【安渕聖司】キャッシュレスが社会的生産性を上げる理由

2017/8/28
これまで現金主義が根付いていた日本にも、キャッシュレスの波が訪れている。インバウンド、2020年東京オリンピックなどキャッシュレスを加速する動きや日本マーケットの展望は? 世界基準でキャッシュレスを牽引するビザ・ワールドワイド・ジャパン株式会社安渕聖司代表が語る。
本当に日本は現金主義か
——世界に比べて、日本はいまだに現金主義が強く残る国。グローバルカンパニーでの経験も豊富で、海外の金融事情にも精通している安渕代表から見て、日本の現金主義はどう映っていますか?
安渕:確かに日本では現金決済の割合がまだまだ大きいですが、今、その流れは大きく変わりつつあります。政府の方針は今後10年で電子決済比率を現状の2倍の40%へ倍増させること。
その背景にはインバウンドの増加や2020年の東京オリンピックがあります。多くの外国人観光客は、キャッシュレス文化の国や地域から訪れるわけで、その受け入れには、あらゆるシーンでのキャッシュレス化が必然です。
現金主義は「伝説」になりつつあると思います。なぜ日本は現金主義なのかを考えるより、今、まさに現金からキャッシュレスへ時代が変化していることこそが重要です。
そもそも日本人は変化を受け入れ、スピード感をもって変化するのが得意な国民です。スマホが登場して約10年。2020年にはスマホ普及率は85%になるといわれていますが、携帯電話が普及した1990年代以降、ものすごいスピードで進化してきたのが日本です。決済の世界でも、まさに同じことが今起きているのです。
——そういう流れの中で、2020年は大きなターニングポイントとなりそうです。
安渕:2020年は、キャッシュレス、非接触型決済の節目が確実に変わるトリガーとなるでしょう。Visaはオリンピックのワールドワイドパートナーで、ウエアラブル決済などのイノベーションも推し進めていきます。
リオではペイメントリングといってチップを埋め込んだリングで支払うという実験が行われましたが、東京2020オリンピックでも新たな進化を見せたいと思っています。オフィシャルショップでは、長い列に並ぶといったストレスなくスムーズに買い物ができるシステムも実現できるとよいと考えています。
キャッシュレスが社会的生産性を上げる
——政府がキャッシュレス化を急ぐのは、外国人観光客への対応以外にも理由があるのですか?
安渕:現金はいろいろな面で、社会的コストが非常に高くつきます。駐車場のパーキングメーターや自動販売機のお金を集めて数え、おつりを用意する。閉店後の店で現金を1円単位で集計し、売上伝票と突合する。さらに、利用者にとっても、ATMまで足を運び、現金を出し入れするという負担があります。また、現金の場合、紛失や盗難による損失もある。
キャッシュレス化はこれらのさまざまな社会的コストを軽減し、社会全体の生産性をあげることができます。
例えば弊社の非接触決済型インターフェイスである「Visa payWave」では、支払い時間は1回につき現金での支払いに対して約6秒短くなります。時間の効率化、という点でもキャッシュレスの果たす役割は非常に大きいものがあると思います。
——日本はキャッシュレスに向けて舵を切り出したところですが、海外でのキャッシュレス事情はどうなっているのでしょうか?
安渕:米国での電子決済比率は現在約40%。これは、日本政府が10年後の目標値としている割合です。米国型スタイルは、スーパーやコンビニなど少額の日常使いはデビットカード、旅行や家電など高額な買い物はクレジットカードという傾向です。日本でも米国に近い使い方がされていますね。
北欧はもっとキャッシュレス化が進んでいて、「No Cash Please」という現金お断りの看板を掲げている店も見かけます。スウェーデンでは、現金を見たことがないという子どももいるほどです。いずれ日本でもギフトカードでお年玉をあげる時代が来るのではないでしょうか。
ブランドデビットが普及の起爆剤に
——日銀が今年5月に「最近のデビットカードの動向について」というレポートを出しています。その中で、デビットカードの普及が急増、それを牽引するのがブランドデビットであると分析しています。
安渕:日本では、銀行のキャッシュカードがそのままデビットカードとなる「J-Debit」とVisaデビットカードのように国際ブランドのネットワークを利用する「ブランドデビット」の2種類があります。
日本では少額決済に現金や電子マネーが広く使われてきたこともあり、J-Debitは発行枚数こそ多いのですが、これまでデビットカードの利用水準は低い状況でした。それがここにきてブランドデビットの利用が急増。Visaデビットカードの場合、この10年でショッピング取扱高が年平均72.7%の成長、発行枚数も500万枚を突破しています。
Visaデビットカードのようなブランドデビットがデビットカード全体の起爆剤となっているといえるでしょう。
——Visaデビットカードがそれほど急速に普及している理由についてはどのように分析していますか?
安渕:Visaデビットカードについては、まずは安心安全ということがあります。使ったその場で、銀行口座から利用代金が引き落とされ、原則残高の範囲内での利用で使い過ぎの心配がない。このデビットカード本来の特徴に加えて、世界中で展開しているVisaブランドの安心感と使い勝手の良さへの信頼感です。
また、Visaデビットカードは利用の度にメール通知が来て、スマホでいつでも利用金額が確認できる。さらに銀行口座に直結しているので、口座残高もリアルタイムでチェックできます。その圧倒的な使い勝手のよさが、人気を後押ししています。
利用のタイミングと請求のタイミングが異なるクレジットカードに比べて、デビットカードは使ったお金と利用可能なお金がすぐわかるのが安心です。管理がしやすいという利便性が認知されたことが、デビットカード利用者急増につながりました。
デビットカードを使うようになって、現金を持たなくなった、ATMへ行く回数が減ったという人は多い。小銭をジャラジャラ持ち歩く面倒くささからも解放されます。原則、15歳以上であれば誰でも持てるので、仕送り代わりに一人暮らしの大学生に持たせている親御さんもいるようです。
——カードを使った支払い方法、インターフェイスもより便利になっているようですが。
安渕:これまでもカードを利用する際のインターフェイスは、大きな進化を遂げてきました。最初はカーボンの紙にプリンターで印字していたものが、磁気ストライプになり、さらにICカードに。そして、これからの支払いの未来は、リーダーにカードやスマートフォンをかざすだけでよい非接触型が主流となります。
より安全、より便利な電子決済を消費者や加盟店の皆様に利用頂くためのインターフェイスの進化は、キャッシュレスの促進を加速することに寄与すると言えます。
我々の非接触型インターフェイスである「Visa payWave」は、EMVという世界基準のセキュリティに準拠しており、グローバルレベルの安全性と世界中で利用が可能というのがメリット。
クレジット、デビット、プリペイドのいずれにも搭載でき、サインや暗証番号不要(※)でよりスピーディな支払いが可能です。
※一定金額を超える支払いは、カードを挿し暗証番号を入力か、サインが必要
海外では非接触型決済が広がっていて、オーストラリアではVisaの対面取引での80%以上、EUでも40%以上が非接触です。日本国内での本格的な利用はこれからですが、そういった支払い方法に慣れ親しんだ外国人観光客のために、グローバル対応のVisa payWaveを導入する店舗もかなりのペースで増えています。
また、国内でのカード発行については、アプラスが7月に国内初のVisa payWave対応のプリペイドカードの取り扱いを開始。三井住友銀行が同じく7月にVisa payWave対応のVisaデビットの発行を開始しました。さらに8月には、エムアイカードがVisa payWave搭載のプラチナカードを2018年春から発行することを発表するなど、ますます広がりに勢いが見られます。
オープンソースでよりクリエイティブな決済へ
——より便利なキャッシュレス社会の実現には、さまざまなイノベーションとのコラボも必要になってくると思いますが?
安渕:VisaではAPIを開放することで、よりクリエイティブな進化を目指しています。門戸を開き、さまざまなベンチャーとコラボして新しいものを一緒に生み出していきたいですね。
日本ではまだ普及があまり進んでいませんが、「Peer to Peer(P2P)」の個人間取引も、米国を始め海外では一般的なインフラとして機能。今後、これらの普及がどんどん進んでいくと思います。従来の「Pull Payment」(加盟店端末より与信を照会するスキーム)に加えて、カード会員が自ら加盟店に送金形式で決済を行う「Push Payment」も、その範疇に入ります。
——ますますキャッシュレス社会が進化する中、トップリーダーとしてのVisaの役割についてお聞かせください。
安渕:Visaは1958年創立以来、「利便性・信頼性・セキュリティ」を掲げて世界中にネットワークを築いてきました。今後も変わらず、この3つを大切にしながら、将来にわたってより便利で安全な支払い手段を提供していきたいですね。

日本は、我々にとって最も成長の機会のある、期待値の高いマーケット。今後10年で電子決済比率を2倍にしようというのびしろを考えると、非常に魅力的な存在です。その牽引役のひとつとなるのが、デビットカードの普及です。デビットカードを決済手段の選択肢として加えていただくこと、そして、社会全体の金融リテラシーを向上していくことで、キャッシュレスの利便性への認知が進んでいくと期待しています。
(聞き手:久川桃子 構成:工藤千秋 撮影:的野弘路)
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