NASA、有人火星探査用の宇宙基地建設計画を発表。シスルナ空間から火星への出発は2030年代
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僕は石松さんとは考えが違って、火星への第一歩を最短で実現したいなら、月に寄り道せずに直接火星に向かうべきだと思う。
アポロ以前も、フォン・ブラウンを含む多くの人は、有人月探査はまず地球軌道上の宇宙ステーションを作り、それを足がかりにして行うべきだと考えていた。だが、ケネディーが「1960年代が終わるまで」というとんでもない無茶振り(と天文学的な予算の付与)をしてくれたおかげで、寄り道せずにまっすぐ月に向かって成功した。現実の宇宙ステーションの建設は、1980年代の完成を構想されていた「フリーダム」がスペースシャトルの事故や予算、技術的問題で伸びに伸び、国際宇宙ステーションとして実現したのが21世紀になってから。もし、まず宇宙ステーションを作ってから月に言ってたら、人類初の月着陸は、1960年代どころか21世紀になっても実現しなかったかもしれない。
シスルナ宇宙ステーションも、一度始めたら、いろいろな技術的・政治的問題や事故などで伸びに伸び、いつの間にかシスルナが自己目的化する可能性すらある。もちろん有人火星飛行に関する技術的課題は非常に多いけど(人体の放射線への長期被曝、地上から独立した宇宙船のコントロール、etc)、それはシスルナ宇宙ステーションではなく、火星への宇宙船を作りながら解決するのがいい。
僕の観察では、シスルナ宇宙ステーションは、技術的な必要性というよりも、プロジェクトの中間ゴールを作る必要性からきているように思う。もちろん長期プロジェクトに中間ゴールを設けるのは宇宙に限らず常道だが、中間ゴールがいつの間にか最終ゴールになってしまうのがリスク。大量の資金投入で、長期プロジェクトを中間ゴールなしの中期プロジェクトにしてしまったのが、アポロ計画の一番の成功要因だった。要は力技。
そうは言った上で、アポロのような単発の火星探査で終わるのではなく、火星に恒久的な基地を築くつもりなら、月からの資源を利用した方がコスパがいいという点では石松さんに100%同意。ただ、何にしても最初の一歩を踏み出す必要がある。
トランプがお金とセットで「2020年代までに火星に行かなきゃNASAを消すよ?」とか無茶振りしてくれたら、一気に進むかも。地球と月を二つの重力源とみなすと、第三の物体(例えば小惑星)に対してそれぞれの重力が釣り合う点(ラグランジュ点)が5つあることが古典力学から分かっている。シスルナ空間とは、地球(大気圏外)と月、5つのラグランジュ点を含む宇宙空間のことをいう。そのサイズの明確な定義は不明だが、大雑把には地球と月の距離の1.5倍程度であろう。5つあるラグランジュ点のうちの二つは力学的に安定しているので、技術的なことは別にすれば、そこに宇宙ステーションやコロニーを建設することが可能だ(残りの三つも力学的に不安定であるものの、制御可能だとの議論がある)。それができれば、地球から火星への宇宙船を飛ばすにあたっての中継地点として活用できる、というのがこの記事の背景としてあるのだろう。将来、宇宙開発が現実化してくると、こういった地球周辺の重力圏の制御が政治的にも重要になる。その意味でシスルナ空間のコントロールは宇宙地政学的にも重要だろう。
この宇宙基地、おそらくDROかNR(H)Oと呼ばれる月周回安定軌道に置かれることになるだろうけど、これも民間の月資源開発を含みにした選択でしょう。NASAとしては、基本自力で火星に向かう計画を立てつつ、たとえばSpaceXの打ち上げ事業や、Blue OriginやMoon Expressの月資源開発など、どこかで民間のおいしいとこ取りをしてコスト削減可能なアーキテクチャにもしておきたいところ。
「今後20年は、月を制したものが宇宙を制す」とずっと言ってきたけど、もっと言うなら、このシスルナ空間(cislunar space)を制したものが、宇宙を制すでしょう。その意味ではマスクよりベゾスの方が狙いは鋭いかも。
DRO: Distant Retrograde Orbit → 遠い逆行軌道
NR(H)O: Near Rectilinear (Halo) Orbit → ほとんど直線ハロー軌道
※訳はテキトー