[東京 17日 ロイター] - 東日本を中心にした8月の長雨が、マクロ経済に影響を及ぼしそうだ。家計が敏感に反応する生鮮食品などの値上がりにより、消費全体が抑制される懸念が台頭している。所得の伸びが鈍い状況のもと、4─6月期の高い消費の伸びの反動が予想される7─9月期は、個人消費がゼロないしマイナス寄与となりそうだ。国内総生産(GDP)全体も低成長に逆戻りするとの予想が多い。

<生鮮食品の値上げ、消費を直撃か>

長雨と日照時間不足の影響で生鮮食品の値上がりが目立った展開は、2006年夏にもあった。結局、他の支出が手控えられ、06年7─9月期の個人消費は前期比マイナス0.7%と落ち込み、GDP全体も同マイナス0.2%と振るわなかった。

SMBCフレンド証券・チーフマーケットエコノミスト・岩下真理氏は、当時と今回が似た状況になりかねず、今年7─9月期GDPの個人消費が同じ経路で落ち込むリスクを指摘する。

そのうえで「4─6月期は非耐久財の購入が、消費全体の押し上げに大きく寄与していた。7─9月期は、その分の落ち込みも覚悟する必要が出てくるかもしれない」とみている。

<ぜい弱な雇用・消費の構造>

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの主席研究員・小林真一郎氏も、7─9月期の個人消費について「慎重にみておいた方がいい」と指摘する。

春闘での賃上げは実現したものの、伸び率は1.98%と前年の2.00%を下回った。消費押し上げのエネルギーが弱く、所得─消費─投資の好循環メカニズムは起動されていないとの見方だ。

4─6月期の消費が好調だったのは、5月の大型連休中の天候安定や株価上昇、食品価格の落ち着き、新車モデル効果などが重なったためとみている。

7─9月にかけて「新車効果一巡や、地政学リスクを受けた株価上昇の一服などで、個人消費の増勢は鈍化する」(日本総研・副主任研究員・村瀬拓人氏)といった指摘もある。

さらにガソリン価格が、足元で下げ止まりから小幅上昇に転じつつあり、小林氏は「消費者は家賃など月1回だけの支払いに比較的鈍感だが、食品やガソリン価格の値上がりには敏感だ」と分析している。

もっとも、消費が腰折れするとの見方はほとんどない。富士通総研・主席研究員の米山秀隆氏は、消費の伸びについて、ほぼゼロ%近辺の伸びにとどまるが、労働需給ひっ迫により雇用に安定感があり、それが「消費マインドの悪化を防ぐ」と展望している。

また、猛暑が続いた7月にエアコン販売が好調で、8月の落ち込みを相殺するとみている。

<注目される労働分配率の行方>

消費を押し上げる所得パワーに迫力が出てこない背景として、人手不足が深刻化している割には、賃金上昇率が鈍いという現象がある。

ある経済系官庁の幹部は「人手不足でも、当面賃金は上がりにくい」と、今の実態を認めている。

人手不足を緩和するため、企業が主に採用しているのは、高齢者や女性の短時間労働のスタッフだからだ。

コスト増が大きくなるフルタイムスタッフや、コスト増の影響が固定化されやすい正社員の雇用増は、一部で進んでいるもののまだ本格化していない。

足元で米欧の労働分配率が上昇傾向を示しているのに対し、日本では企業の好業績にもかかわらず低下しているというデータもある。

この先の消費が力強く伸びるかどうかの分岐点は、企業が労働コストの増加をどの程度許容するかにかかっている。

(中川泉 編集:田巻一彦)