“日本発”の総合系コンサルティングファームとして、アジア・太平洋地域中心に海外展開するアビームコンサルティング。SIerでのSE、メーカーでの物流企画・業務改善の経験を経て、同社に転職した諏訪 航氏に、グローバル案件の魅力と、どのような思いでコンサルタントを続けているかを聞いた。

3カ国にまたがる130人のチームを統率

私は現在、製造・コンシューマビジネス ビジネスユニットで、日系製造業のグローバル収益改善プロジェクトのPMを務めています。
プロジェクトが立ち上がった3年前は30人ほどのチームでしたが、具体的に進むにつれて、メンバーの一部は中国やアジアの拠点へと拡大しました。当社の現地法人メンバーも巻き込んで、今や全体で130名ほどのプロジェクトチームです。
製造業の多くに共通する課題ですが、原材料費が値上がりし、生産拠点を展開する東南アジアでも徐々に人件費が高騰することで、利益を圧迫するようになってきました。これに対し、グローバルで業務を統合して、情報の流れや物流を最適化することでコストを削減しようという大きな目的のもと、プロジェクトが始動しました。
大きな目的を念頭に置きながら、例えば「来年の1月までに中国のこの拠点を完了する」「次はインドネシアのこの拠点を再来年7月までに」といったように、マイルストーンを決めて進めて行きます。全体としては長期にわたるプロジェクトなので、途中で状況が変わることがあります。その場合、お客様と一緒に走りながら考えて、適宜、方向を調整していくイメージです。
諏訪 航 製造・コンシューマビジネス ビジネスユニット ディレクター
SIerで2年半SEを経験した後、外資系のメーカーへ転職。サプライチェーンの企画部門で物流プロセスの改善などに携わった後、2006年にアビームコンサルティング入社。プロセス&テクノロジービジネスユニットでSCM領域を担当した後、2014年に製造・コンシューマビジネス ビジネスユニットへ移り、現在は日系製造業のグローバルプロジェクトのプロジェクトマネジャーとして、日本とアジア各国に散らばる約130人のメンバーを率いる。

海外で活躍することへのあこがれ

昔から漠然と、「海外で活躍したい」というあこがれを持っていました。新卒で入社したSIerでは、金融系コールセンターのシステム構築に携わりました。非常に成長できた時期でしたが、関西地域のお客様向けの仕事だったため、少し窮屈に感じてもいました。
そんな思いから、もっと海外と接点のある仕事をしたいと、アメリカに本拠を置く外資系メーカーに転職。物流の企画部門で、アメリカと、生産拠点のある中国、そして日本との間の輸出入の管理、サプライチェーン全体と国内物流網の改善などを担当しました。その後、グローバルのERPを刷新するプロジェクトで日本担当を務め、ITシステムの導入を通じて業務をアメリカの業務スタイルに変えていく経験もしました。
しかしながら外資の日本法人ですと、アメリカ本社の意向が強く、リージョンの意思がなかなか反映されなかったり、本社から「頭ごなし」にものを言われたり、自分自身が海外に行く機会も実は多くないといった、入社前に描いたイメージとのズレを意識し始めるとともに、「日本の企業はもっと強くならなくては」と思うようになりました。
その頃、アビームはまさに海外に広がっていこうとする時期でした。物流部門での経験を活かせそう、そして何より、日本主導で物事を決められそうだと感じて転職しました。

グローバルなプロジェクトの難しさ

アビームに転職してきて10年以上経ちますが、入社以来、ほぼずっとグローバル案件に携わっています。
入社当初は、プロセス&テクノロジービジネスユニットのSCMセクターに配属されました。さまざまなプロジェクトに携わり、アメリカ、シンガポール、タイ、フィリピン、オーストラリアなどに数カ月〜1年程度の長期滞在を数多く経験しました。今は日本がベースですが、海外出張は頻繁にあります。
今のプロジェクトチーム130名のうち、一部は当社の海外の拠点にいます。それぞれの拠点で、日本から駐在しているメンバーと、現地のコンサルタントが組んで仕事をしています。また、日本国内でも、自社にいる者とお客様先に常駐する者の二手に分かれています。
地理的に離れているだけでコミュニケーションは難しくなりますが、グローバルなプロジェクトでは言語の選択が難しいですね。メールで一つのメッセージを伝えるにも、日本語と英語を併記する場合もあります。また、会議でも何語を使うかの選択が難しい場合がありますね。
そのような環境だと、どうしても意図がズレたり、お互い協力的に物事を進めるのが難しくなったりします。そこで、お互いの顔と人となりを知るために、メンバーに拠点を異動させたり、他拠点への出張の機会をつくったりということを意識してするようにしています。それだけでも随分とコミュニケーションが円滑になるものです。

文化の壁を超えて信頼関係を築く

現在マネジメントをしているプロジェクトでは、改革の中心が中国や東南アジアにあります。日本でお客様とともに業務変革の「考え方」を固め、それを海外の各拠点に展開をしている段階です。決まったことを伝えただけですんなり変わっていくなら事は簡単ですが、そうはいきません。
例えば、これまでは工場の経営指標が、歩留まりを上げることだけに目が向いてコストに目配せしていなかったり、自社の在庫を減らすことのみに注力して下流工程で在庫が増えてしまったりしていた状態にあったとします。そこに対して、「これからは、最終的な利益率を考慮しましょう」「工程に関わる他社と連携して全体最適になる生産計画をつくりましょう」という「考え方」を伝えていくわけですね。そして業務を変えた上で、最終的にはITシステムを入れて統合していきます。
やり方を変える時には、反作用が生じるものです。そこで、「なぜ変えないといけないのか」という目的・理由をきちんと説明し、変えることにインセンティブが生まれるような人事制度に変えてもらうところまで、踏み込んで話をすることも多くあります。
一筋縄ではいかない仕事ですが、そのようなやりとりの中で、合意を一つ一つ重ねた先に信頼関係が生まれるのは、この仕事の醍醐味といえるかもしれません。交渉相手は日本人の場合もありますが、現地の人の場合も多くあります。そのように文化的な背景が異なる人と理解し合えたり、信頼関係が築けたりしたときは、特に喜びも大きいです。

“無限期待”に応える

アビームに転職してきた際は、「コンサルタント」という仕事・職種に就きたいと、そこまで強く意識したわけではなかったと思います。
前職でERP統合プロジェクトに関わった経験が活かせそう、ということは考えました。また事業会社と違って、その頃芽生えていた「日本の会社を強くしたい」という思いを、一社だけでなく多くの企業に広く展開できることに、価値を見いだした記憶があります。
私は新卒でSIerに入りSEを経験しました。企業経営がIT抜きで語れない今、ITという手段で業務や会社を変えるという大きな部分はSEとコンサルタントの仕事は重なる部分もあるかもしれません。でも、持つべき目線は大きく異なります。
SEは、やるべきことが決まっていて、それを実現するために仕様に落とし込んでいくのが仕事の大部分でしょう。しかし、コンサルタントの場合は、無数に答えが考えられる中で、あらゆる角度から検証して、正しい答えを導かないといけない。
自分たちが出した答えの通りにやってみたら、お客様の社内に仕組みやリソースがなくて実現できなかった…ということも起こりえます。そんな時には、「そこまで考えて提案してくれ」と言われる。そういう、どこまでやってもさらに上を期待される、“無限期待”のようなものを背負った仕事です。

お客様の悩みに真摯に向き合う

そういう私も、アビームに入社するまでは、ほとんどそんなことは考えたこともありませんでした。しかし、入社後にアサインされた数々のプロジェクトと、その時々にレビューをしてくれた上司が、コンサルタントとしての自分を鍛えてくれたと思います。
何といっていいか表現が難しいのですが…アビームには若くてもしっかりした人が多い。人間ができているというか。入社当時、私は30歳くらいで、自分より若い上司の下についたのですが、年下だと正直なめてかかっていました(笑)。でも、仕事を通じて、自然と敬意を持つようになっていました。
これまで、何人かの上司の下で仕事をしましたが、誰の目線も、常にお客様のビジネスの成功という高い位置にあります。問題が生じたら、どうすればよくなるかを一緒になって考える。契約の枠外の相談もまずは受け止める。アビームが高いリピートオーダー率を誇るのも、お客様の悩みや課題に真摯に向き合っていく、そういうスタンスにあるのだと思います。
(取材・文:畑邊康浩、写真:中神慶亮[STUDIO KOO])