人生を軸に考える。「理想の働き方」のための時間活用術

2017/9/13
理想の働き方を実現するには、理想のタイムマネジメントが不可欠である。8月25日のプレミアムフライデーに開催された今回のイベントでは、参加者全員が自らの“理想の1日”を考えるワークショップと、パネリストを招いたディスカッションによる、“理想の時間活用術”を掘り下げる議論が行われた。

1週間のスケジュールに組み込むマイルール

横石:今回のイベントのテーマは「理想の働き方のための時間活用術」です。
僕は新しい働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」の代表を務めていますが、理想の働き方を実現するタイムマネジメントとはどんなものか、ワークショップとゲストによるパネルディスカッションを交えながら考えていきたいと思います。
まずは、今回のゲストのみなさんにここ1週間のタイムスケジュールを書き出して頂きました。それぞれご自身の時間の使い方について、気がついたことはありますか。
山田:僕はライフスタイルアクセントという会社で、工場直結のファッションブランド「ファクトリエ」を展開しています。1週間のスケジュールを書き出して改めて気が付きましたが、僕の時間管理のポイントは3つですね。
1つは早寝早起き。朝は5時45分起床、夜は11時には寝るようにしています。2つ目は土曜の午後は銀座にある直営店で1日中ずっと接客をしている。そして、最後のポイントとしては週の半分、最低2日は全国あちこちの工場を回っているということ。移動時間も長いので、スケジュール化するとあまり働いているようには見えないですね(笑)。
中村:僕も早寝早起きは同じですね。前職で飲食店を経営していたときは、1日18時間、365日1日も休まず働く生活を3年間ほど続けていました。
でも、そういう無理を続けると体調を維持するのが難しくなる。体調がよくないと精神的にも弱くなり、判断力が低下したり、きちんとした意思決定をできなくなってしまうんですよね。
だから、今は体調維持が最優先。そのためにジョギングやジムに行く時間を確保して、空いた時間に仕事を入れています。仕事の会食も午後6時スタート、できれば午後5時からはじめてほしいくらいで(笑)、なるべく早く終わるようにしています。土日は家族と過ごすのも自分のルールです。
清原:私も早寝早起きですが、季節によって少し働き方は変わります。夏は軽井沢に家を借りて、そこから新幹線通勤をしているんです。新幹線の終電が早いので会食はほとんどしません。その分、冬は東京にいるので、もう少し働く時間が長くなる。まるで北欧の人のような働き方をしています。

年齢によって変わる「理想の働き方」

横石:3人とも世代や今のお仕事の業界などはバラバラですが、多くの企業、業種を経験し、キャリアチェンジをしてきたという共通点がありますね。その経験も含めて、「理想の働き方」をどう捉えているか聞かせてください。
山田:僕は会社をつくったのが29歳のとき。最初の2年半は社員1人で、食事は缶詰、週末はアルバイトをしながら、365日とにかくがむしゃらに働いていました。
そのときに気づいたのが、常に「自分を一定に保つこと」の大切さ。日々の業務が増えると、それをこなすのに忙殺されて、「木を見て森を見ず」になってしまう。ToDoに追われて気持ちがイラつき、間違った決断をしがちになるんです。
その反省から、自分を一定に保つために生活リズムを見直して、意思決定に影響がでないようにしました。
横石:ルーティンを重視するのは、自分を一定に保つ生活リズムづくりの一環なんですね。中村さんはどうですか?
中村:最初に新卒で入った日本のメーカー時代は、わりとのんびり働いていました。会社が神奈川県・辻堂にあって、毎日フレックスで午後3時に退社して、海に行くという毎日でした。
でも、これじゃダメだなと、外資系の広告代理店に転職したんです。そこでは真逆の生活が待っていて、終電すぎまで土日も関係なくひたすら働いていました。ワークライフバランスでいえば、1:9で仕事に没頭している状態。
それを後悔する気持ちは一切なくて、むしろあの頃の経験があったからこそ今があると思っています。だから、若いうちは後先考えずにおもしろいこと、やりたいことは思いっきりやったほうがいいと思います。
ただ、今のように40代になって家庭を持ったり、ある程度責任を抱えたりする立場になると、すべてのリソースを仕事に投下することは、やりたくてもできない。そこで時間の使い方を意識せざるを得なくなりました。
清原:私が30年以上、いろいろな会社で仕事をしてわかったことは、「理想の働き方」はそのときどきで変わってくるということです。
例えば、私の場合は共働きでしたが、子供が1歳、4歳、7歳の頃は、「子供が熱を出さないこと」が私にとって1週間の理想でした。その後、別の会社に移り毎日猛烈に深夜まで仕事をしていた時期もありますし、逆にそういう生活に疑問を持って1年間無職だったこともあります。
つまり、これにたどり着いたらOK、これが完璧という働き方は存在していなくて、常にそのときどきの「人生の状態」に合わせた働き方にチャレンジすることが理想的なのだと思います。

時間活用のキーワードは「健康」

横石:具体的な時間管理の工夫のようなものはありますか?
山田:僕はインプットとアウトプットをとても大切にしています。アウトプットばかりしていると引き出しがなくなるので、人に会ったり、本を読んだり、旅に出たりして、意識的にインプットすることを心がけています。
毎週月曜にメンバーに話をする時間があるので、それが1週間のインプット、アウトプットのリズムづくりになっていますね。
中村:僕にとっては、自分が「充実しているか」が重要です。ただ、仕事が充実するとやることもどんどん増えるので、どうしてもそれに振り回されてしまう。
それを防ぐためにやっているのが、自分で自分のスケジュールを「先にブッキングして押さえる」ということ。
ジムやジョギングの時間を先にキープして、カレンダーを埋める。仕事はそれ以外の空いている時間にどんどん入れていきます。ほかにも会食は週3回までと決めてしまうとか。そういうルールを自分の中で明確にして、曲げないようにしています。
山田:よくわかります。先ほど「木を見て森を見ず」と言いましたが、そのためには、「森を見る時間」をつくることが必要ですよね。
そのためのキーワードが健康だと思っています。食事、睡眠、運動のバランスがきちんとしている健康的な状態があって、はじめて森を見ることができる。その状態を確保するためには、ある程度、強引にマイペースを保つことが必要だと思っています。

人生の時間軸でのワークライフバランス

横石:個人としては、みなさん「健康」がキーワードになっているのが面白いですね。一方で経営者として、社員たちの働き方については、どう考えていますか?
清原:「この時間、この場所にいなければ働いているとはみなさない」ということがないようにする、というのは日頃からかなり心がけています。オフィスで行われる会議に一人だけ電話で参加したっていいし、1時間の会議に最初の30分しか出られなくてもいい。そういうことをよしとするムードをつくるのが、私の役割ですね。
中村:ワークライフバランスといいますが、私は自分の「人生の時間の総量」で考えて、最終的にバランスが取れていることが大切だと思っています。重要なのは時間軸の中でバランスを考えることです。
若いときも年をとってからも、同じワークとライフの配分で働くのはあまり現実的ではありません。結婚して子どもが生まれれば家庭の重要度が増してきて、それに従ってライフの比率も大きくなるはずです。
だったらその分、人生のどこかの時期に思い切りワークをすることがあっていいんじゃないか。そしてそれができるのは、20代〜30代前半だと思います。
僕にとっては、代理店や飲食店時代に死ぬほど働いて、一生懸命本を読んで必死にやってきたことが、今、財産として生かされている。理想や夢に向かってがむしゃらにやることって、すごく大事。
でもそんな時期はずっと続くわけじゃなくて、人生のフェーズが変わるタイミングはいずれ必ずやってきます。だから、若いうちからワークライフバランスを意識しすぎてバランスを取ろうというのはもったいないと思うんです。
48歳になって実感するのは、全力で仕事ができるというのは20代から30代の限られた時期にだけ与えられている、とてもぜいたくな特権なんですよね。思いっきり働きたいと思っても、それをできる期間はとても限られているので、その時期の過ごし方をもっと大切にしてほしいと思います。年をとってから後悔しても遅いので。
清原:20代の自分を振り返ると、当時頭でっかちに考えていたことと、今になっていろいろ経験したうえで感じるものでは、何がハッピーとなるのかは随分違ったなという印象です。
その上で言えることとして、とにかく自分自身で実際に取り組んでみること。野球でいえば、バットを振る回数を増やすほうが、ハッピーになる確率が高まる。
例えば、忙しくても同窓会に30分だけ顔を出すとか、10分でいいから会議をするとか、子供のキャッチボールに10分だけ付き合うとか。完璧を目指そうとすると、「時間がないからできない」となりがちですが、不完全でもいいからバットを振ったほうが絶対いい。とにかく振って、ダメだったらまた考えればよいのです。
経験上、最初から分析してやってもうまくいったためしがなくて、周りにアドバイスをもらいながらいろいろやってみるのが一番良かったと思っています。

人の経験からの学びが時間活用のヒントに

横石:最後に、理想の働き方をするための方法について、改めてコメントをお願いします。
山田:僕の関わるファッション業界では、流行の「キーワード」が氾濫していて、言葉に踊らされがちです。そういう環境だからこそ、本質を見極めることが重要。自分たちのコンセプト、生き方をどうしたいのか、常に考えています。
働き方も同じで、自分に合う、合わないという本質を探ることが大事。十人十色、千差万別なので、その人にとってベストな方法を見つけたらいいと思います。
中村:労働というのは、もともとは経営者が労働者の「時間を買う」という設計で成り立っているものですが、最近は時間ではなくて「成果を買う」方向にシフトしている。
一方で、労働環境や組織は「時間を買う」前提のままなので、働き方に関するズレや矛盾が生じています。
個人個人が、自分は会社に時間を売っているのか、それとも成果を売っているのかを明確に意識すると、そういったズレも少しずつ解消されていくんじゃないでしょうか。
清原:1日24時間というのは、誰にとっても公平な時間。効率を高めるのも方法ですが、ネットワークを持つことで他の人の経験から学ぶというやり方もあると思います。
自分が5年費やさなくても、他の人が5年をかけて得た知恵や経験、学びを教えてもらえばいい。それが、自分の時間を有効に使うことになる。時間活用のためにも、ぜひ人とのネットワークを活用してもらいたいですね。

【時間活用術ワークショップ】

──今回のイベントでは、参加者に1週間のスケジュールを円グラフに書き出してもらい、自分がどんな時間の使い方をしているかを振り返ってもらった。そのうえで、1日の現実の時間配分と、理想の時間配分という2つの円グラフを作成。現実と理想の時間使いのズレを認識することで、働き方を見直すきっかけにしてもらった。
「僕が考えるライフデザインは、現実と理想の円グラフがなるべく近いような自由を手に入れることです。モヤモヤしているときは、たいていこの2つの円グラフにギャップがある。
特に理想の時間配分は、書き出すことで改めてわかることが多いでしょう。この2つが一致すればするほど、自分らしい働き方や暮らし方が実現できるのではないでしょうか」(横石氏)
(構成:工藤千秋 撮影:北山宏一)