コロラド州デンバーに本社を置くプロテクトワイズが、バーチャルリアリティー(VR)を駆使し、サイバーセキュリティーの外観を変えようとしている。

「都市の風景」が見せる新たな世界

サイバーセキュリティーツールはかつてないほど重要性を増しているが、そのデザイン的な側面は20年前からあまり変わっていない。
そこで、セキュリティーソフトウェア企業マカフィーのCTO(最高技術責任者)だったスコット・チェイシンは、新しい会社を立ち上げることにした。
「サイバーセキュリティー・システムのほとんどは、家庭用のケーブルモデムと同じインターフェースを使っている。そうした状況に変化を起こす必要があった」とチェイシンは話す。
チェイシンがマカフィーの元幹部ジェネ・スティーブンズと手を組み、2014年にコロラド州デンバーで設立したプロテクトワイズ(ProtectWise)は、サイバーセキュリティーソフトのデザインを一変させた。
従来のインターフェースは、円グラフと、まるで無限に続いているかのような文字列で構成されるが、プロテクトワイズのインターフェースははるかにビジュアル的で、3次元の都市として表現されている。
目の前に広がる都市の風景はネットワークの全体像で、異常な行動があれば一目でわかり、リアルタイムで監視できる。また、時間を巻き戻せば、どのような攻撃がいつ起きたかを確認できる。
この未来的なインターフェースをつくるため、チェイシンはハリウッドのデザイナー、ジェイク・サージェントに白羽の矢を立てた。『トロン:レガシー』や『ターミネーター4』など、CGIを駆使した映画で視覚効果を担当してきた人物だ。
チェイシンらは星図をはじめ、さまざまなレイアウトを検討したが、結局碁盤の目のような整然とした都市を採用することにした。
建物の形は、接続の種類を表す。上から見て四角の建物はコンピューター、三角の建物は地上通信線といった具合だ。建物の大きさは処理能力に比例し、建物の高さはトラフィックによって変化する。

VRゴーグル着用でデジタル世界へ

「システムを最初に設定するときは、都市設計をするつもりで、最も理にかなっていると思うレイアウトにすればいい」とチェイシンは説明する。
都市のブロックは、それぞれ異なった部門を表せるので、たとえば、営業部門とマーケティング部門のネットワークが、街路を挟んで向かい合うような配置になるかもしれない。「いずれは、あなたが暮らす街と同じくらい詳しくなるはずだ」
サイバーセキュリティー・チームは大量のデータを分析しなければならないため、多くの場合、異常に気づくまでに何週間もかかる。サイバーセキュリティー企業マンディアント(Mandiant)の報告によれば、サイバー攻撃が発見されるまでの平均日数は約146日だという。
チェイシンによれば、プロテクトワイズのソフトウェアは人工知能(AI)のレイヤーが誤検出を排除してくれるため、ノイズに強く、リアルタイムで異常に気づきやすいと話す。また、過去の事例を調査したい場合も契約プランによって、数週間~数年前のデータまでさかのぼることができる。
プロテクトワイズは最高のスタートを切り、設立からわずか2年の2016年、カリフォルニア州サンタクララ警察署のサイバーセキュリティー特別捜査班と提携し、「リーバイス・スタジアム」で行われたスーパーボウルのサイバーセキュリティーを担当した。
プロテクトワイズによれば、データポイントが海のように広がるなかで、19の潜在的な脅威を発見したという。
プロテクトワイズのソフトウェアは、デスクトップPCやノートパソコンで使用できるほか、バーチャルリアリティー(VR)ゴーグルを着用し、デジタル世界に入り込むこともできる。
さらに、90人の従業員を抱える同社は、拡張現実(AR)への対応も視野に入れている。「HBO」のテレビドラマ「ウエストワールド」のように、部屋の真ん中に都市のホログラムが現れるイメージだ。

容易なスキル習得、人材不足も解決

こうしたインターフェースによって解決できる問題がもう1つあると、チェイシンは考えている。人材の問題だ。
「サイバーセキュリティーには技術的な問題だけでなく、人材という大きな課題がある。求められるスキルがあまりに高いので、人材が不足するのだ」とチェイシンは言う。
しかし、プロテクトワイズの新しいインターフェースを導入すれば、雇用できる人材は増えるとチェイシンは確信している。スキルの習得が容易になるうえ、従来のインターフェースに比べて、日々の業務が興味深いものになるためだ。
Inc.にサイバーセキュリティーのコラムを寄稿しているセキュアマイソーシャル(SecureMySocial)の創業者ジョゼフ・スタインバーグによれば、ネットワークの安全を保とうとする大企業が、50以上のソフトウェア・プログラムを使用することは珍しくないという。
「ファイアウォール、侵入検知、異常検知、ウイルス対策ソフト。挙げれば切りがない」とスタインバーグは話す。「1人のスタッフで、これらすべてのシステムの専門家になることはできない。そのせいで、犯罪者の方が有利な状況ができているのだ」
これに対し、プロテクトワイズのソフトウェアは1つあれば十分だと、チェイシンは主張する。多くのタスクが1つのプログラムに統合されているため、攻撃への対応がはるかに容易になるという。

「デザインは、戦いを制する助けになる」

しかし、サイバーセキュリティー市場で大きなシェアを獲得するには、まだやらなければならないことがたくさんある。
調査会社マーケッツ・アンド・マーケッツによれば、市場規模は2021年までに2000億ドルに達する見込みだという。
チェイシンは「フォーチュン2000タイプ」の大企業がターゲットだと述べているが、セキュリティー企業ファイア・アイ(FireEye)は、すでにその半数近くが同社の顧客だと主張している。
それでも、プロテクトワイズにはスタートアップの勢いがある。すでに、トップ・ティア・キャピタル・パートナーズ、トリニティー・ベンチャーズなどのベンチャーキャピタル(VC)から6700万ドルの資金を調達済みだ。
チェイシンは、顧客の名前を明かすことはできないとしながらも、ネットフリックスとモトローラの名前を挙げた。また、エネルギー、金融、メディア、医療など、さまざまな分野の大企業を顧客に抱えているとのことだ。
「このようなビジュアル化が、データの使い方を変えるとわれわれは考えている。デザインは、戦いを制する助けになる」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan/Staff writer, Inc.、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:© 2017 PROTECTWISE, INC.)
©2017 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was produced in conjuction with IBM.