【進次郎ーDay1】理よりも情。感謝という名の「小池批判」

2017/10/11

初日は「スカジャン」でスタート

小泉進次郎は、過去3度の衆院選と変わらない公示日の朝を過ごした。
朝8時、地元・神奈川県横須賀市内の神社で支援者らと必勝祈願。愛車のクラウンでいったん事務所に戻り、9時30分から横須賀中央駅前で自身の出陣式を行った。
選挙の間、事務所を置いている物件は、父の時代も使っていた由緒ある場所だ。 これまでと大きく異なったのは、出陣式の際に着込んだ衣装。横須賀名物のスカジャンで派手に登場したのだ。「地元愛」を示すために、自ら発案したという。
「全国の候補者の中でスカジャンを着ている人は私しかいません」
500人近い支持者を前にそう訴えた後、神奈川県の逗子駅まで車で移動し、湘南新宿ラインに乗ってグリーン車内で昼食。正午過ぎに池袋駅東口(東京10区)で公示後の応援演説第一声を行う。
濃紺のミニバンに乗り換え、八王子市の陣馬街道四谷交差点(東京24区)、田無駅北口(東京19区)、大宮駅西口(埼玉5区)、浦和駅東口(埼玉1区)と首都圏を回り、愛用のリモワのキャリーバッグを自らガラガラと引きながら、浦和駅から特急スペーシア(個室)で移動。
同じ車両では、ある大物キャスターと接触した。その後、栃木県鹿沼市(栃木2区)の「まちの駅・新鹿沼宿」の前で演説を行った。終了後、そのまま自動車で真っ暗闇の田園地帯に消えていった。

10月10日の「小泉進次郎の言葉」

「さあ、選挙が始まりました。私がなぜ小池さんのお膝元を全国遊説のスタートの地に選んだのか。私は、希望の党を立ち上げた小池さんに、心から感謝をしたいと思っているからです。
まず1つ目の感謝は、小池さんのおかげで、自民党に野党時代のことを思い返す良い機会をくれました。私たちに緊張感を与えてくれた。
この5年間の長い政権の中で、国民のみなさまから頂いている批判の声、自民党の足りないところ、そういった厳しいことを聞きつけることで、私が初めて選挙に出た8年前の、自民党が野党になった時、あの苦しい時でも支えてくれた多くのみなさんへの感謝、野党の時を忘れてはいけないということを、もう一度、小池さんは思い返させてくれたと思います。
そのことについて、まず小池さんに『ありがとう』と言いたいと思います。
そして2つ目の感謝は、『希望』という言葉を使ってくれたおかげで、『真の希望』とは何なのかを考える機会を与えてくれました。
真の希望とは、いつの時代も若い力です。Sさんは、東京10区の候補者の中で最も若い。私と同世代で、今まで国づくりのことを一緒にやってきた仲間です。
Sさんが特に力を入れてきたことは、まだ選挙権を持っていない若い人に対しても、どうやったら政治に関心を持ってもらえるか。若者の政治参加を後押しする活動に取り組んでたのが、Sさんなんです。そうなんです。小池さん、ありがとう。
真の希望はなにかを考えさせてくれました。
最後に、小池さんへの3つ目の感謝があります。それは、選挙目当てでいろいろやっても、有権者はそれを見抜くということを、改めて教えてくれました。ありがとう。
私とSさんは自民党の中で2020年以降の国づくりを考えることを一緒にやってきた仲間です。
私たちがオリンピック・パラリンピックの後を見据えてやっていたのは、政治家の本当の役割とは次の選挙のことを考えるのではなく、次の世代を考えることが私たちの役割です。
それが政治への希望だと思うから、私たちはこども保険とかそういう新しい提案をしてきました。最近、保育園をつくろうとすると、子どもの声が騒音だとか、赤ちゃんの声がうるさいだとかそういう意見が出て、建設がストップしてしまう。
だけど、私はあえて言いたい。反対しているみなさんは、赤ちゃんの時はなかったんですか? そして一度キリとも泣かずに育ったんですか。赤ちゃんが泣くのは仕事みたいなもんじゃないですか。
子育てをする世代が、肩身が狭い思いをする社会を変えなければいけないと思うから、私たちは子どものことを社会全体で支える国づくりをやりたいと訴えてきたんです」(10月10日正午ごろ、池袋駅東口)

感謝という名の「小池批判」

「今日、私は野党の批判をしません」
これが公示前に大阪、東京、愛知で行った演説冒頭で使った常套句だったが、その理由を「だって、時間がありません。批判をしはじめたらキリがないから」などと、皮肉を利かせながら説明していた。
第一声の中身も「感謝」とは言いながら、実際は小池新党に対する痛烈な批判に聞こえる。
初日の予定を固めるに当たって、小泉進次郎は「理」よりも「情」を優先した。本人いわく、10日のテーマは「感謝」らしい。
応援要請があった中から、これまでお世話になった先輩や後輩の選挙区を優先的に選んだということだ。ざっくり言うと、「小泉進次郎のなかまたち」の応援に入ったのである。
第一声に東京10区を選んだ理由も、単に小池百合子が国会議員時代に出ていた地元選挙区で、希望の党前職の若狭勝が相手だからではない。
自民党の鈴木隼人が、進次郎主導で党内から人選をし、運営を担ってきた「2020年以降の経済財政構想小委員会」のメンバーだからだ。埼玉1区の村井英樹も同委員会のメンバーである。
東京24区の萩生田光一、東京19区の松本洋平、埼玉5区の牧原秀樹の共通点は、自民党青年局の局長経験者であるということ。埼玉5区には立憲民主党代表の枝野幸男がいるなど、新党が総力を注いで自民党に対抗している地域でもある。
45歳以下の党員10万人以上が属する青年局の局長ポストは、竹下登、宇野宗佑、海部俊樹、麻生太郎、安倍晋三も若手議員時代に経験したことから「総理の登竜門」と呼ばれている。
近年では進次郎が第44代青年局長になったことによって脚光を浴びたが、学生の体育会並みに局長経験者どうしの先輩・後輩の意識も強い。
最後に訪ねた栃木2区の西川公也は、本日唯一の閣僚経験者(元農水相)。進次郎が8月まで自民党の農林部会長を務めた際に上司に当たる立場だった人物だ。
県議出身の叩き上げでありながら、小泉純一郎政権では郵政民営化担当の副大臣を務め小泉家とのつながりもある。
農協改革を推し進める際、結果を急ぎがちな進次郎に対し、農政特有の交渉術を叩き込んだ農林族の重鎮である。移動中、進次郎は「間違いなく私の政治人生の中で師匠と呼べる方の一人だ」と語った。
じつはこの栃木2区は、農業関係者にとっては注目度の高い選挙区でもある。農業土木にからむ莫大な予算がついている農水省の農業農村整備事業は政界関係者の間では、そのイニシャルから「NN予算」と呼ばれているが、最近では「二階(俊博)・西川予算」を意味するほど西川の影響力は大きい。
しかし、元栃木県知事の福田昭夫を相手にこれまで1勝2敗。自民党は73歳以上の比例重複立候補を原則認めないため、前回比例復活の74歳の西川は背水の陣を強いられている。 
✳︎敬称略
(取材・構成・写真:常井健一、動画:石原弘之、編集:泉秀一)