ハリルジャパンの「弱者のサッカー」に期待する理由

2017/9/19
少し時間が経ちましたし、W杯アジア予選を突破するのは日本にとって当然であり、あくまでも本番は来年のロシアW杯ですが、まずは予選突破おめでとうございます!
ただ今、出張でアジアを駆け巡っていますが、先日のW杯予選「日本対オーストラリア」の興奮が冷めやりません。
最終戦のサウジアラビア戦は悔しい敗戦に終わりましたが、アジアですら勝ちきれない現時点における力の無さを再認識できたと思うので、オーストラリア戦での予選突破によって浮かれて本戦に挑むよりも、本戦に向けて得るものがあった終わり方だと思います(繰り返しますが、大事なのは、たかだかアジアの予選ではなく、本戦ですので!)。
オーストラリアは世界のサッカー界において日本と似たような位置にいる相手で、世界の強豪相手の勝利でもないのですが、オーストラリア戦を見て今後が楽しみになってきました。
いろいろと賛否両論のある日本代表チームでしょうが、「なぜ2014年W杯日本代表よりも期待しているのか?」を個人的に3点挙げたいと思います。

W杯本戦までの伸びしろがある

まず1つ目ですが、メンバーを長期間固定してアジアで盤石な戦いぶりをしたからか、「自分たちのサッカーをすれば世界でも勝てる」という「大いなる勘違い」をしてしまったザックジャパンとは、現代表が正反対の状況にあるからです。
メンバーは固定されていない。正直、ゲーム運びもまだまだ粗い。守備陣も、連携がまだまだうまくとれておらず危うい場面が目立つ……。
それなのに、なぜ期待するのか?
粗さが目立ち完成度が低いからこそ、これからW杯までの間に伸びしろが十分あると思うのです。
逆に、2014年W杯代表はレギュラーを長いこと固定して、W杯本戦前にピークを迎え、本大会までの急成長を望めない状況にありました。日本は世界のサッカー界の「弱者」であり(2014年W杯で日本を含めアジア勢が1勝もできなかった事実を見ても明白です)、W杯で勝つには、W杯までの準備期間およびW杯開催中の劇的な成長(グループステージはリーグ戦方式、以降はトーナメント方式の短期決戦ゆえ、本戦で躍進する多くのチームにはこれが大事です)が、重要になってくると思います。
今のところ、吉田麻也、酒井宏樹、長友佑都、長谷部誠などの中心選手を除くと、レギュラーも固定されていないような感じですし、大一番にもかかわらず、本田圭佑、香川真司、岡崎慎司など長らく日本サッカーを牽引してきた実績抜群の豪華メンバーをベンチにおいておける余裕もある。記憶をさかのぼっても、W杯出場をかけた負けられない大一番で、これだけの錚々たるメンツをベンチにおいておけたケースは、覚えがありません。
オーストラリア戦でも活躍した浅野拓磨や井手口陽介をはじめとした下からの突き上げもあり、本戦までに若手とベテランの融合がさらに進むであろうこのチームから、目が離せません!

敵と己を知り、臨機応変に展開

2014年W杯時は、世界のサッカー界ではあくまで「弱者」にすぎないにもかかわらず、チームだけでなくメディア(あおっていただけかもしれませんが……)にも充満していた「自分たちのサッカーをすれば世界でも勝てる」という「妄信」じみた「勘違い」が、そもそもの間違いだったと思います。
対照的にハリルホジッチ監督は、あくまでも日本が世界のサッカー界において「弱者」であることを理解しているように見受けられます。当然、「自分たちのサッカーさえすれば世界でも勝てる」などと勘違いして、ワンパターンのサッカーをすることもないです。
しかも「弱者のサッカー」で、W杯本戦で好成績を残すことにおいては素晴らしい実績を誇ります。2014年W杯において、ハリルホジッチ監督が率いていたアルジェリアとドイツの一戦は、私の覚えている限りのベストゲームの一つでした。優勝したドイツを最も苦しめたチームも、アルジェリアだったのではないかと思います(GKノイアーの活躍がなければ、正直アルジェリアが勝ってもおかしくない試合でした)。
オーストラリア戦でも明らかでしたが、徹底的なリサーチで「敵を知り」、世界のサッカー界における弱者としての「己を知る」からこそ、相手に応じて臨機応変に展開できるハリルホジッチ監督は、日本がアジアサッカーの盟主として挑むアジア予選よりむしろ、日本が「弱者」として挑むW杯本番でこそ本領発揮するのではと思っております(もちろん、希望的観測も入っています!)。
孫子(中国史上、最高の軍師)ではないですが、まさに、「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず!」。

「引き出し」が必要

私は現場の専門家ではなく、サッカーの戦術うんぬんは素人です。しかし、2014年W杯日本代表に関して、ずっと不安だったのが「多様性」と「選択肢」の欠如でした。
世界の強豪がそろうW杯においては、「弱者」の日本だけでなく、ブラジル、アルゼンチン、ドイツといった「強豪」ですら、常に「自分たちのサッカー」ができるわけではなく、相手に応じて戦い方を変えられる「引き出し」が数多く必要となります。優勝したドイツは「引き出し」の多さが突出していました。
オーストラリア戦の快勝もあり、「対戦相手によって変幻自在に変化するハリルホジッチ戦術」的な記事を最近見かけます。「弱者」である日本に、まさに必要なことだと思います。ザックジャパンの時の「勘違い」ではないですが、「相手が誰だろうと、自分たちのサッカーをすれば勝てる」ほど、世界のサッカー界は甘くないのです……。
対戦国を丸裸にするW杯本番までの「リサーチ」。その分析に基づいた対戦国ごとに徹底的に練られた「臨機応変な戦い方」。そして、その異なる戦い方を可能にする「代表選手選出」。
これらがW杯本選での日本代表の躍進には欠かせませんので、まさにあと9カ月くらいが勝負だと思います。
策士・ハリルホジッチ監督が、本番までにいかに「引き出し」を増やすのか。とても楽しみです。

現時点の日本代表は弱い

手綱を引き締める意味で(安易に楽観論に流れないように)、最後に付け加えると、ハリルホジッチ監督も述べているように、現時点の日本代表は世界的に見ると「弱い」し、今のままではW杯でも苦戦すると思います。
しかし、その「弱者」である現在位置を監督と選手たちがしっかりと認識した上で、W杯までの最善の準備を行えば、W杯での躍進を狙う代表チームですので希望が持てるのです。
2014年W杯で見受けられた「妄信」的な「勘違い」がなく、謙虚に現在位置を認識しながらも「あの手この手」で虎視眈々と結果を残すための準備を怠らない、まだまだ荒削りだがポテンシャルを感じさせる組織。
今回のW杯は、メディアも「勘違い」したり過度に持ち上げたりすることなく、適度に叱咤激励をして、「まだまだ荒削りだがポテンシャルを秘めた日本代表」を応援しましょう!
W杯本番も、それまでの準備期間も、とても楽しみになってきました!
Go Japan!!!
(写真:松岡健三郎/アフロ)