LINEの挑戦は止まらない。新規事業開発の醍醐味とは

2017/6/22
凄まじい勢いで業容を拡大しているLINE。最近もトヨタ自動車との提携でコネクティッドカーにLINEのAIを搭載することや、LINEショッピングなど新しいサービスを発表している。LINEの成長アクセルを踏み続けることをミッションにする事業戦略室。この事業戦略室に今年2月、社外から移籍してきた室長の室山真一郎氏に、その狙いを聞いた。

さらなる成長への布石

LINEはメッセンジャーアプリを軸に発展しながら、さまざまな新規事業を立ち上げてきました。今までは、新規事業開発はCSMOの舛田淳が直轄し、事業が立ち上がると事業化したり、子会社化するという方式をとっていました。LINEモバイル、LINE Pay、LINE Musicなどがその代表例です。
しかし、昨年の上場を経て、会社の規模がますます拡大し、事業領域の可能性の幅も大きく広がる中、今まで以上のスピードで成長を続けていくためには従来の体制では限界が見えてきた。それを解決し、より大きな成長を遂げるために誕生したのが事業開発担当の執行役員、という役割であり、従来からあった事業戦略室を新たなRole & Responsibilityの下に再編しました。
私は、この事業戦略室のマネジャーとして3月に入社。LINEのあらゆる事業開発案件を成功させるミッションを担っています。
入社直後から大型案件を複数、並行して取り組んできましたが、その中で最初に世に出す形になったのが、5月に発表したばかりのアミューズ様と提携する新たな電子チケットサービス事業の検討についての合意です。
目指すのは、現在のチケット流通が抱える不正転売問題、公式セールの仕組みづくりなどの課題を解決し、新たな電子チケットサービスのプラットフォームを創出することです。これにより、エンターテインメントコンテンツビジネスをより発展させたいと思っています。LINEが日本国内の月間アクティブユーザー約6800万人という大きなプラットフォームだからこそ、社会的にも意義があると思っています。

T&G時代はV字改革、海外戦略を実現

私自身、これまでのキャリアの中で、テイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)やアマゾン ジャパンでさまざまな新規事業の立ち上げを担当してきました。
30歳のときに転職したテイクアンドギヴ・ニーズは損保時代の同期であり、知人の同社創業社長の野尻佳孝氏から誘われる形での転職でした。最初はウェディングプランナーとして現場からスタートし、マネジャー、エリアマネジャーを経て、複数のグループ企業の立ち上げも行っています。
入社5年目ほどでT&Gは業績の急降下とリーマン・ショックが重なり、非常に大変な時期を迎えたのですが、そのときは会社の立て直しの特命を受け、事業計画の見直し、大規模な資金調達、子会社の整理や統合といった業務をやり遂げ、36歳で役員入り。後に「奇跡的」と言われるV字改革を実現しました。その後、中国やアジアでの海外進出を軌道にのせた後、次のステップとしてアマゾン・ジャパンへと転職しました。
当時はちょうど40歳になった頃で、改めて自分にとってのキャリアを考えたのが転職のきっかけでした。この先のキャリアを見据えたときに、自分がもっと成長するためにはどうすればいいのか? そう考えたときに、新しいことへのチャレンジを選択したんです。
その際、次はどんなフィールドでチャレンジをしていくか、自分の中では明確な指標がありました。
第一に自分自身がワクワクできるようなチャレンジであること。次によりグローバルな環境で働けること。日本的な「あ・うん」が通用する世界ではなく、世界中から集った才能を相手に、最初の前提部分からロジカルに相手を説得し、巻き込んでいく必要があるようなハードな環境に身を置く。そうすることで、自分を鍛えてレベルアップしたかったのです。
3つ目は、IT分野に関連する領域であることです。これだけITが拡大しているのに、私はウェディング業界が長く、ITとは無縁でした。金融や経営の知識や経験はありましたが、自分に決定的に欠けているITこそ、これからの自分がチャレンジすべき領域だと思ったのです。この3つの条件をすべてクリアしていたのが、アマゾン・ジャパンでした。

ビジネスを創る側に回る

アマゾン・ジャパンではハードライン事業本部総合家電事業統括として、6つの事業部を統括。数字は公開できませんが(笑)、アマゾン・ジャパンの売り上げのそれなりの部分を占める規模の事業を管轄していました。
特にグローバルレベルでも長年の懸案とされていた大型家電の取り扱いをスタートさせるなど、在籍していた3年間で自分なりの足跡は残せたと思っています。
アマゾンはジェフ・ベゾスを始めとする天才経営者の下に非常に優秀なスタッフが集結し、入念に考え抜かれた「仕組み」を生み出している企業です。世界No.1企業という環境で働く以上、その実行部隊として常に120、150%以上の結果が求められるタフな職場でした。
そこで一定の成果を上げられたというのは大きな自信となりましたが、単に「仕組み」の実行側で働くのではなく、「もう一度ビジネスを創る側に回りたい」という思いが湧いてきた。ビジネスを創るというのは、大きなイノベーションであり魅力的な仕事です。
そんなときにLINEという非常に影響力のある企業で、新しい事業を生み出すポジションに招かれた。「まさに、今、自分がやりたいのはこれだ」という感じがしました。

仕事も人材も、目標値を下げずに追求していく

新規事業を取り扱う事業戦略室といっても、すべてがゼロからビジネスを創るとは限りません。例えば、今回の電子チケットサービスのように、既存の技術やコンテンツなど有力アセットを持つ他社と組んで新しいサービスを生み出すこともあれば、M&Aでそういう優良企業を買収するケースもあります。
幸いにして、LINEには事業立ち上げのノウハウや資金という戦う武器はそろっているので、あとは個別の案件ごとに最もスピーディで効果的な方法を模索して実行するだけ。
現在の事業戦略室のメンバーは6名ほどですが、今後、十数名のチームへと人材を増やしていく予定です。仕事の領域が広い分、多様なスキルと対応力の高さが求められるのが我々のチーム。もちろん、その人材のレイヤーによっても、守備範囲は当然異なってきます。
マネジメントクラスであれば、市場調査、戦略立案、ビジネスモデル構築から始まり、実際にプロダクトを生み出して走り出すまで、さらにはビジネスが巡航高度に達するまでのエクセキューションをカバーできるレベルの人材が必要です。
プレーヤークラスについては、まずそれらのプロセスのうち、アサインされた領域について最良のアウトプットを出し続けながら、スピード感をもって守備範囲を広げていけるかどうかが重要だと思っています。
このため、チームメンバーに求める資質としては、なによりも強いパッションを土台として、コーポレートファイナンス、ロジカルシンキング、ITスキル、プロダクトマネジメント、企業法務、語学力など広範なスキルと、商売的なセンスもあげられます。また、視座を高くし、成長速度をあげるには、基本的なスキルに加えて、貪欲(どんよく)な好奇心、素直さや自らの欠点をどれだけ理解しているか、ということもポイントです。
現実として、これらすべてを持っているスーパーマンのような人は少ないのは分かっています。ただし、この人はどの部分はクリアできるけれど、ここはこれから伸ばすべきポイントだというのは、お話しすればわかります。理想像をみて、足りない部分はコミュニケーションしながら伸ばしてもらえばいいと思っています。
事業と同じで人材についても、目指す目標値のバーを下げるということはしたくない。そこを下げてしまうと絶対に目標を達成することはできないからです。そこは私なりにかなり明確な指針を持っていますし、人材を迎え入れるサイドの責任でもある。この指針については、アマゾンでの経験が根底にあります。
仲間になっていただく方には、タフなチャレンジをしていただくこととなります。ただし、そのチャレンジの先に必ず皆さんの大きな成長をお約束する。それが、私のミッションだと思っています。
あとは、チームとしてのダイバーシティも重要視しています。LINEという大きなプラットフォームのユーザーは多種多様な人たちです。そこに向かってサービスを生み出すには、我々自身が年齢、性別、国籍問わず、多様であるべきでしょう。

自由な中で、成長に向けチャレンジし続ける

入社してまだ日が浅いですが、LINEのカルチャーが非常に自由で、本質や原則を第一にしているというのは、実感しています。プロセスや慣習、ポリティカルなことに縛られず、常に最善の方法は何かを追求できる企業文化があります。
例えば、社内での意思決定に関するフォーマットもなく、提案事項に対して上層部から「OK」というLINEスタンプが来て、そこからものごとがどんどん進んでいったりします(笑)。その分、スピード感を持って仕事ができます。
結果を出すための環境を整える姿勢も徹底。社内にある保育園やカフェの充実、我々の仕事道具であるPCやオフィス生活をサポートする精鋭部隊もあります。何か問題があれば、それを解決することで仕事の成果を上げるという精神が根づいている。
これだけ恵まれた環境の中で、基本的な原則さえ守っていれば、そこから先のやり方は自由に取り組んでいける。ただし、自由は、厳しさとの裏表。それだけに、会社とともに自分が成長できるし、やりがいもあるはずです。
プラットフォームの成長とともに、足元では、事業戦略室で取り扱う案件の数、規模がどんどん拡大しています。中には身震いするようなエキサイティングな案件もあり、私自身さらに成長を加速させていく必要を感じています。同じ熱量、スピード感を共有して、ともに走り抜けてくれる新しい仲間との出会いを待っています。
(取材:久川桃子 編集:工藤千秋 撮影:稲垣純也)