医薬×AIの「現実論」。過去のテクノロジーにはない挑戦とは
日本IBM | NewsPicks Brand Design
2017/7/7
国内製薬会社大手、アステラス製薬。新しい挑戦を続け、革新的な医薬品を継続的に創出するために、テクノロジーはどう貢献するのか、テクノロジーに何を期待しているのか。情報システム部門と、新設のデータ分析部門のトップに製薬業界におけるテクノロジー活用論を、AIで先頭を走る日本IBMの松永達也常務執行役員とともに聞いた(後編)。
前編:「製薬業×テクノロジー」の現在地とAIの可能性
前編:「製薬業×テクノロジー」の現在地とAIの可能性
AIが出す答えは「1+1=2」とは限らない
──AIを使いこなすために必要なこととして専門人材の獲得・育成を挙げていました(前編の記事参照)が、そのほかにありますか。
須田(アステラス製薬):AI活用におけるもうひとつのチャレンジは、過去のシステムとAIが出す答えの性質が違うという点です。
従来のシステムは、必ず事前に組み込まれた「指示」通りに動くようになっています。つまり、1+1は必ず2しか出ない。万一、3が出たら間違いだとすぐに分かります。
しかし、AIの場合は、仕組みが複雑なので、100%正しいということはありません。アルゴリズムとデータの学習の組み合わせなので、間違ったデータを学習すれば間違った答えを出すかもしれません。
それを前提に、いかにAIを組み込んだシステムが出した情報を「信じる」か「受け入れる」か、またそのデータの裏付けは何かをわかるようにしておかなければならないということです。
クライセル(アステラス製薬):そうですね。インプットとアウトプットの間が複雑で見えにくいので、何故この答えが出たのか?というというところが分かりにくい。だから、AIの効果を最大限に引き出すために、なるべく質の高いデータインプットも大切になってきます。
松永(日本IBM):正解が必ずしも100点じゃないというのはおっしゃる通りです。
逆にそこがAIのいいところでもあります。AIは人間に取って代わるものではなくて、人間の能力を拡張するためのものです。我々が「オーグメンテッド・インテリジェンス(拡張機能)」と呼んでいるものです。
100点でないということは、IBMとしては、例えば開発の過程とかを徹底的に全部透明性をもってお客様と共有しようと考えております。ブラックボックスでは正しい意思決定ができませんよね?
あるいは何か問題が起こった時に、振り返ってみてどうしてこうなったのか説明する責任があります。その部分の透明性を100%にしようと、AI開発者の社会論理の話とともに、徹底しようと考えています。
患者が主体となって、医者と共に病気を治す未来
──アステラス製薬は、今後どのようにAIと取り組んでいく予定ですか。これから3〜5年後の展望を教えて下さい。
須田:我々としては、AIを活用できるところはなるべく積極的に活用したいと考えています。ただ、こういうものは進化がすごく激しい上に新しいので、我々に経験値がありません。
だから、小さい経験をたくさん積んで、我々に何ができて何ができないのか理解する必要があると思っています。その上で、いけると思った領域は積極的にいきたいと思います。
創薬といった製薬会社特有のセンシティブな領域にいきなりは使えませんが、もう少し簡単に使えるところから経験を積んでいくというのは可能ですよね。
松永:製薬会社に限らずですが、まずはやりやすいところ、例えばコールセンターやマーケティングのチャットなどでAIを使っていくケースが多いですね。
そこで使いこなしたうえで、もっと深い領域で使ってみるという方がいいと思います。積極的に利用したいけれども、リスクがあるという不安を少しでも払拭しながら、お客様に合わせた提案を行っていくので、私たちの使命ですし、それがAIを普及させるために必要なことだと思っています。
クライセル:これから数年先に起こりそうなこととして、まずデータ量が想像以上に増えていきますから、その結果、医療そのものや、その中にある課題がより鮮明に見えるようになるでしょう。
例えば、人の健康を知るためには遺伝子情報が最も大切だと思われていた時期がありました。しかし、最近では疾患-タンパク質-遺伝子の関連性の分析や、タンパク質と薬物の状態の精密なシミュレーションもできるようにもなってきました。
そして、データが増えることによって、患者さん自身も自分の病気や治療法について知ることができるようになるでしょう。
それによって患者さんは、医者とともに自分の治療法を決めることもできるようになるかもしれません。将来、患者さんは今よりずっと強い立場に立って、医療従事者とともに、最もいい治療を自由に選択する日がくるかもしれません。
(聞き手・編集:木村剛士、文:狩野綾子、写真:長谷川博一)
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