街中を走るデリバリーロボット、サンフランシスコで禁止法案が提出

2017/9/14

開発拠点で「市民の安全性」が問題に

サンフランシスコは、食の新しいデリバリー方法がいろいろ試されている実験場だが、その実験の一翼を担っているのがデリバリーロボットだ。
デリバリーロボットは、起点から目的地まで自走してものを届ける。食事の出前が最も期待されている利用方法で、今はレストランやテイクアウトの店へオンラインで注文を出すと、実験的にデリバリー方法としてロボットを選ぶことができるようになっている。
容器の中に食事を入れたロボットが玄関先に到着すると、注文者のスマートフォンに連絡、パスコードで蓋が開けられるといった手順だ。
そんな実験の様子がよく伝えられていて、そのうちデリバリーロボットが街の方々で見られるようになるのだろうと想像する。この手のデリバリーロボットを開発する会社が最も多く拠点を構えているのも、サンフランシスコおよびシリコンバレー地域である。
ところが、ここでデリバリーロボットが禁止されることになるかもしれない。
実は、サンフランシスコ市では、こんなロボットに歩道を譲るわけにはいかないと、デリバリーロボット禁止のための法案が提出されているのだ。
法案を提出したのは、サンフランシスコ市のスーパーバイザー(監督委員会)の一員である。スーパーバイザーは市の行政府に相当する組織である。
ロボットについて記事を書き、いつもは「イケイケ」とロボットを励ましている立場ながら、この委員の話を聞いて「至極もっともだ」と思わざるを得なかった。というのも、その理由が市民の安全性だったからだ。

高齢者や子どもが避けられないリスク

実際、デリバリーロボットを見ていると二つの考えが浮かぶ。「本当に目的地にちゃんと向かうんだな」と感心する一方で「路上にこんなものが走っていると、危険じゃないのか」という危惧がある。
現在のところ、デリバリーロボットには大きさの上で2種類ある。一つは、スーツケース大の容器を倒して車輪をつけたような小型のもの。ヨーロッパを拠点にするスターシップ・テクノロジーズが、その手のロボットで注目を集めている。サイズが小さいので、1カ所しか出前できないだろう。
もう一つのタイプは、大型のものだ。サンフランシスコのマーブルなど数社がこのサイズのものを開発中だ。大きいので、中をコンパートメントに分けて、数カ所を配達して回るということも可能だろう。
だが、考えてみると、どちらも安全性の上では心配だ。小型のものは、まず見えない。ことに人混みの多い歩道などでは、あまりに背丈が低くて目に入らないだろう。よく旅行者が引っ張っているスーツケースにつまずく人が多いが、おそらくそれと同じようなことが起こりそうだ。
反対に大きなタイプは、これまた大きすぎる。だいたい洗濯機を二つ繋げたようなサイズで、そんなものが混み合った歩道を動いているとどうなるのか。
ロボットは人にぶつからないようにセンサーで感知をして衝突回避をするだろうが、歩行者がそれを避けて歩かなければならないのも、ずいぶん面倒な話だ。高齢者や視覚障害者、あるいは子どもなら、そんな障害物にすぐには対応できないかもしれない。
委員には、ロボットを禁止したいという理由について直接説明を受けたのだが、正直なところ「こういうまともな人がいるのは、ありがたいことではないだろうか」と思ってしまった。

街中は話題作り、実際は郊外で展開か

実は、スーツケース大のデリバリーロボットについては、全米ですでに数州が認可している。シリコンバレーのお膝元とも言えるサンフランシスコ市で禁止するとは、随分時代遅れなことにも見えるが、「他州のことは関係ない。地元住民の安全を考えているだけ」と委員は語っていた。
そして、委員の話を聞いてから、この手のデリバリーロボットは、実験や話題作りの場所と、実際の運行場所とは異なることが織り込み済みなのではないだろうかとも勘ぐるようになった。
よく実験が行われているのは、サンフランシスコのミッション地区だが、ここは古くからある混み合った街並みで、しかもテクノロジー関係の若者も多いおしゃれな場所だ。
ここで話題を作ってから、本当はもっとのんびりした郊外の住宅地のようなところで展開するのではないだろうか。面白がってくれる観客にアピールしつつ、ビジネスの現実は異なるところにあるのではないか……。
同じシリコンバレーでも、スタンフォード大学のあるパロアルト付近ならば、街並みは広々としていてサンフランシスコ市内ほど危険ではないはずだ。
シリコンバレーでは、新しいテクノロジーの波を止めようとするのは野暮なこととされる。実際、当初は突飛に見えても、後に実現してきたことはたくさんある。
だが、こと物理的に人に近づくロボットについては、「まともな意見」の存在は貴重だということを忘れてはならないのだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子)