シガーソケットに差し込むだけで“つながる”。コネクテッドカー最前線

2017/10/17
今、自動車の性能が大きく拡張されようとしている。世界中がこぞって開発を続ける自動運転車がその代表格だが、それとは別に自動車の未来、そして社会を大きく変える技術として注目されているのが「コネクテッドカー」だ。自動車を“走る情報端末”に変え、さまざまな付加価値をもたらすといわれている。その現在地と、これからについて探った。

既存車のシガーソケットにデバイスを差すだけ

コネクテッドカーとは、インターネット通信環境を付与し、ICT端末としての機能を有する自動車のこと。
センサーで取得した車両の状態や走行ログ、周囲の道路状況などをクラウド上で集積・管理・分析し、さまざまな分野で活用することができる。
たとえば、事故発生時に自動でロードサービスに通知される「緊急通報システム」、車両の盗難が判明した際にスマートフォンに通知が届き、現在位置を特定して警備員を派遣する「盗難車両追跡システム」、あるいはドライバーの運転実績に応じて保険料が変化する「テレマティクス保険」など、すでに実用化されているものも多い。
写真:Adobe Stock
コネクテッドカーのすごさは、今まさに街中を走っている車にも最先端のテクノロジーを搭載できる点だ。車内のシガーソケットなどにデバイスを差し込むだけで、“古い車”が最新の“コネクテッドカー”に生まれ変わる。
「これからのモビリティは自動運転車(AV)、電気自動車(EV)、そしてコネクテッドカー(CV)の時代といわれていますが、そのうち最も早く普及するのがコネクテッドカーではないでしょうか。
AVやEVと違い、既存の車を活用できるのは大きなアドバンテージです。デバイスはスマホのOSのように頻繁に機能が更新されていきますので、車自体を買い替えなくても、常に最新のコネクテッドカーとしてアップデートしていくことができます」
そう語るのは、株式会社スマートドライブ代表の北川烈氏。同社では、デバイスの開発から取得したデータの解析までをワンストップで行っている。

1~2分でセットアップ完了

現在、スマートドライブ社が販売しているデバイスは3種類。右2つは全ての車種に対応できる「シガーソケット」タイプ。左は車種は限定されるものの、より深いデータが取れる「OBD」タイプ。いずれも取り付け工事不要。1~2分でセットアップが完了するという
「最新のデバイスでは、非常に詳細かつ、幅広いデータを取得・解析できるようになっています。たとえば、センサーで運転の挙動を検知し、どの方向にどれくらいのg(重力加速度)がかかると故障や事故が起きやすいかを分析したり、あるいは、どの道路のどの区間で急ブレーキが多いか、東京と大阪、どちらのドライバーの方が運転が荒いのか、といったことまでビッグデータ化し、可視化できるようになってきました。
もっと細かいところでは、『プリウスのユーザーは土曜日にこんな場所に出かけることが多い』など、車種ごとのデータも取ることができます」(北川氏、以下同)

コネクテッドカーがもたらす未来とは?

ただ、重要なのはそれをどう活用し、いかに社会へ役立てていくか。
スマートドライブ社の事例では、たとえばBtoBなら運送会社(営業など、事業用途で車を保有・管理する会社を含む)に導入され、膨大な走行データから「安全・エコ運転の促進」「運行ルートの可視化と効率化」「運転日報の自動化」などに活用されている。
また、個人ドライバー向けの事例では、アクサダイレクト社と提携し、新たなテレマティクス保険の開発を進めている。他にも、ドライバーが自身の運転のクセを把握し、スマホで運転改善のアドバイスを受けられるようなサービスもあるなど、その用途は幅広い。
スマートフォンアプリ「DriveOn」ではドライバーの危険運転や非エコ運転などを検知しドライバーに知らせることによって、安全&エコドライブを支援する
「次のフェーズでは、コネクテッドホーム、つまり『家』とつながって、車が自宅に近づくと自動でエアコンがつき、風呂が沸く。鍵を閉め忘れたら、車のエンジンをかけた段階で通知が届くといった、生活をより便利にしていく方向性が考えられます。
さらに、たとえば海辺を走っていたらサザンの曲が自動的にかかったり、よく行く店の前を通るとスマホにお得なクーポンが表示されたりと、エンタメやグルメ情報とも紐づいてくるのかなと思いますね」
さらに、コネクテッドカーの普及がこのまま進んでいけば、いずれ全ての車が「走る情報端末」になり、全ての車が社会にとって有益な情報をもたらすインフラになる。
混雑する道、時間などの詳細な分析も可能になり、より精度の高い渋滞回避情報や、道の整備など都市計画にも活用されていくはずだ。
写真:Adobe Stock

特定の自動車メーカーと組まない

「理想は、カーナビなどと同じくコネクテッドカー用のデバイスが“新車の標準仕様”になることです。しかし、少なくとも弊社では、特定の自動車メーカーと組んでデバイスを売っていくことは考えていません。
というのも、日本の自動車産業は縦割りになる傾向が強く、メーカーを横断するオープンプラットフォーム型のサービスを提供するのは難しい。コネクテッドカーは、広く、社会全体のインフラになるべきもの。メーカーを問わず、全ての車に搭載される未来を目指したいと考えています」
富士経済によれば、コネクテッドカーの世界市場は2025年に6500万台を超えるという(※新車のコネクテッドカー、既存車のコネクテッドカーの合計)。
車が単なる移動手段の域を超え、社会に大きなインパクトを与える。そんな時代が、すぐそこまでやってきている。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)