【新連載】生産性や金銭、健康管理:AIアプリというパートナー

2017/11/9

個人ユーザーの日常生活に密着

秋は、シリコンバレーではテクノロジー企業が開催する顧客や開発者へ向けた会議シーズンだが、どこへ行っても人工知能(AI)の話題であふれている。
潜在顧客にぴったりの広告表示をするマーケティング、セールスで購買の可能性がより高い顧客を選別する仕組み、サーバー運営において異常をリアルタイムで発見するセキュリティ、あるいは繰り返しの作業を自動化してクリエイティブな作業に没頭できるツールなど、すべて背後にあるのはAIだ。
数年前の研究から出てきた現代版AIが、あっという間に実用化されている。まさにテクノロジーの競争はここにあり、という感がする。
ただ、こうした話を聞いていると、AIとは高価なテクノロジーで企業向けソフトやシステム向けの機能なのだろうと思いがちなのだが、AIは一般の個人ユーザーにも役立っている。
すでに人気があるアマゾン・エコーやグーグル・ホームなどのホームAI機器、そしてスマートフォンで使えるシリやグーグル・アシスタントなどがその走りだが、これからもっと個人ユーザーとしてAIのありがたさが実感できるようになるはずだ。
なかでもスマートフォンのアプリは、AIによってますます面白くなる世界だ。どのようなアプリでAIがすでに使われているのかを見ると、これからの動きが少しわかるような気になる。

メールでアポイントを代理設定

もっとも興味深い分野になるのは、プロダクティビティー・ツールだろう。すでに生産性向上のために、AIがユーザーに合わせて1日を計画するのに一役買ってくれるというアプリが出ている。
「Trevor AI」は、「やることリスト」と「カレンダー(予定表)」を組み合わせることを簡易でシンプルにしている。このアプリには自分のカレンダーやリマインダーと紐づけておくことが必要だが、アプリ上でその両方をにらみ合わせながら、空いた時間に必要な時間を確保しながらタスクを配置していくことができる。
ここでのAIは「空いた時間にこれをやるのはどうですか」といった提案をしてくれるもの。また現在開発中とのことだが、このアプリのボットと会話をするようにして、「買い物に行かなくてはならなくなった」と投げかけると、「この時間が空いています」と教えてくれたりする。
自分で予定表を作ると、理想的な達成度をベースにして実現不可能なものができてしまうことが多いのだが、このツールはAIが現実的なレベルに抑えてくれるというわけだ。
同様に生産性に関連しているもので、アポイントの設定という特定の目的のためにAIが役に立ってくれるのが「x.ai」だ。
アポの設定は、簡単なようでけっこう手間のかかるプロセスを経て成り立っている。相手と会うのにこんなにメールをやりとりしたのかと、後で驚くことも多い。このx.aiのAIエージェント「エイミー」は、それを肩代わりしてくれる。
相手から「会いましょう」というメールがやってくると、返信メールにエイミーをCCする。すると、そのあとのやりとりをエイミーが担当し、最後に場所と時間を設定するところまでやってくれるというものだ。
エイミーにはユーザーのカレンダーが紐づけされていて、どこでどのくらいの時間が空いているというのが把握できる。
もちろんエイミーもまだ学習中で、出先から出かける場合はどのくらい時間がかかるとか、相手によってはこちらから出向いて行ったほうがいいとか、その類いの地理的関係性や社会性は今後充実していくはずだ。

銀行の口座管理もチャットボットで

お金の管理もAI化するだろう。「myKAI」というチャットボットが、それを先取りしている。
myKAIは、銀行用のAI機能を開発する開発企業が個人向けに作ったボットで、メッセージングアプリやスラック内で利用することができる。
銀行口座につなげておくと、貯金の残金がいくらだとか、今月はレストランにいくら使ったかといった質問に答えてくれ、希望すれば細かな明細まで教えてくれる。また、送金も可能だ。
医療とAIも今後楽しみな分野だが、個人ユーザー用で注目を集めているのは「Ada(アダ)」というヨーロッパで開発されたアプリである。「あなたの健康コンパニオン」というのがうたい文句だ。
アダは、チャットボットとの会話を通じて、病気の可能性を探ってくれるものだ。体調が思わしくない時、症状を入力してアダの質問に答えていくと、可能性のある病名を表示し、自宅でおとなしくしていれば治るものなのかどうかといったこともアドバイスしてくれる。
イギリスでは、本物の医者とのチャットも統合されているようだ。
医療や健康に関わるAIは、どんどんアプリにも利用されるだろう。機能性や情報の質だけではなく、やりとりの細やかさや最後の結論の提示の仕方などが非常に重要になる分野だ。

視覚障害者の「目」を務めるアプリ

最後に挙げておきたいのは、感動したもの。マイクロソフト研究所が開発中の「Seeing AI」というアプリである。
これは、視覚障害者がスマートフォンのカメラを利用して、目前の風景を音声で教えてもらったり、目の前に座っている相手の名前や表情を知ったりできるというものだ。画像認識にはAIの発展がおおいに役立っているのだが、それをまさに視覚障害者のために利用しようというものだ。
また、このAIはドキュメントやメモも読み上げてくれる。ドキュメントの場合は「ペーパーの端がずれてカメラに収まっていません」といったことも伝えてくれて、ドキュメントの内容がちゃんと見えるようにガイドしてくれる。
「グーグル・トランスレート」アプリでは、外国語で書かれた標識にカメラをかざすと、その内容を翻訳してくれる。
目の前のものがわからなくて困っている時に助けてくれるという役目をAIが果たしてくれるわけだが、このSeeing AIも目前のものを捉えて視覚障害者をサポートするという点では、同じ仕組みだ。だが、これが完成した時の社会への貢献度の大きさは計り知れない。
ここに挙げたのは、AIアプリのほんの一部。AIは、これから個人も恩恵を受けるものになる。実に楽しみだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、写真:Yuuji/iStock)