(Bloomberg) -- 昨年4月、横浜市の臨海再開発地区「みなとみらい21」にある日産自動車の本社ビルに1人の男が入っていった。訪問の目的は最高経営責任者(CEO、当時)のカルロス・ゴーンその人だった。

男の名は益子修。その前日に公表した燃費不正で危機的状況に陥った三菱自動車のトップとして会社の存続をかけたパートナー探しの中で日産自に接触した。社内でも他に5人の中堅社員しか知らされない極秘プロジェクトだったという。プラグインハイブリッド車(PHV)などの独自技術を持つ三菱自はインドや中国の自動車メーカーからも打診を受けたが、益子の気持ちはこの時点でほぼ固まっていた。

「どこと一緒になるのが従業員や家族にとっていいかということを最も考えた」ー。三菱自CEOの益子は都内でのインタビューで当時の心境を振り返る。日産自は日本の会社であるだけでなく軽自動車事業での協力を通じ経営者同士が信頼関係を築いていた。経営危機から立ち直った経験、仏ルノーと資本業務提携を成功させてきたゴーンの経営手腕、今後の技術支援など総合的に判断し、「将来会社が持続的に成長していく上で何が必要か考えたときの選択が日産だった」という。

ゴーン・益子会談からわずか3週間後の5月12日、日産自と三菱自は資本業務提携に向けた基本合意を発表。日産自は三菱自に2000億円超を出資し株式の約34%を取得して傘下に収めた。

1000万台のパワー

独フォルクスワーゲン(VW)1229万台、ルノー・日産連合(アライアンス)1134万台、トヨタ自動車1096万台ー。自動車調査会社、IHSマークイットが予測する2025年の自動車メーカー上位3グループの年間販売台数だ。ルノー日産は6トン以上のトラックを除けば19年、それを含めても20年か21年にトヨタを抜いて2位に浮上する見通しだ。

IHSマークイットのアナリスト、川野義昭によると、今後は巨大で一定の成長率も見込める中国市場が鍵を握るため、現地販売比率が高いVWやルノー日産の高い伸びを予想しているという。中国でも特に成長が見込まれる内陸部での販売網や商品ラインアップの幅広さなどで日産自は「日系の中では突出している」と指摘。自社のシェアが低い東南アジアに強い三菱自を取り込むことでリスクをうまく回避できる形で「大きくジャンプはしないけれど、着実に緩やかに成長していく」との見通しを示した。

三菱自の傘下入りでアライアンスは1000万台の規模を手に入れたとはいえ、日産自のみの昨年実績は約556万台にとどまる。ルノーとはアライアンスで調達のほぼ100%を統合しているほか、生産や研究開発など幅広い領域で協力関係を築くことでトヨタやVWなど販売規模が倍近い競合に匹敵するスケールメリットを享受できる。ルノーは今月、華晨中国汽車のミニバス部門の株式49%取得で合意。買収による拡大次第でアライアンスの販売台数は今後さらに増える可能性がある。

三菱自との提携により、日産自は相乗効果(シナジー)が17年度に年間240億円、18年度以降は同600億円まで拡大すると予測している。三菱自でも17年度の営業利益面に約250億円の効果を見込んでおり、19年度に営業利益率を燃費不正問題前の6%台に回復させる計画だ。

アライアンス拡大による相乗効果が真っ先に出てくるのは調達部門だ。三菱自の調達企画部長として自動車部品の調達を統括する浦田孝之はほぼ毎日、アライアンスの調達部門の担当者とやり取りして共同購買を進めているという。

新車コスト3割低減

浦田は「物流業者をまとめるとか船で車をばらばらで運んでいたのを航路とか港を一緒にして物理的にメリットを出せる」と現在進めているコスト削減の方法について説明。共同購買の対象は自動車部品にとどまらず鉛筆などの文房具に至るという。

日産自チーフ・コンペティティブ・オフィサー(CCO)の山内康裕によると、日産自の部品調達コストは年間6兆円から7兆円に達する。三菱自との協力関係で日常の調達コストの削減効果もさることながら、「それよりもっと新車のコストをうんと下げたりとかそういうことに力を注ぎたい」と6月のインタビューで話した。

これまで日産自と三菱自で独自だった設計や開発を統合し効率を高めることで「30%というのは一つのめどにはなると思う」と山内は述べ、イメージとして新車開発のコストを3割程度引き下げたいとの考えを示した。

益子は、三菱自の強みが地域では東南アジア、商品面ではスポーツ型多目的車(SUV)やピックアップトラックにあるとみており、そこを伸ばすことでアライアンスの中で貢献していくことが重要だという。「地域的な住み分けはきれいにできている。そうだとするとシナジーが出やすい」とし、3社の「ベストのものを取り入れていくことがお互いにできれば非常にいい」と話した。

(敬称略)

--取材協力: Monte Reel 、 John Lippert

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