ネットを通じた結婚仲介の流行

インドでは、都市部以外の地域でも高速で安価なインターネットアクセスが普及したことにより、思わぬ結果が生じている。ネットを通じた結婚仲介の流行だ。
社会的伝統を重んじるこの国では、いまでも親類の紹介による見合い結婚が多い。だが、モバイルネット接続は、田舎に住む家族がオンラインで幅広い結婚希望者の中から相手を探すことを可能にした。
そうした動きは、結婚相手を探せるデータベースを運営するMatrimony.comやJeevansathi.com、Shaadi.comなど、サイバーサービス各社の需要を急増させている。
推定4億5000万人のモバイルネットユーザーがいるインドで、IT革命は結婚市場を一変させつつある。伝統的に結婚仲介人と新聞広告に支配されていた市場を、オンライン結婚仲介業者たちが侵食しているのだ。
インドの市場調査会社ケン・リサーチは2016年のレポートで、まだ生まれて間もないこの業界の売り上げは2010年から2015年までに平均年21%の伸びを示しており、2020年には206億ルピー(3億2200万ドル)に達すると予測した。
9月11日に新規株式公開を行ったMatrimony.com(本拠はチェンナイ:旧称マドラス)では、2016年だけでプロファイルの登録者が300万人増加。そのうち40%は準都市部に住む人々だった。
また、2017年第2四半期において、同社のデータベースに追加されたプロファイルの4分の3は、スマートフォンからアップロードされたものだった。これに貢献したのは、スマートフォンの値下げ、インターネット接続の高速化、そしてモバイルアプリの充実だ。

540億ドル規模の市場

Matrimony.comの創立者で最高経営責任者を務めるムルガベル・ジャナキラマンは、あるインタビューで「このトレンドは続くと予想している。ここに挙げられた理由によって、当社のプラットフォームはより多くの人を呼び込めるだろう」と述べた。
インドの結婚市場は仲介業、式場、ケータリング、飾り付け、写真なども含めると、総額で約540億ドル規模に達する。
大富豪のムケシュ・アンバニが率いるリライアンス・ジオ・インフォコムは7月から、データ通信ができる1500ルピー(約2600円)のハンドセット「ジオフォン」と、153ルピーからという格安の月額料金プランの提供を開始。同時に、インドの田舎での第4世代モバイルネットワーク接続を強化した。
また、バーティ・エアテル(Bharti Airtel)もこれに追従し、データ通信料金を大幅に値下げした。
「ジオフォンの発売に伴って、最近ではジオフォン・ユーザーによる利用が大きく伸びている」と、Jeevansathi.comのローハン・マートゥル上級副社長は、ニューデリー近郊の同社オフィスで行われたインタビューで語った。
「インターネットのこうした爆発的な普及は、膨大な数のユーザーがアクセスすることにつながる」
しかも、それには複合的な効果がある。利用者が増えれば、条件の合う結婚相手候補も増えることになり、それがさらに多くのユーザーを呼び込むのだ。

増える「セルフお見合い」結婚

インド工科大学デリー校で社会学を教えるサルベスワル・サフー准教授によれば、カーストに基づく社会階級区分と家父長制度に根ざした伝統的な「お見合い結婚」のシステムは、現在大きく変わりつつあるという。
サフー准教授は6月に「ジャーナル・オブ・サウス・アジアン・スタディーズ」で公開した論文で、若いインド人の間では「恋愛結婚」が好まれるようになっているが、カーストと古くからのコミュニティが根強く残っているため、若者同士が恋に落ちて結婚するのは、まだ簡単なことではないと述べた。
「オンライン結婚仲介のテクノロジーは、結婚を望む人たちが地理的な境界を越えて、自主的に『お見合い』をする可能性をもたらした」と、同准教授は言う。
「この新しいテクノロジーとオンライン結婚仲介のプロセスは、恋愛結婚かお見合い結婚かという、これまでのカテゴリーには収まらない」
「両方の世界の良いところ」をあわせ持った「セルフお見合い」結婚が増えていると、サフー准教授は語る。

携帯電話アプリが求婚を促す

北東インドにあるアッサム州の辺鄙な街、ジョールハトに住むムハンマド・アザハルディン・アーメド(30歳)は2015年、Matrimony.comを利用して、コミュニティ、地域、宗教のすべての点で希望通りの女性、マツダ・スルタナと出会ったという。
「ウェブサイトで結婚相手を探し、彼女を見つけた。わたしの選んだ人について、両親からは何の異論もなかった」と、アザハルディンは言う。
このカップルは2016年、アザハルディンの携帯電話アプリに求婚を促されたのちに、結婚した。「ラップトップを持ち歩くのは、実際にはなかなか難しく、どうしても連絡の取りやすい携帯電話を好んで使うことになる」
Shaadi.comのゴーラブ・ラクシットCEOが電話インタビューで語ってくれたところによると、3年前には、同社のユーザーたち約300万人のうち60%が、デスクトップコンピュータからサイトにアクセスしていたが、その比率はいまではわずか20%に急減。同時に、モバイルアクセスは40%から80%にまで増えたという。
特に小規模な準都市部でユーザー数が伸びているという。
「人々はこうしたサービスに、Wi-Fi接続とモバイル機器でアクセスするようになった。そして、アクセス数は劇的とも言える勢いで増えている」と、ラクシットCEOは語った。
(協力)Siddharth Vikram Philip、Anurag Kotoky
原文はこちら(英語)。
(執筆:Anindya Upadhyay記者、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:CastaldoStudio/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.