【藤代裕之】メディアは「時間概念」を取り戻せるのか

2017/4/29
メディアと時間概念は密接に結びついている。新聞の日付、テレビの時報を疑う人はいない。人びとが同じ時間を共有しているという感覚が、マスメディアを成立させ、国民国家という共同体を生み出してきた。だが、ソーシャルメディアの登場は、新たな時間概念をもたらし、社会は混乱している。その先に何があるのだろうか。『ネットメディア覇権戦争』の著者で、法政大学准教授の藤代裕之氏が、「時間概念」という切り口から、ポストソーシャル時代のメディアを考える。

新聞の日付が「国家」を生み出した

「国民とはイメージとして心に描かれた想像の政治共同体である」
政治学者ベネディクト・アンダーソンは『想像の共同体—―ナショナリズムの起源と流行』において、印刷技術と紙に媒介された言語の登場が近代を作り出したという説を打ち出した。
(写真:iStock/Allkindza)
重要なのは新聞の片隅にある日付だ。ある日付が印刷された新聞は、翌日には古新聞となり消費されてしまう。それをアンダーソンは、「新聞の読者は、彼の新聞と寸分違わぬ複製が、地下鉄や、床屋や、隣近所で消費されるのを見て、想像世界が日常生活に見えぬかたちで根ざしていることを絶えず保証される」と書き記した。
つまり、自分が読んでいる新聞を他人も同時に読んでいると疑わない状況(虚構)が、共同体を生み出しているという指摘だ。