美的集団有限公司(Midea Group)は、消費者向けと産業用の両ロボット分野でシェア拡大を狙う。買収されたドイツのロボットメーカー「KUKA」(クーカ)は、美的の規模を利用して販売拡大を目指している。

「われわれは世界をリードしたい」

世界最大級の家電メーカーである中国の美的集団有限公司(Midea Group、NP注:日本での名称は「美的グループ」)は、世界中の家庭にロボットを普及させるというビジョンを掲げ、その実現を目指してシリコンバレーで大きな賭けに出ている。
美的は、ドイツのロボットメーカー「KUKA」(クーカ)を37億ユーロ(44億ドル)で買収したことを、事業拡大計画の中核ととらえている。
ビールをグラスに注ぐロボットからドロイドが稼働する無人工場に至るまで、ロボット事業の拡大強化を目指す美的だが、同社の最高技術責任者(CTO)も務めるフー・ジキアン副社長はインタビューの中で、米国拠点における研究エンジニアの人員を増やし、中国にKUKAの工場を新設することは、そのほんの手始めに過ぎないと述べている。
「われわれは世界をリードしたい」と、フー副社長は8月23日、広東省仏山市にある美的の本社で語った。「時間はかかるが、必ず実現できると考えている」
KUKAの買収により、美的は産業用ロボット分野における競争の最前線に躍り出た。
おりしも中国は、自国の大規模な製造分野をオートメーション化するという野心的な計画に乗り出したところだ。人件費の上昇によってオートメーション化への需要が拡大しているなか、中国のロボット市場は110億ドルと世界最大規模に達している。
またその一方で美的は、KUKAの専門知識を生かした消費者向け製品の展開も計画している。
フー副社長は、「人工知能(AI)の技術を、ロボットやその他の用途に応用したい」と述べ、その一例として、同社が研究を進めている調理機器を挙げた。食品を入れると、それらが何であるかを認識してレシピを提案するというものだ。「われわれには拡大の余地がおおいにある」
美的は今後、シリコンバレーとケンタッキー州ルイビルにある研究拠点で製品開発とAI技術に取り組むエンジニアの数を、これまでの倍以上となる100人に増員する計画だと、フー副社長は述べている。

産業用ロボット技術を消費者向け製品に応用

美的によるKUKAの買収は、2017年1月に手続きの完了が発表された。両社の組み合わせが競合他社に勝っている点としては、産業用ロボット技術を消費者向けロボット分野に応用する方法を見いだす能力が考えられる。
IHSマークイットの上級技術アナリストで上海を拠点にするウィルマー・チョウは、そうしたシナジー効果の好例として、KUKAがイベントで展示している、ビールを注ぐロボットアームを挙げる。
これは産業用に設計されたロボットだが、本来のキャリブレーション機能のほかに、ビール瓶を少しずつ傾ける能力も備えている。
「これは、純粋な産業用ロボットの企業が思いつきそうもない用途であり、また、他の家電メーカーであれば獲得しそうもない技術だ」とチョウは述べる。「KUKAには技術があり、美的には消費者向け製品への理解と販売流通のネットワークがある」
一方、KUKAは産業用ロボット分野に関して、美的の大規模な物流システムとサプライチェーンを利用することでコストを削減できると、フー副社長は述べる。それによって、日本のファナックやスイスのABBといった競合他社から市場シェアを奪うことが可能になるというのだ。
合併後も独立運営されているKUKAだが、買収されたことで、主要部品の調達コストも削減できる。美的は2017年2月、産業用ロボット向けなどにモーションコントロール製品を提供するイスラエル企業「Servotronix Motion Control」(サーボトロニクス・モーションコントロール)株式の過半数を獲得したからだ。

オートメーション化に注力する中国

中国のメーカー各社は、産業用ロボットの調達に関して、今なお海外ブランドに依存している。2016年には、中国におけるロボット販売台数のうち約67%を外国企業が占めた。
中国政府は、中国のロボット総販売台数に国内ブランドが占める割合を、2016年の31%から、2020年までに50%超へ拡大したいと考えており、製造台数を2015年の3万3000台から2020年までに10万台に増やすことを目標に掲げている。
また中国政府も「メイド・イン・チャイナ2025(中国製造2025)」計画と2016年に始動した5カ年計画のもと、自動車製造、電子機器、家電、物流、および食品といった主要分野のオートメーション化に注力する構えだ。
新たに中国企業の傘下となったKUKAは今後、中国市場でトップサプライヤーの地位を狙う。すでに同国のシェア14%を獲得し3大サプライヤーのひとつとなっているKUKAは、向こう2年で年間販売台数を倍の1万台に伸ばすことを目指すと、ティル・ロイターCEOは2017年に入って述べている。
こうした動きは美的に、コストの大幅減というメリットももたらしている。フー副社長によると、美的の従業員数は2011年から半減して10万人になったが、売上は増加しているという。
今後、同社工場のオートメーション化がさらに進み、利益率が上昇すれば、この傾向はさらに加速するとフー副社長は述べた。

海外企業の買収で既存事業も強化へ

ブルームバーグがまとめたデータによると、美的における2016年の従業員1人当たり売上高は165万元(25万ドル)に増加。競合の青島ハイアールと珠海格力電器(グリー・エレクトリック・アプライアンシズ)をわずかに上回っている。
また、美的は過去4年間で利益を3倍近くに伸ばし、2016年は147億元(22億ドル)を計上している。この背景には、インターネットに接続する冷蔵庫など、高価なスマート家電を購入する家庭が中国で増えていることがある。
さらに美的は、ほかにも海外企業を買収して既存事業の強化にあたっている。スウェーデンのエレクトロラックス・グループが北米で展開する掃除機ブランド「Eureka」(ユーレカ)や、イタリアの空調機器メーカー「Clivet」(クリヴェット)などだ。
また、2016年に8割の株式を取得した東芝の家電事業とも協力し、東南アジアでの販売拡大を目指す計画だと、フー副社長は述べている。なお、フー副社長は美的の中央研究開発拠点の責任者でもある。
「われわれは合併によってコストを削減し、それによってロボット事業における競争力を大幅に高め、市場シェアの拡大を実現する」と、フー副社長は述べた。「われわれは世界的なビッグプレイヤーを目指している」
(協力)Rachel Chang、Tom Mackenzie
原文はこちら(英語)。
(執筆:Bloomberg News、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:kynny/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.