スライドとグラレコで見る日本人のムダな仕事
2017/10/26
非効率の温床、経費精算
どの企業にも必ず存在する本業とは全く関係のないムダな仕事、それは間接業務とも言われる。なかでも経費精算は、自分のお金を取り戻すために汗する、ビジネスパーソンおなじみの超ムダな仕事。パンパンのお財布からしわくちゃで文字の消えかけた領収書を取り出し、予定表を見ながら、システムに入力、台紙に領収書をのり付けして提出……。
日本のビジネスパーソンはそんなことに生涯52日も人生を捧げている。一方、経費処理を行う経理担当者も承認者の“ざる”チェックや申請書類の不備、締め切りを守らない現場社員へイライラが止まらない。こんなムダな作業をしているおかげで、日本のビジネスパーソンの労働生産性は先進国中、ギリシャをも下回る最低ランク。そう、従来の日本人の働き方はすでに破綻しているのだ。政府が声高に働き方改革を叫ぶ理由にはそんな背景もある。
「地味すぎるテーマ?」に2000人が集う
9月下旬、2000人ほどのビジネスパーソンが都内のホテルを埋め尽くしていた。来場者は、コンカーという企業が開催したイベントの参加者。「パーフェクト・スペンド・マネジメント」をテーマに間接費管理の仕組みやシステムに関する情報収集のために集まっていた。
「間接費を見直そう」。華やかでなく、さほど効果もなさそうなこの題目に、多くの人が関心と期待を寄せている。しかも、4回目となるこのイベント、過去最多の来場者だという。
なぜ、今、間接費なのか? 実際にこの取り組みを進め、経営改革を実現した企業の声を集めるイベントを取材した。
日本企業が抱える間接費の課題と問題点と働き方改革、そして、コンカーが掲げるビジョンをコンカー日本法人の三村真宗社長の講演資料と、講演内容を記録した「グラフィックレコード」を引用しながら、ひも解いていく。
企業の「間接費」とは何か?
企業で発生する費用は、商品やサービスの開発・販売に直接関係する「直接費」と、それ以外の「間接費」に分類できる。間接費をさらに細分化すると①人件費②償却費③交通費や接待費などの従業員経費④ベンダー経費⑤出張費などに分けられる。
直接費は原価計算の専門家などがネジ一本に至るまで徹底的なコスト管理を行っており、これ以上の最適化は難しい。一方、間接費は従業員経費、ベンダー経費、旅費など、最適化が進んでおらず、かつ、短期的に解決が可能なため、この領域からの改善が進めやすい。
領収書や請求書など紙ベースの書類の徹底的な電子化、入力作業の省力化、申請・承認プロセスの簡素化、徹底的な自動化を最新のクラウド・モバイル技術で実現することができる。
また、コストの発生源から直接データ取り込みができれば、支出明細レベルまで可視化でき、直接費並みの管理レベルに引き上げることができる。企業で発生する全てのコストを適切に管理し、次の成長の原資を作り出す、これがコンカーの「パーフェクト・スペンド・マネジメント」の意味である。
間接費改革がもたらす効果は、「ガバナンス」「生産性」「可視化」の観点からその効果は絶大である。
下の図をみると、従業員経費、ベンダー経費、出張費には、不正のリスクや透明性の欠如といった点でさまざまな問題が潜んでおり、これらをツールの活用で解決することができる。
「多くの企業は特にリーマン・ショック以降、コスト削減に取り組んできた。この取り組みを間接費に拡大し、欧米企業並みの利益率を確保できて初めてグローバル競争のスタートポイントに立てる。また、日本は労働人口がこれからも加速度的に減り続ける。クラウドやモバイルといった新しいツールを活用した『新しい働き方』でも私たちが貢献できることは多い」とコンカー日本法人の三村真宗社長は話す。
イベントでは経費精算を巡る課題、それを解決するコンカーのソリューション紹介だけでなく、経費精算をさらに自動化する新たな取り組みとして、JR東日本との実証実験開始を発表した。
実証実験では、JR東日本のSuicaサーバー上の決済データとコンカーのConcur Expenseを直接つなぎ自動取り込みを試みる。
これまでSuicaの利用データをConcur Expenseに取り込むためには、各人が保有するカードなどのSuicaに記録されたデータからカードリーダーを使ってデータを抽出しConcur Expenseに読み込ませる作業が必要だったが、今回の協業によってその作業が不要になる。駅の改札をSuicaで通ったり、タクシーの運賃をSuicaで決済したりするだけで、そのデータを自動的にConcur Expenseが取り込む仕組みだ。
国内の経費精算では、電車やタクシーといった近隣交通費の件数が非常に多い。SuicaデータとConcur Expenseの連携によって、近隣交通費精算の全自動化が事実上、可能になるわけだ。
実証実験には日本交通や国際自動車、大和自動車交通の3社のタクシー会社も参加。この3社で都内を走る法人タクシーの日中台数における33%を占め、3台に1台をカバーすることになる。今後、他のICカード事業者との連携も進め、全国の鉄道やタクシー会社への利用拡大も促進することで、日本のスタンダードとして経費精算の個人作業をさらになくしていく計画だ。
次にイベントで紹介されたコンカーの導入事例を見てみよう。従業員経費、ベンダー経費、旅費のすべての指標で業務工数が大幅に削減、生み出された時間をコア業務に振り向けることで、営業力や製品・サービスの強化、新ビジネスの創出など有効な時間の使い方ができる。
コンカーの導入企業として、LIXILや野村ホールディングスなどが登壇し、その導入効果を紹介した。
LIXILは、グローバル化を目指す中で2011年に5社合併で誕生。間接業務は各企業が独自に行っていた背景があり、グローバルで共通・標準化することが、経営におけるコスト削減のファーストステップだと位置付けていた。
さまざまな選択肢がある中、世界でビジネスを展開し、この領域のデファクトスタンダードとなっている実績を評価し、コンカーの導入を決定。現在、勤怠管理、旅費・交通費精算業務、領収書などのデータをオンライン化・デジタル化することで、いつでも、どこでも、だれでもデータを確認・操作できるようになり、承認業務の省力化に成功している。
「ITを活用した間接業務の効率化は、コアビジネスの強化に確実につながる」と担当者は語っている。
経費精算のシーンを思い浮かべよう。領収書を提出、あるいはのり付けするはずだ。これは紙の領収書の原本保管が法律で義務付けられていたからで、多くの営業マンと経理スタッフのストレスの原因となっていた。
しかし、ついに電子帳簿保存法の規制が緩和され、紙の領収書原本破棄が認められるようになった。
では、実際、この規制緩和を活用してのり付けから解放される企業はどのくらい存在するのか? 日本CFO協会の調査では、領収書の電子化を進めることで、紙のデータ処理に比べ7~9割もの工数が削減でき、全体で9割以上のコスト削減効果が見込めるという。また、2019年には国内企業の3社に1社は領収書の電子化を進めたいと回答している。
また、領収書のデジタル化にはさまざまなソリューションとの連携が鍵となる。スマホのカメラ機能で領収書を取り込むだけでなく、複合機と組み合わせることで複数の領収書をまとめてデジタル化することもできる。
一度に10枚程を同時に、かつ、領収書の向きがバラバラでも正確にデジタル化でき、経費データはOCRで自動判別、自動入力、あの面倒な経費入力も必要なくなる。さらに請求書処理でも同様のことができる。
さらにAIも連携することで、データの内容が消耗品なのかタクシー代なのかを判断し、自動入力に加え、費目の自動仕訳も可能となり、承認業務や経理担当者の負担が劇的に削減される。
間接費改革と働き方改革を強力に後押しする文書のデジタル化。こうした電子化データが証跡として認められるようロビー活動を展開したのもコンカーだ。
従来、日本では税務調査を目的に領収書の紙原本の保管が原則で、保管義務が明記されており、保管期間は7年にも及ぶ。いまだにそんな“紙”信仰に縛られている先進国は日本くらいだった。
日本の常識は世界の非常識。そんな構図が経費精算という業務にも当てはまった。コンカーは、政府与党である自民党、財務省、国税局、関連ビジネス団体、そして同様のサービスを展開する競合他社をも巻き込みながら、米国や英国などで行われているITを活用した経費精算業務の認可、法制度整備を働きかけ続け、規制緩和が実現された。同法は2017年1月からビジネス現場で活用できるようになっている。
同法により要件に沿ったデジタル画像を原本とすることができ、領収書や請求書などの紙書類を破棄することができるようになった。今まで紙ベースで発生していた保管・輸送・管理コストが削減できるメリットは大きい。
続いて、政府の立場から経済産業省の伊藤禎則産業人材政策室参事官が登壇し、政府の働き方改革の取り組みを紹介、「長時間労働の是正と企業の生産性向上、そして、電子化を政府としても支援していく」とコメントを寄せた。
経済産業省の伊藤禎則産業人材政策室参事官
コンカー日本法人は、大企業を中心にビジネス展開を行っていたが、近年、中堅・中小企業での利用も進んでいる。米国ではすでに売り上げの半分以上が中堅・中小企業からもたらされており、日本でも各顧客規模に適した製品ラインアップを用意し、組織体制も整備してきた。
イベントでは、従業員数100名の不動産企業である武蔵コーポレーションの事例が紹介された。同社はIT助成金制度を利用し導入コストを抑え、1.5カ月の短期間でコンカーを稼働させた。
従業員の経費業務が省力化されたことで、経費精算業務に忙殺されていた若手の経理担当スタッフは現在、恵まれない家庭向けの奨学金給付を推進する社内NPOプロジェクトを立ち上げたという。より生産的で社会的に意義深い業務にシフトする働き方改革の目指す姿が垣間見える。
経費精算を軸に間接費・間接業務改革を進めるコンカーだが、目指すビジョンはさらにその先にある。
米本社の研究・開発部門Concur Labsの担当者が来日。VRやSlack、Office365、Amazon Alexaといった最新テクノロジーをフル活用した未来のワークスタイルを実際のデモンストレーションを交えて紹介した。国内でも全国タクシー、Time24、ぐるなびなどさまざまなサービスとオープンイノベーションを進めるコンカー。未来のワークスタイルを目指すConcur Labsについては、次回記事で取り上げる予定だ。
イベントの講演では、出張中の従業員のリスク管理にVRを用いたソリューションを米本社のR&D部門幹部が紹介(写真左上)。イベントの展示スペースでは体験スペースを設け、参加者の人気を集めた。筆者もこの機会に体験した。その内容は次回記事でリポートする。
間接業務とそこから発生する間接費に着目することで、コストだけでなく時間や従業員の生産性、ガバナンス強化や可視化といった複数の課題を同時に解決することができる。もう日本企業には、ビジネスパーソンに領収書をのり付けさせる暇も余裕もないはずだ。
(取材・文:杉山忠義、写真:北山宏一、グラフィックレコード:Graphic Catalyst Biotope、編集:木村剛士)