脳科学的に考える、朝を最強にする方法

2017/4/24
働き方改革が叫ばれ、長時間労働や残業の見直しが進む中、朝をどのように有効活用するかに関心が集まっている。そんな中、サントリーはビジネスパーソンの朝をより豊かにしようというコンセプトで、「サントリー天然水 PREMIUM MORNING TEA レモン」を発売した。人間にとって朝はどのような存在なのか、脳科学研究者である東大教授の池谷裕二氏と「天然水」の商品開発を担当する糸瀬大祐氏に聞いた。

糸瀬(サントリー) ITの普及によっていつでもどこでも仕事ができるようになりました。そういう中で人間らしさがどんどん失われてしまっているような気がしています。
池谷(脳科学者) 朝は、人間だけでなくすべての動物にとって日照リズムをリセットする時間です。いつでもどこでも仕事ができる、シームレスでタイムレスなのが現代社会。そういう日常で唯一、我々の時間の区切りをつけてくれるのが睡眠です。
毎日、寝て起きるというのをレギュラーで繰り返している。時計の上では1日の区切りは夜中の12時でも、本来、自然界で1日を区切るのは朝なんです。
糸瀬 確かにそうですね。私は以前、北海道で脚本家の倉本聰さんが主宰する「富良野自然塾」という自然体験プログラムに参加したことがあります。そこでは時計や携帯電話はもちろん、電気も水道もない生活が待っているんですが、そういうところに行くと太陽が昇ると自然に目が覚めるし、日が落ちて暗くなると眠くなる。
そのときに、人間は地球や太陽のリズムとシンクロして生きているんだな、ということを思い出させてもらいました。文明が進んだことで、自然とシンクロする人間らしさを忘れてしまっているんですよね。
池谷 もともと人間の体内リズムは24時間より長い。人によりますが本来の周期は25〜26時間です。ですから、自分の体内リズムのまま生活しているとどんどん起きる時間が遅くなり、自然と夜型になってしまいます。
それを定期的に朝、光を浴びることで脳内の時間が元にリセットされるんです。脳にとって24時間のスタートは朝起きた瞬間。脳の周期時計のリセットボタンを押す、それが朝の明るさです。
糸瀬 朝、起きてすぐの脳はどのような状態なのですか?
池谷 朝は電話がかかってきたりしないので、物理的に仕事がはかどるというのもあるでしょうが、実は、起きてすぐはまだ脳のエンジンがかかっていないので、あまり頭が働きません。ただし、朝は脳のキャパが小さい分、日中に比べると少ない量の作業をこなすだけでも充実感を感じられるというメリットがあります。
起床直後は新しいことや難しいことを考えるようなアウトプットよりも、読書などインプットをするほうが脳にはいい。私も毎朝5時45分に目覚ましをかけて、6時すぎくらいまではベッドで論文を読んでいます。
糸瀬 私は毎朝5時30分に起きるんですが、まず朝風呂に入るようにしています。
池谷 身体を動かすのは、とてもいいですね。私のようにいつまでもベッドで横になっていると、眠気を取るのは難しいことがわかっています。眠いときほどまずは身体を起こしたほうがいい。入浴やシャワーは、その分、30分早く脳を覚醒させることができると思います。
糸瀬 確かに入浴が朝のリセットになっているという感覚はありますね。
池谷 はい。ただし、朝の入浴やシャワーでは、水分補給を忘れないでください。もともと寝ている間に水分不足になっているところに、さらに汗をかいてしまう。
水分は体重の60〜70%を占めていますが、そのうち3%が失われただけで頭痛や吐き気を生じます。水分不足は健康面だけでなく、記憶力や学習能力も大きく低下させるんです。
体重の1%以下の水分が失われただけで、記憶力が低下したりミスが増えるという論文もあります。その程度の水分は、自覚症状もないまま日常的に失われている量。
寝ている間に水分が失われているので、特に朝は、すでに軽い脱水状態ともいえます。大人なら、朝500ml程度の水分補給をすれば、記憶力や認知力を回復できます。朝起きて水分をしっかりとるのは、脳にとって非常に重要なのです。
糸瀬 朝、水を購入する人が多いというのも、それを聞くと納得できます。今、水のマーケットが非常に伸びているのですが、そういう科学的意味もあるんですね。
池谷 朝、水分をとると体調がいいというのを、本能的に感じているんだと思います。
池谷 もうひとつ、朝に必要なのは糖分ですね。脳は寝ている間も活動しているので、基礎代謝のエネルギー源となる糖分は使い切ってしまう。朝、水分だけでは脳に栄養がいかないので、糖分も補給するのは理にかなっています。
糸瀬 利き水のように寝室の枕元に水分を置くというのはよく聞きますが、寝ている間に糖分も不足しているんですね。
池谷 脳は糖分をすごく必要としています。糖分は人に安心感を与えるので、糖分不足になると焦燥感や不安感が生じます。
わかりやすい例では、糖分が不足すると自我消耗といって、難しいことを考えられなくなったり、モラル感がなくなる。だから、人間は午前中より午後のほうがウソをつきやすいとも言われています。モラルを維持するのって、実はものすごく精神力を使うんですよ。そういった自我消耗をブロックするのが糖分です。
糸瀬 実績を上げているビジネスパーソンには早起きな人が多いと思います。その点については、どう思いますか?
池谷 早起きができるというのは自制心があるということ。それはやはりできるビジネスパーソンのひとつの資質ですよね。何よりも朝、定期的に起きるということはすごく大事です。仕事ができる人は、そういう生活リズムが習慣化されていると思います。
糸瀬 決まった時間に起きて、決まった時間に働く。ルーティンとしては生活のリズムが安定してすごくいいですよね。
池谷 おっしゃる通りです。そこで注意しなくてはいけないのが、休日も必ず同じ時間に起きるということ。普段から夜も同じ時間に寝るのが理想ですが、それは付き合いもあったりして現実的に難しいこともあるでしょう。だからこそ、朝の起床時間は平日休日を問わず一定にしてほしい。
時差ボケはとても脳に悪影響を与え、脳機能を低下させてしまう。1時間の時差でもダメなことが証明されています。もしどうしても眠かったら、一度起きてから、昼寝をするのがおすすめです。
糸瀬 朝は仕事の準備に充てるという人も多いと思います。脳科学的に、朝の時間をより効果的に活用する秘訣はありますか。
池谷 例えば、アイデアを慎重に練るなど準備に3時間はかかる仕事があったとします。当日の朝にまとめてやるよりも、前日の夜から準備をスタートするのをお勧めします。前日2時間やってしまって、一度寝て、いつもと同じ時間に起きて、残りの1時間をやるというスタイルです。
先ほども言ったように寝ている間も脳は活動しているので、頭の中で夜にやったことの情報が結びつくんです。そのうえで、朝準備をして仕事に臨む方がパフォーマンスはアップします。
糸瀬 朝、起きたら夜考えていたのとは違うアイデアが浮かんだり、ひらめいたりするのは、そういうわけなんですね。
池谷 そうです。夜、脳にインプットすれば、寝ている間に熟成してくれる。当日の朝、3時間で準備しようと思うと、短い時間で本番になってしまいますが、前夜からやることで寝ている時間も準備に充てていることになる。
糸瀬 今、生産性アップとか働き方改革が注目されています。そういう時代だからこそビジネスパーソンには、豊かな朝の時間が大切です。
サントリーでは、このたび、「サントリー天然水 PREMIUM MORNING TEA レモン」を発売しました。この商品を通じて、働き方を変え、生産性を上げていこうと考えている働く人が、気持ちよく1日をスタートできるような朝を応援したいのです。
紅茶を透明にしたことで、ちょっと前向きになったり、軽やかさを感じていただきたいと思っています。
池谷 透明には、従来の紅茶とは違うという意味も込めていますか?
糸瀬 紅茶には、歴史、権威、作法があります。これは、部長が居て、課長がいて、というある程度作法がある従来の働き方にも通じます。
サンフランシスコに、米Businessweek誌に3年連続で「世界で最もイノベーティブな企業」に選ばれたIDEOというデザインファームがあります。アップルの初代マウスなどをデザインした会社です。
そのオフィスを訪れたときに非常にフラットな雰囲気に驚かされました。CEOも新入社員も関係なくフランクにアイデアを話しながら、どんどん具現化させていくのです。
フラットな働き方をするオフィスで、もっとカジュアルに紅茶を楽しんでもらいたい。透明な紅茶にはそんな思いも込めました。「サントリー天然水 PREMIUM MORNING TEA レモン」は、新しい働き方によって生まれるイノベーティブな仕事、クリエイティブな仕事に寄り添う存在でありたいと思っています。
(取材:久川桃子 構成:工藤千秋 撮影:稲垣純也)