充をするし、そうでなければ商品を箱に梱包する。
この方法だと、梱包者は1カ所にいて必要な商品が運ばれてくるのを待っていればいい(現在のロボットは摂氏0度未満では稼働できないため、冷凍商品は今でもピッキングとパッキングを手作業で行っているが、オカドのチームは現在、冷凍商品も扱えるロボットに取り組んでいる)。
自動化によってミールキットから高級冷凍食品まで、オカドが販売できる商品の種類が拡大する。
また、自動化は廃棄物の削減にも効果があり、オカドによると2016年、同社の廃棄は在庫の1%未満だった(英国における食品小売製造部門の平均は5%弱だ)。さらに、ソフトウェアが需要を予測できるため、仕入れた商品を新鮮なうちにすぐに出荷できる。

人間の手の器用さを再現できるか

オカドは、自動化への膨大な出資で何年も赤字が続いていたが、2014年に黒字化した。ただ、株価は2014年が最高値で、その後50%以上下落して現在284ポンド(371ドル)になっている。
理由としては、アマゾンなどとの競争が激化していることや、開発した技術を顧客数社に販売する状態からさらに拡大するのに苦戦していることなどがある。
このように、ロボットと賢いソフトウェアがあっても、箱詰めやトラックへの積み卸し、配達などに関して、オカドはまだたくさんの人間に頼っている。そのため人間の職はあるが、1000人を超える人数が機械的な単純作業に集中するようになった結果、独自の問題も生じている。
パッキング従事者が消耗してしまい、より稼ぎがいい仕事を探すようになる者もいる。ミスを犯し、間違った箱に商品を入れたりする。きつい肉体労働によってケガをするものも出ている。
オカドはすでに、フルフィルメント作業のさらなる自動化に目を向けている。道端まで運ぶ自律走行車両の実験を進めているほか、ドローンも考えている。
人間のパッキング従事者の置き換えは、難度がかなり高くなる。ケールの束を傷つけることなくつかむ能力など、人間の手の器用さを再現できるロボットが必要だからだ。
グラビット(Grabit)というシリコンバレーのスタートアップは、静電気を使って物を扱うロボットを開発しており、これがソリューションになるかもしれない。
靴を組み立てる機械のテストをナイキが進めているが、1台あたりの価格が10万ドルで、食料雑貨業界にはまだ高すぎる。オカドは大学のグループと協力して、果物や野菜を傷つけることなく拾えるロボットアームのテストを行っている。
オンライン食料雑貨店はすでに自動化に進み始めており、アナリストたちは、この流れは止めることはできないと語っている。ABIリサーチのカラは、いずれロボットは「大幅に高機能化し、低価格化するだろう。そうなれば、どこもかしこもロボットになる」と語っている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jing Cao記者、翻訳:緒方亮/ガリレオ、写真:© 2017 All rights reserved. Ocado Retail Limited)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.