レシピと材料をセットで届けるサービス「ブルー・エプロン」。類似サービスを提供するスタートアップが次々と登場しては、姿を消したり、経営不振に陥ったりするなか、ブルー・エプロンはユーザー数を順調に伸ばしているという。後編も引き続き、同社の内情を探る。

業界トップを走る、ブルー・エプロン:ローテクからのスタート

気温2度での立ち仕事は時給11ドル

少し前まで、ラインで処理するミールボックスの種類を変更するには数時間かかり、その間スタッフはやることもなくぶらぶらしていた。「専用ソフトがなかったら、現在の規模にはとてもなれなかっただろうね」と、パパスは語る。
ブルー・エプロンが、そのテクノロジーを誇りに思うのは当然だ。だが、そのオペレーションは、依然としてマンパワーが大きな役割を果たしている。
しかし人は間違うものだし、疲れるし、作業が遅くなる。農産物を一定のペースで袋に詰め、きれいに整えて箱に詰めて、ラインをスケジュールどおりに動かし続けるには、スピードと集中力が必要だ。
ときには携帯スキャナーで材料をチェックするのを怠る作業員もいる。すると、データベースの在庫情報が正確でなくなってしまうと、元スタッフは語る。
昨年8月の「ナポリ風野菜のシチュー」のレシピには、「サマービーンズ」が120グラムと書かれていた。サマービーンズとは、緑色と紫色の豆が半分ずつ混ざった豆のこと。スタッフは、この豆の袋を1分間に4つ作らなければいけなかった。2色の豆の山から豆を取って、ベルトコンベアを流れる袋にどんどん入れていく。
別のステーションでは、同じセットアップでパセリを詰める作業が行なわれている。あまり量が多すぎると、予定よりも早く材料がなくなってしまう。野菜をトリムしすぎてしまうと同じことがおきる。
現場の仕事は過酷だ。それでもある女性スタッフは、1回のシフトで3万3333人分の材料を詰めるという記録を打ち立てた。
だが、ほとんどの作業は寒いなかでの立ち仕事で、単純作業をひたすら繰り返さなくてはならない。休憩は1回30分を2回以上。賃金は時給11〜13.50ドル(発送センターの場所による)で、多くの州の最低賃金よりは高い。

紫色の豆に「腐ってる」と苦情殺到

スタッフの入れ替わりは激しく、無断欠勤や早退も少なくないが、人手不足のため何のおとがめもないことが多い──。元スタッフらはそんな現場の状況を証言する。
納入された野菜が品質管理チームにすべて拒絶されたり、数量が不足していたりして、調達チームが大慌てで代替品の調達に走ることもある。パッキング作業が遅れても、顧客には予定どおり納品するために、輸送を特急扱いにいして追加的な費用が生じることもある。
ブルー・エプロンの広報は、同社には人的エラーに対応するシステムがあるし、「欠勤や遅刻は非常に真剣に受け止めており、フェアに処理している」と言う。
と同時に、この種の問題は大規模な製造工程では一般的であり、ブルー・アップルはロジスティクス上の予期せぬ出来事を想定して予算を組んでおり、問題が生じた場合は顧客の満足度を優先した対応をしているという(顧客満足度は94〜96%だという)。
だが、顧客は予想外のことに不満を抱くこともある。
たとえば、ナポリ風野菜シチューのサマービーンズ。紫色の豆を見て、腐っていると思う顧客が続出して、カスタマーサービスに問い合わせが殺到した。このため2回目以降は、レシピの表記をサマービーンズではなく「緑色と紫色の豆」として、商品ラベルも変更した。

事業拡大に注力、今年こそIPOを狙う

コロラド州ボールダーに住むレスリー・バーンズ(52)は、新しいレシピを知るチャンスになるという友人の勧めで、ブルー・エプロンを始めた。でも、3カ月でやめた。レシピの写真のような仕上がりにならないし、量も少ない気がした。
でも一番の理由は、大量のビニール袋や箱が大量のゴミになることだった。
「1週間の終わりにゴミを出すとき、自己嫌悪に陥った」と、バーンズは言う。「すごく無駄なことをしていると、物理的に思い知らされている気がした。必要なことだと思えなかった」。バーンズと同じように感じる人は少なくない。
ロングアイランドでの立ち上げから約5年。ブルー・エプロンは今も、ミールキットはお金を払う価値があるものだと消費者を説得するべく、マーケティングや1カ月の無料トライアルに力を入れている。
クッキング・チャンネルやフード・ネットワークで「ゼロから作るともっと美味しい」というCMも頻繁に流している。
拡大戦略にも力を入れている。近くニュージャージーに、全米で4つ目となる発送センターを開設する。来年にはカリフォルニアにも設置予定だ。さらにレシピの選択肢を増やし、顧客が配達の頻度を変更できる試験プログラムも立ち上げた。
ミールキットを配達する会社はほかにも数十社あるが、ブルー・エプロンは業界第1位の座を守っている。同社は持続的に利益を上げられることを投資家に示して、今年こそIPOを実現するつもりだ。
そうなれば3年前のエッツィ(Etsy)以来の、ニューヨーク発の大型スタートアップのIPOになる。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jing Cao記者、翻訳:翻訳:藤原朝子、写真:grahambedingfield/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was produced in conjuction with IBM.