VR30台同時接続。コネクティッドカーを「共体験」

2017/10/4

未来体験が東京モーターショーに出現

モーターショー初の30人が同時接続するVR体験コンテンツ――。一体、何のために、30人も同時接続するのか。どんな世界が広がっているのか。そこには、かつて誰も体験したことのない「共感するリアル」が待っていた。
このVR展示は、第45回東京モーターショー2017の主催者展示「TOKYO CONNECTED LAB」の一つとして予定されている30人同時接続VR体験コンテンツ『THE MAZE』だ。
NewsPicksは、この『THE MAZE』を先行体験してきた。

他者と「すれ違う」ことで協力関係が生まれる

都内に用意された会場に入ると、モニター参加者たちが『THE MAZE』を体験している最中だった。
参加者が身に着けているのは、ソニー・インラタクティブエンタテインメントが販売するバーチャルリアリティシステム「PlayStation VR」だ。目をVRヘッドセットで覆い、同じ方向に等間隔で並んでいる様子は、近未来の雰囲気が漂う。
発売から10カ月以上が経った今も大人気の「PlayStation VR」を、同時に30台も目にすること自体が新鮮だ。
簡単なレクチャーを受け、早速、「PlayStation VR」を装着する。誰もコントローラーを持っていなかったことが気になっていたが、目の前いっぱいに広がるプレー画面を見て納得した。
すべての操作は、プレーヤーの頭の動きで行う。頭の向きや角度によって、眼前に表示されるポインターを操作することができる。ヘッドホンをつけると、BGMとナレーションも聞こえ、『THE MAZE』の世界へ。
言語を選ぶよう指示があったので、ほんの少しだけ左を向いてポインターを動かし「日本語」を選択する。30人のプレーヤー全員が準備を整えて『THE MAZE』の中のスタートラインに着くまで、およそ10分。どんな体験が始まるのか、気持ちが高まる。
『THE MAZE』は、自動運転のモビリティに乗り、東京の首都高速のような、迷路状の高架道路を走り、約4~5分の制限時間内にゴールを目指すゲームだ。
近未来の東京をイメージしたというコンテンツ内の街並みは、眺めているだけでもワクワクする。
モビリティの操作は、目線を動かすだけ。交差点に、直進か右折かといった選択肢が表示されるので、自分が行きたい選択肢の方へ顔を向ければ、その通りに進む。
街を走る30台、すべてのモビリティが自動運転で速度も一定だ。コントローラーを握ったことのないような、ゲーム初心者でも問題ない。
ゴールとなるランドマークは街の真ん中に位置しており、すぐに視認できる。コースには立体交差や行き止まりが設定されており、正解のルートを特定するのは容易ではない。
基本的には、運転席から前方を見て運転するが、ところどころ、「ドローン」ポイントがある。ここを通過するとモビリティの真上を飛ぶドローンと「Connect」して鳥瞰視点で周囲を見回すこともできる。ゴールへの道筋が見渡せるというわけだ。

モビリティ同士のConnect

『THE MAZE』のポイントは、他のプレーヤーとの「すれ違い」。すれ違うとモビリティ同士が「Connect」し、それぞれが通過してきたルートの情報を交換することができる。
どこが通過可能でどこが通行止めなのか。すれ違うと、地図情報が共有されてアップデートされる。自分がゴールを目指すのはもちろんのこと、ほかのプレーヤーの状況とも「つながっている」さまがおもしろい。
筆者は、東日本大震災の直後にホンダが公開した「通行実績情報マップ」を思い出した。インターナビ装着車から収集した走行情報をもとに東北エリア内の通行可能ルートを割り出し、震災翌日に公開したそれは、Connected Carの先取りだったと言える。
都合2度プレーさせてもらったが、早めにゴールできていた人もいる中、筆者はいずれもたどり着くことができなかった。難易度はこれから本番までに調整するとのことだが、想像以上にやりがいのあるゲームだったことを記しておきたい。

没入感から、共体験へ

コントローラーを使わないVR体験がおもしろいのか。
「別の場所にいても同じ世界に感じられる」ことに意味があるVRに、同じ場所にいる30人が同時接続する意味はあるのか。
そんな疑問を持ちながら臨んだ体験会だったが、いい意味で裏切られた。
このVR展示を企画した電通クリエーティブ・ディレクターの寺本誠氏に話を聞いた。
電通 クリエーティブ・ディレクターの寺本誠氏
「携帯電話にサイフや音楽プレーヤーの機能が足されていったのと同じように、今後さまざまなものが自動車にConnectしていく。Connected Carが走る未来で何が起こるのかを体験してもらうために制作したのが『THE MAZE』。
VRは『仮想現実』と日本語訳されることが多いが、ここでは、仮想の世界ではなく『もう一つの現実』だと定義している。その『もう一つの現実』を、VRなら30人で一緒に体験できる。
VRのおもしろいポイントは“没入感”ではなく、“共体験”にあるというのが、『THE MAZE』の着想となった考え方。
街中を走っている自動車が持つデータの量は膨大で、それをつなげたときの価値は計り知れない。30人同時にプレーすることで、人と人とを結びつけ、人を自由にするコネクティッドカーのすごさを感じてもらいたい」
『THE MAZE』は10月27日(金)から11月5日(日)にわたって東京ビッグサイトで開催される東京モーターショー2017の期間中、毎日無料で体験可能(別途、東京モーターショーへの入場券が必要)。
カーファンやゲームファンはもちろん、そうでない人でも近未来のコネクティッドカーがある社会を体験できる貴重な場だ(コンテンツ体験は12歳以上対象)。
この体験会は会議室のデスクとチェアに向かってのデモだったが、本番は自動車のシートが設置され、よりリアリティは増しそうだ。

当日、現地にて予約受け付け

1回のプレーに15~20分かかるため、1日に体験できる人数は限られる。当日、東京モーターショー専用アプリで実施時間の数時間前から、現地でのみ予約を可能にする見込みだ。
30人同時接続VR体験コンテンツ『THE MAZE』のほかにも、TOKYO CONNECTED LABでは、将来のモビリティ社会がもたらす新しい価値や社会とのつながりをユーザー視点で体験できる参加型のプログラムが準備されている。
今年の東京モーターショーでは、モビリティの未来、新しい社会のカタチを考えるきっかけがきっと見つかるに違いない。
(取材:今井雄紀 編集:久川桃子 撮影:稲垣純也)