【進次郎ーDay5】「前原さん、そりゃないよ」。民進党の“自爆”を語る

2017/10/15

職業「進次郎」の過酷な1日

小泉進次郎を乗せた車が東京駅に向けて出発したのは朝8時前だった。
前夜、山形県鶴岡市で最後の遊説を終え、新幹線で東京に戻ったのは23時30分過ぎ。だから、いつも使う改札口には8時間ぶりに「来た」というより、「戻ってきた」という感覚だ。
8時13分発の東海道新幹線のぞみ号。寝ぼけ眼で乗り込んだ進次郎は、2時間20分後に京都駅に着いた時には誰もが知っている政治家の顔に戻っていた。
人々は進次郎を見つけるなり、遠慮せずに握手や写真撮影を求めてくる。
彼本人はそれに嬉々として応じるが、分単位で動くスケジュールに影響が出ることも少なくない。
そのため、主要駅には混乱を避けるために使われる特定の改札口が必ずある。一般客でも利用できる出入口なのに、混雑したターミナルでも驚くほどスムーズに車寄せに出ることができる。
こうした小技も、進次郎密着を通して見えてくる「自民党本部のロジの力」のひとつだ。
京都駅でも〝裏口〟から出て、ジャンボタクシーに飛び乗った。
今日の第一声は、祇園にある八坂神社前。この京都2区は、民進党代表の前原誠司が6回連続で勝利している選挙区である。
進次郎が演説の冒頭、「全国でも屈指の厳しい、相手も強敵の選挙区」と言った通り、前原に挑む自民党候補者が連敗を喫し、次々と消えていったところだ。
「前原さんには経験もかなわない、京都での地盤づくりもかなわない」
野党のリーダーをこうも持ち上げたが、その後に続く痛烈な批判は後述する。
(写真:つのだよしお/アフロ)
その後、車で15分ほどのところにある阪急西院駅前(京都4区)、それから一時間後に伏見区の御香宮神社の大鳥居の前(京都3区)で演説。その神社で名水百選の湧水が出ることにちなんで、こんなスピーチを切り出した。
「この伏見、有名なのは酒ですね。美味しいお水、地下水が豊か。さて、その美味しいお水は、誰が作ってくれているのか。山の中で人知れず、森を守って管理して林業をやっている方々がいなければ、美味しいお水が川に流れない。川から海にも流れない。すべてが循環をして、私たちの日々の命、食を支えてくれています」
筆者は、かねてから「小泉進次郎の演説からは国家観が見えてこない」と指摘してきた。
しかし、今回はしきりに「こんな国にしたい」というさまざまなアイデアを披露している。京都の演説会でも、ある国家像が提示されたが、詳しくはまたの機会に紹介したいと思う。
京都の4カ所目は、お茶の生産で有名な京都府南部の久御山町(京都6区)を訪問。今日のネクタイは緑色だったが、お茶の色を意識して選んだらしい。
帰りも京都駅の裏口から入り、14時32分発の東海道新幹線ひかり号で小田原へ。移動中の車内では自分の選挙区で行われている支援者集会の会場と電話で中継して挨拶したという。公示後も留守が続く進次郎の地元では、本人が回れない代わりに、全国遊説の様子を編集した動画を放映するイベントが行われている。
「神奈川を通るのに地元に戻れずにスミマセンと謝りました。『もうちょっと足伸ばして戻って来いよ』と言われておかしくないのに、『頑張ってね』と言ってくれる地元の支援者のみなさんは本当にありがたいですね」
小田原からは東海道本線の上野東京ライナーに乗り換え。今回、3度目の在来線移動である。
ホームで電車を待つ間も、4~5台のビデオカメラに囲まれた。そこに報道番組でキャスターをしている女性タレントが割って入ってきた。京都でもそうだったが、テレビ局では選挙期間中の土日にタレントやキャスターを現場に連れ出し、選挙特番向けの映像を撮影することが多い。
いつもは汗だくになった男たち4~5人で取り囲んでいる密着取材の現場に女性タレントが現れると、進次郎の表情がほころんだ。
「毎日、男の記者さんたちに囲まれているからね。〝一輪の花〟は、ボクへのご褒美だ」
夕方17時半、神奈川県にある藤沢駅(神奈川12区)に降りると雨がぱらついていた。駅のロータリーをぐるりと取り囲むように設置されている歩道橋には人、人、人、人、人。その真ん中に置かれた街宣車に向かって360度から熱い視線を注いでいる。
まるで両国国技館のよう。自民党の「横綱」をより近くから見ようと、昼から待ち構えていた女性もいたらしい。
「もうちょっと私の話を聞いてください。進次郎さんを見に集まったみなさん、もうすぐきますのでご安心ください」
候補者がこう言っている矢先に進次郎は到着した。
「雨の中、傘も差さないでありがとうございます。ボクらも傘をやめましょう」
街宣車の上に立った進次郎は開口一番、そう言って後ろからスタッフが差している傘を畳ませた。そして、こう続けた。
「8年前、自民党が野党になった時の厳しさを思えば、今日の雨ぐらいなんでもない!」
演説終了後、進次郎はもみくちゃにされながら小田急線のホームに徒歩で入構。大聴衆も一緒になって改札口を通り抜け、スマホを片手に進次郎を取り囲んだ。
特急えのしま号に乗り込んでも、列車の両脇から挟み撃ちで多くの女性たちが人垣を築き、進次郎に手を振りながら黄色い声を浴びせる。
進次郎は電車が走り出すまで両脇のドアを行き来し、手を振って応じていた。電車が走り出し、「ファン」が見えなくなると一言呟いて笑った。
「こんなに人がいるなら、駅のホームで街頭演説をやったほうが良かったんじゃないか」
国政選挙になれば、不眠不休で全国各地を回らされ、朝から晩までトイレに入っている時以外は記者やカメラマンに囲まれながら過ごす。握手もサインも断らず、手紙や贈り物もとりあえず受け取り、時に抱き着いてくる女性たちがいても笑って受け流す。
24時間、衆人環視。「小泉進次郎」とは本当にしんどい職業だ。
この日の最後は、町田駅の近くにある「109」の前(東京23区)。握手攻めでもみくちゃにされながら19時20分に会場を後にしたが、22時から党本部でインターネット放送の生放送に臨んだ。
今日も一息つけたのは、日付をまたぐ頃だった。

10月14日の「小泉進次郎の言葉」

「前原(誠司)さん、この間、民進党の代表になったばかりですけど、一番初めにやったお仕事が、その民進党をなくすこと。
さすがにそりゃないなと思ったのは、前原さんが代表選で訴えたことってなんですか。前原さんはどんなニッポンをつくりたいと言ったんですか。
前原さんは消費税を増税したいって訴えたんですよ。消費税を増税して、それで入ってくる税金によって医療、介護、年金とかの社会保障を充実させる財源に充てることによって、国民のみなさんの不安を解消したいと言った。
よくポスターに書いてありますが、『オール・フォー・オール』、『ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために』(※正確な前原氏の主張は「みんながみんなのために」)、そういうことをやりたいと言って、民進党の代表選挙で勝ったのが前原さんです。
それが、今、一緒になった相手はなんといっているんですか。
小池さんは消費増税凍結なんですよ。前原さんは今までおそらく代表になるために頑張ってきたのでしょう。
そして消費増税という厳しいことも逃げずに向かって訴えたけど、今自分と一緒になってやっている人は自分がやりたいと言った国づくりとまったく逆のことを言っているんです。
言っていることと、やっていることが全然逆じゃないですか。
そういう立場を少し変えることはあったとしても、しかも今、民進党の中からは『この選挙が終わったらもう一度民進党がひとつになろう』と言っているんですよ。
北朝鮮をはじめ、世界が混迷している時にこんな党に本当に任せていいのか。私は京都のみなさんほどそういうことをわかっている人はいないと思う。だから、Sさんは前原さんに敵わないところはいっぱいあるけど、言っていることとやっていることを同じにすることぐらいは守れる。
前原さん、民進党を解党する時になんて言ったんですか。みんなで一緒に小池さんのところに受け入れてもらえるから、大丈夫だ。みんなのことは守る、と言ったんですよ。
『小池さんのところは本当にダイジョウブかな?』と思う仲間も、それを信じて、『前原さんがそういうんだったら、そうかもしれないな』と思って、いろいろ思うところはあるけど、『言いたいことはあるけどわかった』と言って、民進党は解党しようと決めたんです。
そうしたら、そんな約束はしていないことが後でわかった。
これ、みなさん、仮にですよ。みなさんの会社がどこかの大きな会社に買収されて、従業員のみなさんに『大丈夫だ』『会社が変わってもみんなの雇用は守るから』と社長さんが言ったら、それは大丈夫だと思いますよね。
でも、蓋を開けてみたら、大丈夫じゃないとわかったんですよ。どうします。これ、自民党が野党の時、谷垣(禎一)さんが苦しい時代を支えてくれたから、もう自民党と名前を付けている限り人は足を止めてくれない、信用してくれない。
しかも小泉進次郎みたいな世襲がいるからダメだ──。
そういう声がいっぱいあった野党時代だったのにもかかわらず、自民党は自民党という名前を捨てずに耐え忍んでなんとか今があって、仲間がいて。そうやってきたんです。もう名前が悪いから、自民党という名前を変えようという決断は私たちはしなかった。
これを見ても、みなさん。この選挙が終わったら、希望の党があと何年続くと思いますか。そして、前原さんは自分の人生をかけて訴えたことが消費増税だったんじゃないですか。
(写真:ロイター/アフロ)
それが小池さんとくっつくために真逆のことでも構わないって信念を曲げてしまったら、これからどこに軸足を置いて行くんでしょうか」(10月14日午前11時過ぎ、京都市東山区)

つい口をついた「野党批判」

「あれでも随分穏やかに言いましたよ」
京都を去る寸前、進次郎は前原誠司の地元で行った演説についてこう振り返った。
「今日の演説では野党の批判は無駄だからしません」
公示直後の演説会ではこう言いながら小池に対する「皮肉」をしゃべっていたが、「希望は消えた」と見るや、ついに小池の存在さえ言及しなくなった。それなのにこの日、小池のパートナーである前原への態度はあまりに厳しかった。
筆者は闘争心むき出しの眼を見ながら、前原の社会保障政策のブレーンである井手英策(慶応大教授)が9月2日付の朝日新聞のインタビューで、進次郎の「こども保険」をこう強い表現で批判していたことを思い出した。
「あれは(実態が)ばれますよ。社会保険料の負担に頼れば、現役世代にしか負担がないし、子どものいない人は何の利益もないのにお金だけとられる。世代間の分断、子どもがいる世帯といない世帯の分断をうみます」
京都は、自民党では元自民党幹事長の野中広務や元総裁の谷垣禎一、元衆院議長の伊吹文明ら大物を輩出してきた一方で、府議会や京都市会では共産党が自民党に次ぐ第二会派にある。
地方レベルでは共産党が地域に根差していながら、国政では前原を筆頭に個人の力で築き上げられた旧民主党の基盤が強く、2009年の政権交代時には6つの小選挙区のうち5つで自民党前職を相手に大勝した。いわば第三極の成功事例なのだ。
全国有数の野党が強い土地柄である上に、京都自民党は宮崎謙介の「ゲス不倫」騒動などで物議を醸したばかり。危機感は相当に強い。
宮崎辞職後の補選に公認候補を立てられなかった京都3区の演説会では、進次郎とは別の応援弁士が約500人を前に騒動のお詫びを口にする場面もあった。
さて、そんな京都の演説会は、どのような戦略で臨んだのか。今日は進次郎本人に解説してもらうことにする。
「北海道とは別の意味で、地盤をつくるのが難しい土地ですよね。前原さんの地元である京都2区が典型的だけど、『同情票』が生まれていると聞いている。
でも、どういう同情なんだろう。『小池さんに騙されてかわいそうね』という同情なのか。そういう雰囲気が出てくるのは、これまで野党が地盤をつくり上げてきた表れですからね。自民党のほうは地道に地盤をつくっていかないといけない。
でも、前原さんへの同情というのは京都の特殊的な感情だと思う。一般的にはおかしい。そこを訴えなければいけないと思いました。
だって、自分の党をなくして、新党に合流して、さらに分裂して、最近は参議院側から『選挙が終わったら、またひとつになろう』という話が出てきた。なんかねえ、絶句ですよね。
参議院には、まだ民進党があるんですね。知らなかった。そうなると、『解党』ってなんだったんでしょうね。解党とはなくなったということですよ。本当にわかりにくいことをしていますよね。
しかし、自民党自身には追い風はありません。野党の自爆能力が予想以上に高いだけ。それに野党が食い合っているだけだから。
自民党に追い風はありません。政治は怖いですからね。一言で局面が変わりかねませんから、気を引き締めていかねばなりません」
✳︎敬称略
(取材・構成・写真:常井健一、編集:泉秀一)