JFKの格言から見る、未来の日中サッカー界の“明暗”

2017/10/17
強豪フランスには残念ながら負けてしまったようですが、FIFAワールドカップU-17(17歳以下)大会でホンジュラスに快勝するなど、日本代表が頑張っているようです。
現在は解説者などで活躍する元スペイン代表ルイス・ガルシア(バルセロナ、アトレチコ・マドリード、インドなどで活躍。リバプール時代にはチャンピオンズリーグで優勝)の褒めたたえるコメントが、日本のメディアにも出ていました(「Football ZONE」参照)。
仕事柄よく知っているので直接聞いてみましたが、「リップサービスではなくて、本当に素晴らしいパフォーマンスで感銘を受けた」、「強い、早い、うまいと三拍子そろって、とてもバランスが良い」とのことでした。
チャンピオンズリーグを制覇するなど世界的な名手であったルイスに、日本サッカーの将来を担う若者たちが褒められるのは、多少のリップサービスがあったとしても自分のことのようにうれしいですね!
今年U-20日本代表に選ばれた久保建英はU-17代表としてもプレー
頼もしい日本の若武者の活躍ぶりを見て、最近メディアで発表した記事「斜陽国家・日本において、スポーツ界は何をすべきか?」(「VICTORY」参照)を書いていたときに頭を駆け巡っていた、アメリカのジョン・F・ケネディ元大統領の格言を思い出しました。
The future promise of any nation can be directly measured by the present prospect of its youth.
「国の将来が明るいかどうかは、その国の若者の現在の見通しを見れば、察しがつく」的な意味ですが、この格言を元に日本の将来を憂えながらも、同時に自らに活を入れる意味で発奮しながら、上記の記事を書いていたのです。
しかし、U-17日本代表だけでなく、最近の日本代表(ニュージーランドやハイチとの親善試合の不甲斐ない戦いぶりからメディアで叩かれてはいましたが……)での若手選手の活躍を目の当たりにして、「日本経済とは違い、日本サッカーの見通しは明るいのでは?」と改めて思ったのです。
さらに、先月に1週間ほど中国に滞在して、CSL(中国スーパーリーグ)の試合を見たりして日本サッカーとは対照的な存在を目の当たりにしたので、改めて日本サッカーの将来見通しを考え直すきっかけになったのかもしれません。

今後に希望が持てる日本サッカー

下記の偉業を振り返ってもわかりますが、1993年にJリーグが開幕して以来、過去24年間にわたって、日本サッカーは順調に成長してきたと思うのです(もちろん、世界の強豪と比べるとまだまだですが……)。
• 1998年の初出場以来、6大会連続FIFAワールドカップ出場
• 2016年FIFAクラブワールドカップで、鹿島アントラーズが準優勝
• 少なくともアジアにおいては、ワールドカップ常連国として強豪国入り
• 欧州で活躍する選手の数は、アジアNo.1
• Jリーグ下部組織と部活サッカーが融合した日本独自の育成システム
Jリーグが始まるはるか前より、世界のサッカー界でも活躍できる釜本邦茂、奥寺康彦、三浦知良、中田英寿、小野伸二などのタレントを輩出し続けてきた部活サッカー。
将来の五輪代表やワールドカップ日本代表を輩出してきた少年サッカーや部活サッカーを代表する草の根サッカー文化は、世界的にはとてもユニークですが、それだけを見ても世界に誇るべきものだと思います。
それに加えて1993年以降は、Jリーグ下部組織の育成が始まったわけです。
2018年ワールドカップ出場を決めた大一番オーストラリア戦の出場選手14人を見ても、Jリーグ下部組織と部活サッカー出身者が半々です。改めて、Jリーグ下部組織と部活サッカーが融合した日本独自の育成システムが根付いている、日本サッカーの広がりと深さに感銘を受けました。
長谷部誠、川島永嗣、長友佑都などベテランも健在ながら、躍動する若手の活躍ぶりを見て、将来への希望を抱いたファンも少なくないと思います。

見通しが暗い中国サッカー

翻って、「爆買い」で世界のサッカー界を震撼させている中国サッカーは、どうなのか。
先日、圧倒的なマネーパワーに支えられた中国サッカーに関して、「総額80兆円! 中国のスポーツ投資に、日本はどう対抗すべきか?」(「VICTORY」参照)という記事を書きましたが、先のJ・F・ケネディの格言から判断すると、現時点での将来見通しは暗いと言わざるを得ないと思います。
上記の記事にも書いたのですが、「投資」というよりも「投機」という言葉の方が適している感じで、「マネーゲーム」が先行しており、肝心要の現場における「普及・育成・強化」が覚束ない状況なのです。
一人っ子政策に加え、根強い学業偏重の文化もあり、草の根レベルでのサッカー普及は、日本と比べてかなり遅れています。今まで日本スポーツを支えてきたと言っても過言ではない部活的な文化や公立学校における充実した運動施設が、中国にはないのです。日本の10倍以上の人口を誇る中国ですが、国内各種レベルのサッカー登録者は、日本のそれにはるかに及びません。
日本以外の育成モデルを考慮したとしても、両親が一人っ子に多大な期待をかける学業重視の中国ですので、途中で学業放棄をせざるを得ない欧州サッカー型の育成は、現実的ではありません。
それゆえに、日本の部活や米国のスクールスポーツをモデルとして、「全国の何万何千もの学校に、サッカーグラウンド設置とサッカーコーチ派遣を実施する」といった大号令を政府が発表しましたが、ビジョンは素晴らしいものの実際のプランニングと実行にはほど遠いようです。
中国(特に大都市)を訪れるとわかりますが、日本の公園や学校のように、手軽にサッカーを楽しめるような場所は皆無に等しいです。高層ビルから上海や北京の街並みを見下ろしても、そういう場所が見当たらないし、サッカーをしている子どももまず見られません。
過去数十年にわたって中国に巨大投資を続けてきたNBAの努力の賜物で、都市部においてはバスケットボールコートがあちらこちらに見られ、バスケットボールを楽しむ子どもたちはよく見かけるにもかかわらずです。
繰り返しますが、手軽にサッカーをしている子どもたちを見ることは、中国の街中では、ほぼありません。

「世界では弱小」の日本

そんな反面教師的な中国と対照的に、日本では、何十年以上も前から少年サッカーや部活サッカーを代表とする草の根サッカー文化が広く深く根付いていたわけです。加えて、Jリーグが始まってから過去24年間にわたって、Jリーグ下部組織と部活サッカーが融合され、日本独自の「普及・育成・強化」システムができ上がったのです。
今から、CSLがJリーグにならって下部組織の充実化を図っても、当時の日本サッカーと違い、草サッカーの土台がないに等しいため、中国サッカーの成長にはかなりの時間がかかると思います。
世界最高給のサッカー選手である元アルゼンチン代表カルロス・テべスも言っていますが、まさに「今後50年経っても、中国は欧州サッカーに追いつけないだろう……」という状況なのです。
もちろん隣国の寂しい状況を見て、自己満足に浸っている余裕は、日本にはありません。世界のサッカー界から見ると、現時点での日本は弱小にすぎないのですから。
しかし、自己過信に陥ることなく、進化を続ける世界のサッカー界から貪欲に学ぶ姿勢を維持できれば、何十年以上にわたって醸成されてきた、世界に誇るべき日本独自の広く深く根付いた「普及・育成・強化」システムを、さらに進化させることができるはずです。
ゆえに、日本サッカーの将来見通しは明るいと思うのです。まさに、J・F・ケネディが言ったように――。
The future promise of any nation can be directly measured by the present prospect of its youth.
Go Japan!
(写真:アフロ)