[6日 ロイター] - 半導体大手ブロードコム<AVGO.O>は6日、米通信用半導体大手クアルコム<QCOM.O>に1030億ドルの非友好的買収案を提示したと発表した。債務を含めた買収総額は1300億ドル。同業界で最大の買収案件のひとつとなる可能性がある。

クアルコムは買収案を精査し、株主に最善の利益となる決定を行うとした。ただ関係筋によると、クアルコムは提示額が低過ぎることと、規制当局の承認に時間を要するリスクを見込み、拒否する方向に傾いている。

関係筋によると、ブロードコムは昨年、クアルコムに2社統合の可能性を打診。ただ、6日の買収計画発表に先立ち、クアルコムに連絡はしなかったという。

1株当たりの提示額は70ドル。買収観測によってクアルコムの株価が上昇する前日にあたる2日終値に27.6%のプレミアムを上乗せ。内訳は現金60ドルと、ブロードコム株10ドル。

ブロードコムは、アップル<AAPL.O>や韓国のサムスン電子<005930.KS>などに携帯電話向け向け半導体を供給するクアルコムの強みを得てワイヤレス市場でのプレゼンスを拡大したい考え。

買収が実現すれば、通信用半導体大手2社の統合となり、スマートフォン技術への事業拡大を進めるインテル<INTC.O>を追撃することになる。

同発表を受け、クアルコムの株価は序盤の取引で約5%上昇し、65ドルをつけたものの、なお提示価格を下回る水準で推移し、1.1%高の62.52ドルで終了。

ブロードコムの株価は最高値となる281.80ドルを付けた後、1.4%高の277.52ドルで引けた。

クアルコムは現在、特許使用料などを巡りアップルとの係争に直面しているほか、昨年発表した380億ドルでの蘭NXPセミコンダクターズ<NXPI.O>の買収完了に向け資金調達に追われており、買収の標的になりやすい状況にあった。

ブロードコムのホック・タン最高経営責任者(CEO)はロイターに対し、クアルコムの経営陣交代とブロードコムによる買収提案を受け入れるようクアルコム株主を説得するための委任状争奪戦(プロキシーファイト)を排除しない考えを示した。

ノムラ・インスティネットのアナリスト、ロミット・シャー氏は顧客向けノートで「1株当たり70ドルという提示額は低過ぎる」と指摘。

カナコード・ジェヌイティのアナリストも、クアルコム取締役会は低い提示額と独立維持の意向を理由に、買収案を拒否する公算が大きいとの認識を示した。

クアルコムの株価が70ドルを超えたのは、最近では2016年12月。2014年には80ドルを超えて取引されていた。

ブロードコムは現在シンガポールと米国に拠点を置いているが、対米外国投資委員会(CFIUS)による審査回避をにらみ、本社は今後米国のみに構える計画。

ただ、同買収案に関する規制当局の厳しい審査は必至とみられている。特に国内企業による米半導体メーカーの買収が米当局に阻止されてきた中国ではなおさらだ。

GBHインサイツのアナリスト、ダニエル・イブズ氏は「非友好的買収のため、規制当局、株主、さらに資金面でのハードルに直面する可能性を市場は織り込んでいる」と指摘した。

ペンシルベニア大学ロースクールのハーバート・ホーヘンカンプ教授(反トラスト法)は、米当局はブロードコムによるクアルコム買収が半導体価格の上昇につながらないことを求めると指摘。「私がこれまでに得た情報に基づくと、買収を阻止する根拠があるとは考えにくい」と述べた。

ブロードコムによると、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチなどの金融大手はクアルコム買収に必要な資金の調達は可能とみている。

ノムラ・インスティネットのシャー氏は、ブロードコムは当局の承認獲得と買収資金調達のためにクアルコムのライセンス事業部門QTLを売却する可能性があると指摘。売却により最大で250億ドルを調達できるという。

7月30日時点でブロードコムが保有する現金および現金同等物は52億5000万ドル。9月24日時点でクアルコムが保有する現金は350億3000万ドル。

ブロードコムは株主であるプライベートエクイティのシルバーレイク・パートナーズから50億ドルの融資を受ける誓約書を交わしている。

*内容を追加して再送します。