なぜホークスの若手は育つのか。選手を伸ばす「土壌」の秘密

2017/7/1
今年、若鷹の育成基地がさらに本格化した。福岡県南部の筑後市に移り2年目となり、「HAWKSベースボールパーク筑後」に充実の施設が誕生したのだ。
ファーム公式戦などを行う「タマホームスタジアム筑後」のすぐ隣、それが「ホークススタジアム筑後第二」である。
従来、福岡市にあったファーム施設が移転することになった理由の一つが、三軍の練習場所の確保だった。2011年に導入された三軍制はホークスの「選手育成部門」の象徴だ。
しかし、以前はファームの本拠地球場(福岡市東区・雁の巣球場)が一つしかなかったため、二軍が公式戦や練習で使用する際に三軍は近くの大学のグラウンドや福岡市外の野球場を間借りするしかなく、腰を据えて練習に励むことができなかった。
そのため、ファーム新本拠地を公募する際にはメイン球場に隣接するサブグラウンドも建設することが前提で、土地は5万平方メートル以上という条件が付いていた。
筑後市の敷地は約7万平方メートルだ。ホークスの筑後事業推進室の柴田三郎室長は「球団としては仮に野球場でなく総合グラウンドでもいいと考えていました。しかし、それだけの土地が確保できたので球場を造ろうという声が上がったんです」と振り返る。
筑後で腕を磨く2016年ドラフト2位の古谷優人投手

「日本一の練習環境をつくる」

そのような経緯で誕生した「ホークススタジアム筑後第二」は両翼まで約100メートル、中堅まで約122メートルとヤフオクドームとほぼ同規格のグラウンドを持つ。
第二球場の使用が1年遅れたのは外野部分の天然芝の養生のためだった。内野は土のグラウンドになっている。ちなみにメイン球場の「タマホームスタジアム筑後」は人工芝グラウンドだ。
柴田室長は言う。
「メイン球場はファーム公式戦を興行として開催するので、雨に強い人工芝を採用しました。一方で第二球場は三軍を中心とした若い選手が練習メインで使用しますし、リハビリ中の選手も使用します。体への負担が少ないのはやはり土や天然芝のグラウンドです」
また、内野手の練習は土の方が効果的だと言われる。不規則にイレギュラーする打球への反応。そして打球の勢いが弱まるので一歩前へ出る姿勢も試される。積極的にプレーをしつつミスを無くすことを体に覚え込ませるのは、やはり土のグラウンドだ。
ただ一方で、土と天然芝のグラウンドは日々のメンテナンスを行う手間がかかる。
ホークスは「練習用」のグラウンドであっても最高のものをつくり上げた。
「日本一の練習環境をつくる」(柴田室長)
その言葉どおり第二球場のクオリティは、あの甲子園球場と同等と言っていい。
どういうことか。

甲子園で学んだ「奇跡」の技術

筑後のグラウンドの整備・メンテナンスの“リーダー格”を任されているのが西山修平さん。
西山さんたちの腕で筑後のグラウンドは美しく保たれる
西山さんは現在30歳と若いが技術も知識も一目置かれる存在だ。実は昨年まで5年間、甲子園球場のグラウンドを管理する「阪神園芸」に勤めていた。
「もともとはホークスのアルバイトとして5年間グラウンドキーパーとして働いたのちに、阪神園芸さんにお世話になったんです。昨年の1月、声をかけていただき、もともと福岡出身ということもあって戻ってくることを決めました」
甲子園球場のグラウンドは日本で一番美しいと言われる。たとえ雨が降っても素早く、正確なグラウンド整備で「奇跡」のようなコンディションに回復させる技術は野球ファンの間では語り草になっている。
「土や芝、トンボのかけ方まですべてにこだわりがあります。たとえば野球場のグラウンドは黒土と砂が混合されているのですが、甲子園は季節によってその割合を変えています。夏場は水持ちをよくするために黒土を多めにします」
また、黒土の産地によってグラウンドの特性も変わる。実は筑後に赴任した当初、一つ問題が生じたことがあった。
「甲子園は鹿児島の志布志の黒土を使用しています。しかし、筑後は同じ鹿児島でも鹿屋の黒土でした」
前者はさらっとした感じだが、後者は粘り気のある質感だという。甲子園に近いものというリクエストと自分の経験をより生かすためには、そこをクリアしなければならなかった。
「なので、第二球場を使用する前の今年1月に、わざと砂を全面に撒いて、自分で掘り返して配合を変えました。周りからは反対されましたけど、押し切る形で」

守備の名手の共通点

結果的にそれが奏功した。この梅雨時期に100ミリ近い雨が降った翌日でも問題なくグラウンドが使用できた日があった。「自信になりました」と西山さん。
土と天然芝のグラウンドは選手たちにも好評だ。現在、左肘手術から復帰を目指す和田毅はリハビリメニューのランニングは人工芝ではなく芝生の上で行う。そして三軍の若手選手たちは泥だらけになってボールを追いかける。
西山さんによれば、選手のグラウンドへの向き合い方で良し悪しがわかる基準があるという。
「やっぱり守備の巧い選手の足元はグラウンドがキレイなんです。自分の足でちゃんとならしています。ケガやエラーのリスクを自分で減らすようにしているんですね。阪神の鳥谷(敬)選手や大和選手はそうでした」
「高校野球でも、強い学校は守備に就くときに定位置は走らない。弱い学校ほどサードやファーストの守備位置をそのまま突っ切っていきますからね。自分で自分の首を絞めているのに」
今年も育成出身の石川柊太投手や甲斐拓也捕手、3年前のドラフト1位右腕の松本裕樹投手ら次々と若いスター選手が台頭して優勝争いをしている。
常勝ホークスは練習用のグラウンド一つにも、ヒトも費用もかけて思いを託しているのである。
(撮影:田尻耕太郎)