科学とポジティブ心理学による裏づけ

「超一流」のビジネス書をまとめたリストをつくるときに厄介なのは、取り除くという作業だ。この5年間に、超一流の著者による、言及に値するビジネス書が何冊も出版されてきた。
今回のリストの作成に際して筆者は、科学に裏打ちされたリーダーシップに関するビジネス書に重きを置いた。これらはどれも、自分自身およびチームのモチベーションや生産性、従業員エンゲージメント、ポジティブな労働文化といったものが向かう未来について、われわれに教えてくれている。

情熱と粘り強さの「特製ブレンド」

1.『やり抜く力 GRIT(グリット)──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』アンジェラ・ダックワース著(邦訳:ダイヤモンド社)
先駆的な心理学者アンジェラ・ダックワースが、親や学生、教育者、スポーツ選手、ビジネスパーソンといった「成功をめざす者たち」に対して、優れた功績を成し遂げるための秘訣は才能ではなく、情熱と粘り強さの特製ブレンドであることを教える。同氏はこの特製ブレンドを「グリット(やり抜く力)」と呼んでいる。
『急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則』(邦訳:SBクリエイティブ)の著者マルコム・グラッドウェルは次のように語る。
「『やり抜く力』は、IQ原理主義というカルトへの説得力と魅力に満ちた回答だ。ダックワースはわれわれに、成功者を特別な存在にするのは気質と忍耐であることを思い出させてくれる」
2.『SUPER BOSS(スーパーボス)』シドニー・フィンケルシュタイン著(邦訳:日経BP社)
業界を問わず、突出したリーダーには、部下にやる気を起こさせる並外れた能力が備わっている。200以上におよぶインタビューを通してフィンケルシュタインは、彼ら「スーパーボス」が用いる手法を解き明かしていく。
リンクトインの共同創業者であるリード・ホフマンは次のように語る。「『SUPER BOSS(スーパーボス)』は、偉大な経営者が自社の従業員および業界全体に及ぼしうる、とてつもない影響を明らかにしている。シドが書き上げたのは、ネットワーク時代に向けた、本当の意味でのリーダーシップガイドだ」
3.『最高の自分を引き出す 脳が喜ぶ仕事術』キャロライン・ウェッブ著(邦訳:草思社)
かつてマッキンゼーでコンサルタントを務めていたウェッブが、科学的根拠に基づいたワーク・ライフ・バランスを実現するための方法を読者に伝授する。
『人を動かす、新たな3原則 売らないセールスで、誰もが成功する!』(邦訳:講談社)と『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(邦訳:講談社+)の著者であるダニエル・ピンクは本書について「スマートかつ詳細で、きわめて実用的な本」と呼んでいる。
「どのページにも、もっと成功するためのヒント、あるいは多くの場合は純粋により良い状態になるための科学に基づいたヒントが満載だ」
4.『世界でいちばん大切にしたい会社 コンシャス・カンパニー』ジョン・マッキー、ラジェンドラ・シソーディア著(邦訳:翔泳社)
著者のひとりであるマッキーは、自然食品スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ・マーケット」の共同創業者であり、もうひとりの著者であるシソーディアとともに、非営利団体「コンシャス・キャピタリズム(意識の高い資本主義)」を率いている。
2014年に再リリースされた本書は、マッキーの省察をからめながら、この「コンシャス・キャピタリズム」ムーブメントについて語っている。
『リーダーへの旅路──本当の自分、キャリア、価値観の探求』(邦訳:生産性出版)の著者でベストセラー作家のビル・ジョージは「まさに、わたしがつねづね書きたいと思っていた本だ」と述べている。
アマゾンによるホールフーズ・マーケットの買収が、このムーブメントにどのような影響を及ぼすのかはまだわからないが、それでも、ひとつの大切な理念を書き綴った本書には一読の価値がある。
5.『Everybody Matters: The Extraordinary Power of Caring for Your People Like Family(大事じゃない人なんていない:従業員を家族のように大切にすることが持つ驚異の力)』ボブ・チャップマン、ラジ・シソーディア著
傑出した人事ポリシーと士気の高さで知られる大型産業用機械メーカー、バリー=ウェーミラーの内側を紹介する。
同社の最高経営責任者(CEO)を務めるボブ・チャップマンとラジ・シソーディアが実例を使いながら、今日の企業や役員室に欠落しがちな人間性が、実は持続的成長に直接つながる道筋であることを示していく。
ハーバード・ビジネス・スクールの有名教授である社会心理学者エイミー・カディも、この本を絶賛している。「お互いを思いやる自由と権限を従業員に与えること。従業員は、良い結果を出したい、技能を高めたいと思っていると確信すること。これに勝るものはない」

人間性のある「最高のボス」になる

6.『〈パワーポーズ〉が最高の自分を創る』エイミー・カディ著(邦訳:早川書房)
ニューヨークタイムズ紙のベストセラーリストに掲載された、カディが著した2015年のヒット作も紹介しておこう。
同氏は「プレゼンス(自分の真の気持ちや考え、価値観、可能性に耳を傾け、自然にそれを表現できている状態)」と「パワーポーズ」についての考えを支持しており、2012年に行って大好評を博したTEDトーク「ボディランゲージが人を作る」のなかでも、それらについて熱弁をふるっている。
カディが研究から得た結果は、初デートや採用面接、さらには、できれば避けたい恋人や家族とのとげとげしい会話など、ここぞという場面で自信をつけたいときに、あなたを助けてくれるだろう。
『本当の勇気は「弱さ」を認めること』(邦訳:サンマーク出版)の著者ブレネー・ブラウンは次のように語る。「困難な状況において、もっとも大胆かつ本来的な自分を発揮することで、他者も刺激されて同じ行動を起こすことを、カディはわたしたちに教えてくれる。この本はゲームチェンジャーだ!」
7.『What Works: Gender Equality by Design(ジェンダー平等の実現には何が有効か)』アイリス・ボーネット著
本書では、ジェンダーにまつわる偏見に対処するための、研究に基づくソリューションが提示されている。
著者のアイリス・ボーネットは、驚くほどコストをかけず迅速に実行できる代替策をいくつも示している。その目的は、ジェンダー差別を終わらせ、教室や役員室、あるいは雇用や昇進に著しい変化をもたらせて、企業や政府、何百万という人々の生活に利益を与えることだ。
ペンシルバニア大学ウォートン校の有名教授で『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(邦訳:三笠書房)の著者であるアダム・グラントは、本書を称して「明快で説得力があり、実行可能な洞察に満ちている」と述べている。
8.『Mastering Civility: A Manifesto for the Workplace(礼儀正しさの習得:職場に向けたマニフェスト)』クリスティーン・ポラス著
世界では、対立する政治が「礼儀正しい振る舞い」全般に害を及ぼしている。そうした状況のなかでクリスティーン・ポラスによる本書は、科学的研究を、神経科学や医学、心理学などさまざまな分野から集められた興味深いエビデンスと結びつけ、おおいに必要とされる注意喚起を経営者や雇用主に促している。
世界でもトップ級のエグゼクティブコーチで『トリガー 自分を変えるコーチングの極意』(邦訳:日本経済新聞出版社)の著者であるマーシャル・ゴールドスミスは次のように語る。「この本は、職場の健全さや幸福度、生産性を高め、顧客との関係を改善し、より大きな収益をあげるためのカギを提示している」
9.『Radical Candor: Be a Kick-Ass Boss Without Losing Your Humanity(ラジカルな率直さ:人間性を失わずに最高のボスになる)』キム・スコット著
グーグルとアップルで幹部を歴任したキム・スコットは、シリコンバレーのCEOコーチだ。ダニエル・ピンクいわく、スコットは「職場には快適さ(実際には「偽りの快適さ」)があふれすぎており、とりわけ業績の評価に関して言えば、そこに率直さがあったほうが皆のためになる」と確信している。
ニューヨークタイムズのベストセラーになった『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』(邦訳:日本経済新聞出版社)の著者シェリル・サンドバーグは次のように語る。「本書を読めば、チームをつくり、率い、そして鼓舞して、最高の仕事を完成させるための助言が得られるだろう」
10.『Leadership Lessons From a UPS Driver: Delivering a Culture of We, Not Me(UPSドライバーのリーダーシップ・レッスン:「わたし」ではなく「わたしたち」の文化を配達する)』ロン・ウォレス著
ロン・ウォレスは6年間、貨物運送会社UPSの配達員をしていた。そののち同氏は出世街道を歩み始め、ついにはUPSインターナショナルのプレジデントとなった。
本書でウォラスは、セレブとして自身を称賛する、ありがちなビジネス回顧録を書く代わりに、やる気に満ちた従業員からなる最高のチームを育て、事業を繁栄に導くうえで必要不可欠となるヒントを示している。

高業績を生み出す会社をつくる

11.『Trust Factor: The Science of Creating High-Performance Companies(信頼の要因:高い業績の会社をつくる科学)』ポール・J・ザック著
クレアモント大学院大学の神経経済学研究センターで所長を務めるポール・J・ザックが、脳内化学物質は行動にどのような影響を及ぼすのか、なぜ信頼は押しつぶされてしまうのか、といった疑問に対する答えの扉を開く。
収納家具販売のコンテナ・ストア(Container Store)やザッポス、ハーマンミラーなどの実例が詰め込まれた本書は、神経化学を活用して、信頼や喜び、決意などが自然に混じり合った職場を効果的に築く方法を読者に伝授する。
『Leadership Insights』の著者スキップ・プリチャードは、本書を称して「興味をそそられる」と述べている。
12.『会社でやる気を出してはいけない』スーザン・ファウラー著(邦訳:サンクチュアリ出版)
リーダーシップを専門とするコーチ/研究者のファウラーが、膨大なデータを集めて、従来の「アメとムチ」式のやり方ではやる気は起きないことを明らかにする。その一方で、マイクロソフトやNASA、マテル、カトリック・リーダーシップ研究所での自身の経験に基づいた、実際にうまくいく方法も披露している。
前述のマーシャル・ゴールドスミスも本書を絶賛している。
「ファウラーはわれわれ読者に、従業員が自身の仕事を新たな視点でとらえ、それを自己充足をもたらしうる源と認識する方向へと彼らを導くための方法を教えてくれる。そうなれば、会社の目標は彼ら自身の目標となる。もはやそれは、彼らにとって非常に大きな意味を持っているからだ」
13.『元気は、ためられる』トム・ラス著(邦訳:ヴォイス)
自身による大規模な調査を活用したトム・ラスの最新ベストセラーは、より良い意味と視点に満ちた人生の構築に役立つ3本柱を、われわれ読者に提示してくれる。
つまり、自身よりも大きな存在の一部になること。単なるモノよりも、人や経験を重んじること。そして、自身の幸福を気にかけること。この3本柱が、さらなる社会貢献への第一歩であると理解することだ。
『サード・メトリック しなやかにつかみとる持続可能な成功』(邦訳:CCCメディアハウス)の著者で「ハフィントンポスト」の共同設立者であるアリアナ・ハフィントンは次のように述べている。
「『元気は、ためられる』のテーマは、本当の意味での自己刷新だ。人生からより多くを得たいと思っている人の必読書」
14.『最強交渉人が使っている 一瞬で心を動かす技術』マーク・ゴールストン著(邦訳:ディスカヴァー・トゥエンティワン)
ゴールストンが、精神科医、ビジネスコンサルタント、そしてFBIの人質解放交渉トレーナーとしての自身の経験を活用して、華麗でありかつ実践可能な、人の心を動かすためのテクニックを伝授する。
『TIME』誌は次のように述べている。「著者は人質解放交渉に用いるテクニックを活用して、傲慢な幹部や憤慨する従業員、自滅型の経営陣などに対処するための方法を読者に教授する」
15.『最高の仕事ができる幸せな職場』ロン・フリードマン著(邦訳:日経BP社)
受賞歴を持つ心理学者ロン・フリードマンが、モチベーションや創造性、行動経済学、神経科学などさまざまな分野からの最新の研究を用いて、仕事での成功につながる真の要因を明らかにする。
『「新しい働き方」ができる人の時代』(邦訳:三笠書房)や『「型を破る人」の時代:“ズバ抜けた結果”を出せる人は、何をしているか』(邦訳:三笠書房)の著者であるセス・ゴーディンは次のように述べる。
「ロン・フリードマンは本書で、われわれが軌道修正する手伝いをしてくれる。仕事をする目的だけでなく、われわれが躍進し、もっと人間らしく活動的になり、仕事でも良い結果を出せるようになるための方法も探っている」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Marcel Schwantes/Principal and founder, Leadership From the Core、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:Ralwel/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.