[シンガポール/ロンドン 22日 ロイター] - 石油輸出国機構(OPEC)の盟主、サウジアラビアが5月に原油価格維持のために「できることは何でもやる」と表明した時点では、まさかたった1カ月後に市場がその決意を試す展開になろうとは思ってもいなかっただろう。

OPECと非OPEC主要産油国が協調減産の延長に合意してからほんの20日間で原油価格は18%も下がった。それにもかかわらず、OPEC加盟国は急いで減産幅の拡大はすまいと心を決めているかのようだ。

だからこそ原油市場では、21日に米週間在庫がようやく減少したことなど強気の材料は無視され、根強い世界的な供給過剰といったマイナス要素ばかりが注目されている。

その結果、今年前半の原油価格は過去20年で最悪のパフォーマンスとなり、市場が協調減産の効果を否定していることがうかがえる。

サウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は5月上旬、ユーロ危機時のドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁にならって、原油安を防ぐためにあらゆる手段を講じる姿勢を打ち出した。   

しかし米国のエネルギー市場・政策コンサルティング会社ラピダン・グループのボブ・マクナリー社長は「米連邦準備理事会(FRB)には逆らえないが、OPECには挑戦できる。OPECのどこかの加盟国が生産を一段と減らす必要があるが、誰も進んでそうしようとしない」と話した。

足元の原油安をサウジが食い止められるかどうかについては、21日に皇太子に昇格したムハンマド・ビン・サルマン氏の手腕という面でも改めて注目される。過去2年間、サウジのエネルギー政策を最終的に決めてきたムハンマド皇太子の戦略は、OPECの市場シェアを維持するための増産から原油価格押し上げを目指す減産に転換している。

<静観姿勢>

それでも、ファリハ氏や他のOPEC加盟国の石油相、当局者からは急いで減産幅を拡大しようという声は聞こえてこない。

むしろ彼らは、季節的に需要が高まる第3・四半期に協調減産効果が浸透して世界的な在庫減少につながるのをじっくりと待つ構えだ。

ただし、原油価格を1バレル=50─60ドルのレンジで安定させることを目指しているOPECやロシアの方針とは裏腹に、今週の北海ブレント先物価格は44ドルへと下落した。

市場参加者の話では、今後も原油価格には下げ圧力が働く見通しだ。米原油オプション市場では、年末に期限を迎える取引の中で5月のOPEC総会以降に最も動意づいたのは、45ドルのプット(売る権利)だった。

<増産続くシェール>

米国はいかなる国際的な減産合意にも加わっておらず、シェールオイルの生産量は最大で、同国の全生産量の約10%に相当する日量100万バレルまで上乗せされる見通しだ。

石油商社ストロング・ペトロリアムのマネジングディレクター、オイスタイン・ベレントセン氏は、OPECが減産幅を拡大するか、大規模かつ想定外の供給停止が発生しない限り、原油価格の低迷は終わらないと予想した。

先物取引仲介会社アクシトレーダーのチーフ市場ストラテジスト、グレッグ・マッケナ氏は「減産幅を拡大すれば価格下落を止められる。しかし、OPECは口先ではなく実際に行動しなければならない」と指摘した。

複数のOPEC筋は対策の1つとして、協調減産に現在参加していないナイジェリアとリビアを早めに取り込むことを挙げた。内戦などで落ち込んでいた両国の産油量はここ数カ月で急増している。

オアンダのシニア市場アナリスト、ジェフリー・ハリー氏は、OPECが採用する可能性があるその他の選択肢は、米国の「スリム化した」シェール産業でさえ採算割れするような水準まで原油が値下がりするのを容認する方法とみている。

探査・生産専門コンサルティング会社ライスタッド・エナジーによると、生産態勢が昨年から今年にかけて整ったバッケン地区の油井の損益分岐ラインは1バレル=38ドル前後だという。

(Henning Gloystein、Dmitry Zhdannikov記者)