第三者所有の個人データにも適用

グーグルが誕生する前、誰かについて調べたいきは図書館に行って、過去の新聞記事や公の記録を検索する必要があった。
先ごろ英国で提出された法案によると、人々が図書館へ足を運ぶ時代に回帰するかもしれない──。少なくとも大英図書館のウェブサイトを開くだろう。新法が可決されると、人々が自分に関する恥ずかしい、または誤ったオンライン情報を削除できるようになる。
デジタル担当閣外相のマット・ハンコックは8月初め、政府は「忘れられる権利」を拡大した新たなプライバシー法を導入する意向だと語った。検索エンジンの結果だけに限らず、第三者に所有されている個人データすべてに適用されるという。
フェイスブックなどのソーシャルメディアからオンラインゲームのコミュニティーサイトの書き込みまで、削除の要求が可能になるのだ。
欧州連合(EU)では2018年5月から「一般データ保護規則(GDPR)」が施行される。英国の新法もこれに合致したものだが、英国民保険サービス(NHS)の医療記録には適用されないなど、いくつか例外もある。
大英図書館のインターネット・アーカイブも例外だ。ここには英国で発行されるすべての出版物のコピーが保存されている。

望まない情報の削除要求が簡単に

新法が成立すれば、人々は望まない情報をネットから今以上に消去しやすくなる。つまり、書物や地図など1億5000万点以上が所蔵される大英図書館のような場所のほうが、グーグルよりも正確な記録を保有することになるだろう。
英国の法律ではすでに「忘れられる権利」が保障されているが、主に適用されるのはグーグルやBingなどの検索エンジンの結果に対してだ。しかも、削除を要請する際は、その情報によって損害や心的苦痛がもたらされていると証明する必要がある。
だが今後はその必要性がなくなると、ロンドンの法律事務所ブレット・ウィルソンでプライバイシー問題を専門とするマックス・キャンベル弁護士は指摘する。削除要求があった情報が公共の利益に値するものであると民間企業が証明できない限り、簡単に削除されるようになるという。
過去のブログ記事やソーシャルメディアへの投稿など、削除を求める本人がその情報の出所だった場合(自分で書いたが今読むと恥ずかしかったり誤解を招く内容だと判断したときだ)、「データ処理に関する同意を撤回して、そのデータを消去するのはもっと簡単になるだろう」とキャンベルは言う。
「その内容が深刻な損害または苦痛をもたらしていると示す必要はまったくない。それはあなたのデータであり、それを消したいと言う権利は書いた本人にある」

犯罪歴は例外、専門職の違法行為も

大英図書館は、政府が公益の情報や科学や歴史的な研究目的の資料なども例外とする意向であることを歓迎した。
図書館は一方で、どのように例外が適用されるのか、政府が詳細を明かしていないことを指摘。「大英図書館や同様の機関にとって潜在的なリスクが適切に回避されるよう、私たちはデータ保護法に携わるチームと協議を続けている」と、声明で述べた。
大英図書館は以前、EUの「一般データ保護規則」には従わない旨を言明していた。
人々がネット上から何かを消したいと思う理由で最も多いのは、誤った情報が出ているというもの。ロンドンのコーエン・デービス法律事務所でメディアとプライバシーを専門とするヤイル・コーエン弁護士はそう語る。
また犯罪歴がある人や、若い頃の自分に関する内容が気恥ずかしかったり誤解を招くと考えたりしている人たちも削除を願うという。
キャンベルによれば、英国のデータ規制当局は概して、検索結果の削除には共感するが、犯罪歴については削除しないほうが公共の利益になると考えている。とくに重罪を犯した人や、医療や法律、会計などの専門職で違法行為に関わった人などの記録は残しておくべきだとの姿勢だ。

グーグル検索のネガティブな情報

こうした例外措置は、主に検索結果を気にして不快な情報を消したいと願っている人たちには関係ないだろう。
「人々は理想的には、自分の過去のすべてを削除したいと思っている」と、キャンベルは言う。「だが現実的に考えて、新聞のウェブサイトや図書館のアーカイブに記録が残っていても、たいした懸念材料にはならないだろう」
「大半の人が心配しているのは、仕事の面接または最初のデートで、先方に携帯電話で名前をグーグル検索されてネガティブな情報が表示されてしまうことだ」
2014年、グーグルの検索結果の削除を求めた男性に対し、欧州司法裁判所が「忘れられる権利」を認めたときのこと。プライバシー擁護派は、グーグルが検索結果に「このリンクは削除されました」と注記を加えて強調し、さらにはウェイバックマシンのようなアーカイブ閲覧サービスに導くのではないかと懸念した。
結局、グーグルはそんなことはしなかったが──。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeremy Kahn記者、翻訳:中村エマ、写真:izusek/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.