「蜂群崩壊症候群」(CCD)による損失は、2016年と比較して27%減少した。最多の被害はミツバチヘギイタダニによるもので、養蜂家はコロニーの回復に取り組んでいる。

農業生産に重要な役割を果たす

農業生産に重要な役割を果たしているミツバチの個体数が、米国では2017年に入って前年より増加していることが、米農務省が8月1日に公開したミツバチの健康状態に関する調査で明らかになった。
北米や欧州などでは、原因不明の現象によってミツバチの巣が消滅する問題が起きているが、米国の最新調査によると、こうした問題などが原因とみられる死亡数は減りつつあるという。
米国におけるミツバチの養蜂コロニー(巣)の数は、2017年4月1日の時点で前年比3%増の289万個にのぼったと、米農務省は報告している。
「蜂群崩壊症候群」(CCD)と呼ばれるミツバチの大量失踪現象は、10年ほど前から農家と研究者を悩ませてきた問題だが、CCDによって失われたコロニーの数は、2017年1-3月期には8万4430個と、前年比で27%減少した。調査の最新データによると、続く4-6月期の消失数も、前年比で同程度の減少を示したという。
調査対象となった養蜂家の40%以上が、ダニがコロニーにダメージを与えていると述べており、さらには殺虫剤その他の要因が依然としてミツバチにストレスを与えているにもかかわらず、個体数が全体的に回復傾向を示しているのは、消失したコロニーの補充がコンスタントに行われている結果であることを示しているようだ。
「強いコロニーを分割して新たなコロニーを作成しても、コロニーが弱ってしまうだけだ」と語るのは、米国養蜂連盟(本部ジョージア州アトランタ)の副会長を務める、イリノイ州ハーバード在住の養蜂家ティム・メイだ。
「われわれは、ダニがいないかを調べ、ハチに十分な栄養を与え、コロニーに影響が及びそうな状況では殺虫剤を散布しないよう、農家と連絡を取り合っている。それ以外に考えられる対策はない」
環境保護団体は、野生のハチやオオカバマダラといった花粉媒介生物の個体数が、過去20年間で90%減少したことに警戒感を示している。これについては、ネオニコチノイドと総称される殺虫剤が原因となっている可能性が一部で指摘されているが、バイエルをはじめとするメーカー各社は関連性を否定している。
米農務省による今回の調査によると、5つ以上のコロニーを保有する養蜂家たちが、コロニー消失の最多原因としてミツバチヘギイタダニを挙げた。この寄生虫は、ミツバチの巣にのみ生息し、ミツバチの体液を吸って生きる。
このダニによる被害は、米国では1987年から確認されているが、今回の調査によると、2017年4-6月期に被害を受けた養蜂コロニーは前年同期の53%から減少し、42%となっている。
そのほか、2017年4-6月期にコロニーに被害をもたらした原因として養蜂家が挙げたものは、殺虫剤が13%、ミツバチヘギイタダニ以外のダニや害虫が12%、疾病が4.3%にのぼった。それ以外では、悪天候、飢餓や蜜源不足、その他の理由が6.6%を占めた。

10年続くミツバチの大量失踪現象

ミツバチが一見これといった理由もなく巣から逃げ出し、戻ってこないという蜂群崩壊症候群は、コロニー消失の主要な原因ではないものの、この現象が米国で初めて確認されて以来、かれこれ10年以上も研究者の頭を悩ませてきた。
しかし、養蜂家が巣箱の環境改善に取り組むうちに、この現象は深刻な懸念ではなくなってきたと、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の昆虫学科長でアメリカ国家科学賞受賞者のメイ・R・ベーレンバウムは述べる。
「養蜂の歴史の中では、どちらかというと一時的な現象にすぎない」と、ベーレンバウムはインタビューで語っている。その一方で「米国のミツバチの半数にダニがいるのは驚きだ」と同氏は話す。「疾病や認識可能な寄生虫、診断可能な生理的問題に比べると、蜂群崩壊症候群はかなり影の薄い問題だ」
養蜂家を対象にして行われた今回の調査では、コロニー消失の原因として蜂群崩壊症候群が挙げられたのは、以下の条件に合致するときだ。
まずは、ミツバチヘギイタダニやその他のダニが関係していない。巣箱の中に死んだミツバチがほとんど見つからない。コロニー消失前の女王バチや食料の備蓄状況には、見たところ異常がない。ミツバチが消えた後に食料が残されたままになっている。
養蜂家のメイによると、同氏のコロニー消失被害は巣箱の設置場所によって大きな差があり、農家が不適切に散布した殺虫剤の影響を受けた可能性があるという。
いずれにせよ、ミツバチの死因を特定するのは「非常に困難だ」とメイは話す。「殺虫剤かもしれないし、そうではないかもしれない。しかし、他の原因をすべて除外すれば、殺虫剤の可能性はおおいにある」
米環境保護庁(EPA)は現在、ネオニコチノイド系殺虫剤の再評価を進めている。そして、作物の授粉にミツバチを利用する農地では、ネオニコチノイド系とその他数十種類の殺虫剤の散布を禁止することを提案している。
『Science』誌に6月30日付で発表された2本の研究論文は、欧州とカナダにおけるハチの生殖能力低下と寿命の短縮に、ネオニコチノイドが関連していることを示している。
そのうち1件の研究には、バイエルクロップサイエンスとシンジェンタが一部資金を提供した。両社とも、ネオニコチノイド系の殺虫剤であるイミダクロプリド、クロチアニジン、およびチアメトキサムを製造する企業だ。
シンジェンタのエリック・フライワルドCEOは7月、ベルギーのブリュッセルで行われたインタビューで「ミツバチの健康に影響を及ぼす因子は数多くある」と述べた。
「殺虫剤は、そのうちのごく小さな因子の1つにすぎない。ゆえに、殺虫剤が議論の中心となっていることに驚いている。殺虫剤というだけでなく、特にネオニコチノイド系に注目が集まっていることに」
(協力)アグニエシュカ・デ・スーザ
原文はこちら(英語)。
(執筆:Alan Bjerga記者、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:balwan/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.