ライブ動画戦国時代。視聴者の心をつかむのは誰だ?

2017/10/1
フジテレビのWeb専用チャンネル「ホウドウキョク」とNewsPicksがコラボし、7月からスタートしたライブ経済ニュース番組「LivePicks(ライブピックス)」。この取り組みを、“映像メディアのプロ”はどう見ているのか?
専門的視点はもちろん、いちピッカーとしてのユーザー目線で、動画コンテンツの未来について考える座談会の後編です。前編はこちら

都議選を経済で斬る

――番組のテーマ設定や、ゲストの顔ぶれはいかがですか。ユーザーからのコメントで「政治はいらないんじゃないか」「もっと経済をやってほしい」などの意見もあるのですが。
工藤 テーマは、今のように色々なジャンルがあっていいと思います。仮に経済オンリーにしても、大企業からベンチャー企業まで幅広い切り口があります。ベンチャーを取り上げればテクノロジーの話になり、そうなると海外の話題も出てきて、結局政治がらみの話になったりするじゃないですか。
各ジャンルは明確に切り離せるものではないので、決めこまないほうがいいのではないでしょうか。ファッションやカルチャーがあってもいい。NewsPicksとホウドウキョクが組んだ番組という時点で、一つのブランディングができていますから。
清水 LivePicksの初回放送日の7月3日は、東京都議選の翌日でした。経済を標榜する番組とはいえ、都議選の翌日にそれを取り上げないのはどうだろうか。
でも地上波と似たようなことをしても意味はない。
初日から課題を突きつけられて、佐々木さんやスタッフの皆さんと悩みました。議論を重ねた結果、「都議選を経済で斬ろう」となり、東京の成長戦略について、ゲストの厚切りジェイソンさんにも意見を出してもらいながら、構成を練りました。
工藤 LivePicksが目指す方向性が、いきなり問われたんですね(笑)。
清水 俊宏(しみず としひろ)
フジテレビ ニュースコンテンツプロジェクトリーダー。『ホウドウキョク』(houdoukyoku.jp)などニュースメディア戦略の構築担当。2002年に報道局配属後、政治部で小泉首相番、新報道2001ディレクター、選挙特番の総合演出(13年参院選・14年衆院選)、ニュースJAPANプロデューサーなど。趣味は海外放浪旅。
清水 細野 豪志さんが民進党を離党した時も、細野さんの出演と以前から計画していたビットコインの特集の2本立てにしたんです。ビットコインのゲストは別の日に出直してもいいと言ってくれたので、細野さんだけにする選択肢もあったのですが、欲張って両方にしました。
結果は賛否両論でした。細野さんだけでいいという意見もあれば、ビットコインだけでいいという批判もあって。色々な意見があるんだと改めて気づきました。
もちろん批判がくるということは、皆さんLivePicksを見てくれているということなので有難いですね。
工藤 でも細野さんの話題はタイムリー性が命なので、1か月後じゃ意味がないですよね。
清水 ええ。それに、細野さんが若狭議員と会うと明言したのは、LivePicksが初めてだったので、地上波のニュースでも取り上げられました。これからもLivePicks発のニュースが出せればいいなと思います。
工藤 里紗(くどう りさ)
テレビ東京 総合演出・プロデューサー・監督。現在は月〜金放送中の『昼めし旅 〜あなたのご飯見せてください〜』『ソレダメ!』のプロデューサー、ドラマ24『ナイトヒーロー NAOTO』の監督を担当。これまでにも『極嬢ヂカラ』やドラマ『アラサーちゃん 無修正』などの演出・プロデュースを手がけている。また、劇場公開映画『ぼくが命をいただいた3日間』では映画監督デビューも果たした。
――キャスティングについてはいかがですか。
亀松 キャスティングするときに、出演者のキャラクター性と、話の中身のどちらを重視するかは悩みどころです。僕が以前やっていたニコニコ生放送では、大半のユーザーは暇つぶしに見ているので、キャラクターが面白いほうが絶対いい。でもLivePicksは経済番組ですから、話の中身も重要でしょう。バランスが必要ですよね。
清水 それはおっしゃる通りです。ふだんNewsPicksでは、知見があって深いコメントをしている専門家でも、いざ話してみると「おや、ちょっと分かりにくいな……」と思うこともありました。「この方は動画よりもテキストの方が、魅力を活かせるかもしれないね」など反省会で話したりします。
亀松 テーマは色々あっていいと思いますけど、その中で誰を出すかということですね。そういう意味で、落合 陽一さんはすごく人気がありますね。あのキャラクターをライブで見たいというのがあるだろうし。
清水 落合さんは、難しい話をなんとなく分かりやすく思わせてくれるキャラクターですね。番組が終わった後に、ちょっと自分が賢くなったような気がします。
落合さんには毎週出演してもらっていて、彼の専門分野であるテクノロジーが好きな人の心にはすごく刺さると思うんですが、それ以外の人がまったくついていけない状況になっているかもしれないので、その塩梅を考えつつやっています。
亀松 太郎(かめまつ たろう)
ジャーナリスト。朝日新聞記者からキャリアをスタートし、複数のネット系ベンチャー、「J-CASTニュース」の記者・編集者を経て、ニコニコ動画の「ニコニコニュース」編集長に。現在は「弁護士ドットコム顧問」、「外資就活ドットコム」のプロデューサーをはじめ、ニュース系メディアのアドバイザーを務める。早稲田大学大学院ジャーナリズムコース非常勤講師。

中途半端なテレビっぽさは不要

――番組冒頭の数分間、VTRを使って今日のニュースを振り返る「ニュースゾーン」のコーナーがあります。LivePicksにこのコーナーは必要でしょうか。
工藤 個人的には、全く必要ないと思います。
そのようなニュースは地上波ですでにやっているし、取材もVTRもそちらのほうが勝るでしょう。中途半端にテレビっぽくなるよりは、LivePicksならではのトークや解説に尺を割いたほうがいいです。
清水 今日あった出来事に関して、すぐに専門家につないで解説できるのも一つの生(なま)感かなとは思っているんですが……。「テレビにまだ出てきたことがない専門家につなげられるのは、LivePicksの面白さ」と言われるようになろうと。
工藤 たしかに、そういうのはあるといいかもしれませんね。
清水 単なるニュースにならないよう、見せ方を試行錯誤しています。
亀松 ただ、ユーザーのニーズも、今日あった出来事を全体的に網羅したいというよりは、一つのテーマについて深く知りたいというほうが大きいのではないでしょうか。
NewsPicksの記事全体でも、情報量が多くてすべて見切れないですし、自分が読む記事はあるジャンルに偏るのが普通じゃないですか。だから自分が知らない分野について、LivePicksでわかりやすく解説してもらえるのはありがたい。
とはいっても、最近の若い人はまったくテレビを見ない人も増えていますよね。LivePicksは、基本的にはテレビがやらないことをやるべきだと思いますが、テレビを見ない人が多いのであれば、テレビ的な要素がちょっと入ってもいいのかなという気もします。
僕が注目しているのは、堀潤さんがTOKYO MXテレビでやっている『モーニングクロス』という番組です。テレビとネットの中間のような番組で、最初にニュース一覧を見せた後、「20代が注目するニュース」や「女性が注目するニュース」と属性ごとのランキングを見せていて、けっこう面白いです。
毎回、違う属性の切り口で注目ニュースをランキングにして、そのうち1つか2つを取り上げると、ユーザーの興味を引くと思うんですけどね。
工藤 特にNewsPicksは、プロフィールをきちんと書いているユーザーが多いですから、データを活用しやすそうです。同じ40代男性でも独身と既婚者では違うかもしれないし、「ベンチャー企業に勤めている人」という属性だと全体とまったく違う結果が出るかもしれませんし。
清水 それはいいですね。テレビの視聴率では、そこまで細かい視聴者データは出ないので、LivePicksでやると本当にリアルな数字が出て面白そうです。
今は、NewsPicksでピックされたランキングや、佐々木さん、ゲストの気になるニュースとして出演者目線で取り上げていますが、そういうユーザー目線にしたほうが見る気になるものでしょうか。
亀松 そのほうが自分ごとに感じられますし、ユーザーの顔も見える。ふだんのNewsPicksでも、ユーザーのコメントが大きな価値になっていると思うので、そういう思想的なものがより出てくると面白いでしょう。
清水 たしかに。私も工藤さんと会うのは今日が初めてですが、ふだんコメントを読んでいるので、だいたいどんな人なのかわかっていましたから(笑)。

テレビじゃできないことの追求

――ここまでにお話しいただいたこと以外で、LivePicksがもっとこうなればいいのにという具体的な改善案はありますか。
工藤 前半でも少し述べましたが、もっとネットに振り切るところを、ユーザーとしては一番見たいです。テレビ局だと、基準があったり、多方面を気遣って無難な取材や解説になったりするところを、他のニュースが生ぬるいと思うくらいにめちゃくちゃ突っ込んでみる。
例えば、タクシー会社の社長に「『ウーバー、ウザい!』って思いませんか?」と聞いちゃうような(笑)、本当に知りたい声やみんなが求めている刺激をパーンと打ち出せるのが、ネットの強みだと思います。
清水 ネットはそういうところから人気が出ますね。
工藤 あと全体的に、画面が固定されている感が否めないので、もっと工夫できると思います。
例えば、自分が知らない話題がテーマになっている時に、LivePicksを見ながら手元のスマートフォンをピッと操作すれば、それについて解説されたNewsPicks記事に飛ぶことができればいいなと思います。
テレビ番組もそうですが、何かを伝える時、1から説明するのか、ある程度知っている人が多数派だと想定してそこから始めるのか。どのレベルの人に合わせて作るかが悩みどころなんです。
技術的なことはわかりませんが、この機能があれば「こんなことがあるんだ」「この人がこんなことを言っていたんだな」とその場で学べてすぐに追いつけますよね。
亀松 同感です。とくにビットコインのような新しくて難しい話題の場合、グラフや表をスライドで見せて解説していますよね。この資料を、番組の進行とは別枠で閲覧できるようにして、ユーザーが自分の好きなタイミングで資料を見られるといいなと思います。
清水 もっとグラフを見たいのに、消えて出演者の顔に戻っちゃった、みたいなことはありますね。
亀松 工藤さんが言うように、画面にあまり動きがないので、ユーザーにとっては音さえクリアに聞こえればOKなのではないかと思います。出演者の解説を聞きながら、目では資料や解説記事を読めるようになれば、もっと価値が出ると思います。
工藤 他には、アーカイブ映像を見る時に、2倍速、3倍速で再生できる機能があればもっと有難いですね。
亀松 これは個人的な希望ですが、番組をアーカイブ化するときに、出演者の会話すべてに字幕が入るといいなと思います。字幕があれば、たとえば電車の移動中に音を出さないで、もっと気軽に見ることができますから。
あと、自分がNewsPicksでフォローしているピッカーがLivePicksでコメントすると通知されたり、コメントが目立って表示されたりする機能もあるといいですね。あるユーザーにとっては、LivePicksに投稿される約1000件のコメントすべてが重要なのではなく、「注目している人がこう言った」というのが大事ですから。
工藤 それから、ちょっと難しいかもしれませんけど、海外素材をうまく取り入れて欲しいです。権利関係など色々制約があるでしょうが、地上波ニュースで見られないような海外の映像があれば、私はもっと見たいと思いますね。

あらためて感じるライブの力

――では、LivePicksに限らず、動画コンテンツ市場そのものを、皆さんはどう見ていますか。
清水 ライブコンテンツだけでも、Abema TVやメルカリチャンネル、LINE Live、もちろんニコニコ動画など、たくさんあります。これだけたくさん出てきた中でも、経済に特化したものはほとんどありません。これからもなかなか乗り出してこないと思うし、それだけ、他が真似のできないものを作っている自負はあります。
そういう意味では、他のネット動画はもちろん、テレビ東京の『ワールドビジネスサテライト(WBS)』や、BSフジの『プライムニュース』にも注目しています。
亀松 たしかに生放送は面白いですが、番組を見ると確実に30~45分間取られますよね。LivePicksを見るような人は、おそらくコスト意識が高いでしょう。番組を見るために自分の夜10時からの時間を使うことを考えると、果たして生で見る必要がどれくらいあるか。もしかすると、ライブを見る人よりもアーカイブを見る人のほうが多いのかもしれないと思います。
清水 もちろんアーカイブも活用してもらいたいのですが、録画はいつでも見られると思って、1回見逃すとどんどん溜まっていきがちです。著名人の講演会を例に挙げると、1時間の講演にわざわざ往復1時間以上かけて電車で通うことを考えれば、LivePicksはそれと同等か、コメントも含めるとそれ以上の価値を提供できるのではないかと思います。
今後VR技術などで、ユーザーが出演者と一緒にスタジオにいるような体験ができるかもしれない時代を見据えると、やはりライブであることが大切だと感じています。
工藤 ライブの時代が来ていることは間違いないですけど、動画メディアってお金がかかりますよね。Netflixに何百円、Amazonプライムに何百円、Huluにも何百円、TBSドラマもみたいから各局オンデマンドにも……と毎月払っているうちに、あれ、今までテレビをタダで見ていたのに、とふと感じることがあります。
清水 それはありますね。
工藤 しかも、各メディアのウィンドウを開くとものすごい動画数があります。最初は番組数が多くて喜んでいましたが、最近は選ぶことが精神的負担になってきて。人間の時間とお金、作業量は限られていますから、「ふ〜、どこか1つにまとめてくれないかな」なんて思ったりします(笑)。
現代人はすごくせっかちになっていて、移動中、当たり前のように2倍速で音声を聞きながら、目では違う記事を読むといった複数の作業を並行します。これだけアーカイブが活用される時代に、あえてライブで生き残っていくには、お祭り感や仲間意識をどう作っていくかでしょうね。
そういう意味では、演劇とかコンサートってすごい。半日くらい閉じ込められて携帯もいじっちゃいけないのに満足できるんですから、本当にすごいことだなと思います。
亀松 そうそう。僕も月に一度くらいコンサートに行きますが、やっぱりその体験って何物にも代えがたい。その場の熱が高まっていて、そこでしか得られないものがたくさんある。それとネット上のライブ配信が同じなのかというと、やはり似て非なるものだと思います。
とくに最近感じるのは、演劇やコンサートって、その間、ネットから遮断されることが大きな価値になっていますよね。
工藤 今どき、日常生活で何時間もネットにアクセスしない時間なんて、なかなかないですもんね。目の前のパフォーマンスだけに集中できるって、実は驚異的!
清水 ネット動画だと、それを見ながらでも、何か他のことを並行してできますから、その違いは大きいかもしれませんね。

ライブ動画戦国時代のゆくえ

――演劇やコンサートの話も出ましたが、ライブの動画メディアの中で、お三方が注目する、可能性を感じる媒体はありますか。
清水 実感するのは、本当に勝ち組がいないということですね。
亀松 すごい状態になってますよね。まさに戦国時代。あと、テレビでもネットのライブっぽい番組が出てきました。NHKが夜11時からやっている『ニュースチェック11』も視聴者のTwitterが流れますし、先ほど言った『モーニングクロス』もそうです。
工藤 Eテレの子供番組も、ある意味ライブ的だと感じます。収録ものですが、リモコンの青ボタンを押すと画面のボールがポンポン跳ねたりして、子どもの特性をうまくとらえています。
清水 もしかしたら、テレビが一番優勢なのでは、と思いました。ネットがたくさんありすぎてどれを見たらいいかわからないから、テレビを見ていれば安心、みたいな心理があるのかもしれません。
亀松 ネット中心に仕事をしてきた同世代の人が、最近「結局、テレビが最強なんじゃないか」と言うのを聞きます(笑)。
ニコニコ生放送が出てきたときは、リアルタイムでユーザーがコメントを寄せられるのが画期的だったんですが、Twitterの隆盛で、テレビを見ながらTwitterでコメントをするのが主流になりましたからね。
清水 たしかに、日本全国でマスに見られているテレビ番組についてコメントするほうが、共有体験として面白いかもしれませんね。
亀松 ただコメントを一つずつ見ていくと、匿名ユーザーが中心のTwitterに対し、NewsPicksは実名登録をして、プロフィールも書いているユーザーが多いせいか、コメントの質が高い。他の媒体にはない大きな価値だと思います。
清水 マスかそうでないかという点では、やはり落合さんの専門分野とキャラクターは、1000万人が見るマスタイプではないんです。でも、LivePicks上で見てくれる1万人にはすごく受ける。そういう棲み分けも考えながら、今後の戦略を練っていきたいですね。
――最後に、亀松さんと工藤さんからLivePicksにエールをお願いします。
工藤 NewsPicksのオリジナル記事が「うわあ、堀江(貴文)さんと高城(剛)さん、クレイジーな組み合わせを持ってきたなあ!」と思わせてくれるように、LivePicksでは文字以上に訴えかけるような、振り切って攻めたものを期待しています。
亀松 番組中にハプニングが起きるのも、生ならではだと思います。ゲストが激怒して帰ってしまうとか。お行儀がよくなってしまったテレビ局にはできないことをLivePicksで見たいですね。頑張ってください。
清水 お二人とも、さまざまなご意見をありがとうございました!