火星への有人飛行に、想定外の問題か
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ちょうど執筆中の本にこのことを書いたので、手元に数字があります。
火星表面における、宇宙放射線による人体への被曝量は一年あたりおよそ0.1〜0.3シーベルト。地球の約100倍。現在のNASAの宇宙飛行士に対する生涯被曝量の上限は0.44〜1.17シーベルト(性別、年齢、喫煙の有無で異なる)なので、数年の有人探査ならば大丈夫です。ですが、定住するには無対策だと厳しいです。
同じ理由で、もし現在火星に生命がいるなら、地下だろうと考えられています。凍ってるけど水も地下なら豊富にあるので。将来の火星都市は地下に築かれるでしょう。
放射線からのシールドで難しい点は、secondary radiation(二次放射線)です。宇宙船の金属の壁に放射線(高エネルギー粒子)が当たると、ビー玉のように壁の粒子を弾き飛ばし、二次的な放射線がシャワーのように宇宙船内に発生します。これが厄介。
直感と反するかもですが、放射線の遮蔽にはできるだけ軽い原子がいい。一番軽い元素は水素。そして水素を一番豊富に含む物質といえばーそう、水です。宇宙放射線など高エネルギー粒子が降ってくるタイプの放射線に対して、水は最強のシールドです。ですから、宇宙船の壁に水タンクを埋め込む、なんてアイデアを聞いたことがあります。どのみち水は持っていく必要があるので。なので、放射線環境が最凶なエウロパでも、氷の下なら生命が存在できると考えられているわけです。
あと、もし将来宇宙のどこかに移民するなら、放射線下で人類が繁殖できるのか。胎児や幼児にどんな影響が出るのか。これが全く未知数かつ大問題。(だし、人体実験ももちろんできないし。)いわずもがな、繁殖できなければ地球外のコロニーは続かない。
記事タイトルのようにこれは「想定外」の問題ではなくて、昔から知られている問題です。イーロン・マスクは10年したら火星に人が住んでいるように話すけど、以前に書いた惑星防護に加え、このような問題もあし、ロジスティックの問題もある。ロケットさえ作れば即移民できるわけじゃない。
何千年、何万年というスケールで考えて、人類が太陽系だけではなくその先へも進出するのは必定。解決すべき技術的課題は山ほどある。必ず解決できる。事を急いてはいけない。ひとつづつ解決していくことが、人類の火星への道、さらにその先への道につながる。放射線被曝は、微小重力と並んで、有人宇宙探査の人体への二大リスクのひとつ。
地球圏から離れたところでは、一次宇宙線は主に、銀河宇宙線(GCR)と太陽粒子線のふたつ。11年周期の太陽活動において、活動が活発になる極大期には、太陽風がGCRを吹き飛ばすのでGCR線量は最小になる。そのかわり、太陽フレアが発生するようになる。つまり太陽活動が活発な時の方が、平時は楽になり、ときどき強い太陽粒子線が飛んでくる。
放射線対策は、宇宙船や基地はできるだけ水やレゴリスで遮蔽して、太陽フレアのときだけ防護服を着るとかシェルターに避難するみたいなマネジメントが良いかな。
ただ、宇宙に行った人数はまだ600人にも満たない(まして地球圏を出たのは18人)ので、サンプルが小さすぎて、健康被害については統計的に有意なことはまだ何も言えないと思う。