(Bloomberg) -- 東京・西麻布にある「WAGYUMAFIA(和牛マフィア)」の会員制レストランは仕事帰りの会社員や海外から駆け付けたシェフらの熱気に包まれ、客は目の前のキッチンで出来上がったばかりの和牛料理を思い思いに口に運ぶ。扱うのは1キロ当たり最高3万円の高級和牛。冷蔵ショーケースの中には神戸牛サーロインや尾崎牛モモの塊が並び、販売もしている。

和牛マフィアは、和牛輸出会社VIVA JAPANの浜田寿人社長(40)と、元ライブドア社長でロケット開発のインターステラテクノロジズ創業者、堀江貴文氏(44)が昨年3月に結成したユニットだ。両氏は20年来の友人。米シリコンバレーで使われている、IT業界の元社員が退社後も協力し新事業を立ち上げるビジネスモデルを指す言葉にちなみ「マフィア」と名付けた。

特徴は、生産者から直接仕入れた和牛を国内外の一流シェフや会員に提供することだ。会員は新店舗の開店やイベントの際にその都度クラウドファンディングで募る。入会時に1万800円を支払うと専用サイトにアクセス可能となり、全てのレストランを利用できる。イベントは会員以外も参加可能だ。

宣伝費はかけずSNSを活用。「フーディー」と呼ばれる国際的に影響力のある食通たちが発信するイベントの様子がリアルタイムで世界に拡散する。会員数は約1000人に膨らみ、国内のほか3割をアジア、1割を欧米の外国人が占めている。

和牛マフィアのブランド化は「世界一」を目指す両氏の事業戦略でもある。堀江氏は「グローバル展開する上で『食』は分かりやすい。フランス産高級ワインのロマネ・コンティにも匹敵する貴重な和牛をブランドとして発信するチャンス」と語る。

「和牛の霜降りは奇跡だ。そこには理由があり、歴史がある。和牛を通して良い物を作っている人がより良い物を作るお手伝いをしたい」。和牛は値上がりが見込め、ベンチャー投資に似ている部分もあるとし、自身が手掛ける事業の多様さのアピールにもつながると堀江氏は野心ものぞかせる。

ニーズ高く入荷困難

米国留学中に立ち上げた映画情報サイトが注目され21歳でソニーに入社した経歴を持つ浜田氏が和牛事業に注力し始めたのは、宮崎県で和牛肥育農家を営む尾崎宗春氏(57)との出会いがきっかけだった。浜田氏が配給に携わった米国の食料大量生産の実態を追ったドキュメンタリー映画「フード・インク」(日本公開2010年)を尾崎氏が見て感銘を受け連絡を取った。

尾崎氏は1982年から2年間、政府が支援する派米農業研修に参加し牛の体重を増やすことに重点を置いた米国の肥育現場を体験。「牛を太らせることではなく味を重視し、自分や家族が毎日安心して食べられる牛肉を作る」と決心して帰国した。20年かけて工夫した自家配合飼料を与えて肉の味を一定にし、2003年からは自身の名字を冠した「尾崎牛」としてレストランや特定代理店に直接出荷し、現在は約30カ国に輸出している。

尾崎氏によれば、霜降りの品質を決定付ける要因は、農耕牛として飼育されていた日本古来の兵庫県産黒毛和種である但馬牛の霜降り遺伝子を受け継ぐ種牛と良質な赤身の母牛との間に生まれた子牛と、餌や風通しなどの環境、「他国にはまねできない」きめ細やかな育て方をする飼育者の三つ。これらがそろって「世界のシェフを熱狂させる奇跡の霜降り」が生まれるという。

丹精込めて育てられたトップクラスの和牛のみを輸出したいと考えた浜田氏は、11年に和牛通販サイトを開設。12年にシンガポール向けに尾崎牛の輸出を開始し、14年の欧州連合(EU)への輸出解禁とともに神戸牛とトップブランド和牛の輸出を本格化させた。現在は生産者15人が出荷する和牛を扱っている。

同氏を通して神戸牛を輸入するコペンハーゲンのステーキハウス「マッシュ」のフードディレクター、ダン・クリスチャンセン氏によると、神戸牛ステーキは100グラム当たり900クローネ(約1万6000円)と、米国産牛肉の約6倍だがビジネスマンにも家族連れにも人気が高い。「輸入をもっと増やしたいが、欧州の他国でもニーズが高く入手が難しい状況」と話す。

農林水産省の資料によると、昨年の牛肉輸出額は前年比23%増の約136億円と5年連続で過去最高を記録。今年1-8月は前年同期比51%増の約107億円となった。9月には、01年から牛海綿状脳症(BSE)発生を理由に日本産牛肉輸入を禁じていた台湾が16年ぶりに再開。EUとの経済連携協定(EPA)では関税撤廃で大枠合意されるなど輸出はさらに伸びそうだ。政府は20年に250億円とする目標を掲げている。

一方、国内では高齢化による廃業などで肉用牛の繁殖農家は2月時点で4万3000戸と10年前と比較して約4割減少。黒毛和種の子牛価格は出生頭数の落ち込みで5年間に2倍に値上がりし、昨年12月には1頭当たり85万円を超えた。子牛価格高騰は肥育農家にとってコスト増につながり、和牛農家を取り巻く環境は厳しさを増している。

子牛価格高騰を受け、イオン傘下のダイエーは小売り大手として初めて国産牛の繁殖事業をスタートした。子会社の鹿児島サンライズファームが昨年12月に母牛を購入して繁殖事業を開始。約2年後の出荷を目指している。500頭を同事業で確保し現在の年間4600頭の肥育数を20年度までに5500頭に増やす方針だ。繁殖も手掛けることで1頭当たりの肥育総コストは約3割抑制することができるという。

繁殖農家が減少する中で、和牛の末端市場を広げ、価値を引き上げる取り組みが必要と浜田氏は指摘。「和牛の魅力を世界のトップシェフに伝えて生産者と直結し、和牛を高く買ってもらえるマーケットを創出したい」と語る。

和牛マフィアはこれまでに赤坂や茨城県つくば市などに4店舗をオープン、来年にはミラノやサンフランシスコにも出店予定だ。シンガポールやニューヨーク、パリなどで現地のシェフと協力してイベントを開催し、英国や香港など5つの国・地域ではライセンス提供も検討している。

(第12段落に今年1-8月の牛肉輸出額を追加します.)

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