テキサス州オースティンで誕生したボトル入りコーヒー「カメレオン・コールドブリュー」。ドリンク市場のトレンドに乗って利益を拡大中だ。

「コールドブリューって何だ?」

アメリカのテキサス州オースティンに住むクリス・キャンベルは2010年、世界を旅して回る多忙なコンサルタントの仕事を辞めると決めた。次なる大きな起業アイデアを探そうと夢を抱いていたのだ。もしかしたらアイデアは向こうからやってくるかもしれない、とも思っていた。
それが現実になったのは数カ月が過ぎた時だ。キャンベルが友人スティーブ・ウィリアムズの経営するコーヒーショップでくつろいでいると、知り合いがやってきた。その手には、ボトル入りのコールドブリューコーヒーが握られていた。そして彼はこう言ったのだ。
「スティーブ、君の店で出している、グラスに入ったおいしいコールドブリューコーヒーはすごく売れているだろう? だから興味があるかと思って持ってきたよ」。キャンベルはその時のことをこう振り返る。「コールドブリューって何だ?って聞いたんだ」
キャンベルは、コールドブリューがその名の通り、低温抽出されたコーヒーであると知った。低温での抽出には何時間もかかるが、そうやって淹れたコーヒーは、普通のコーヒーよりタンニンが出にくくなるので苦みが抑えられ、酸味も少ない。
コールドブリューはまた、レディ・トゥ・ドリンク(RTD)と呼ばれるボトルや缶に入ったコーヒーを抽出する際の秘訣でもある。
キャンベルとウィリアムズが創業した「カメレオン・コールドブリュー(Chameleon Cold-Brew)」は現在、ボトル入りコーヒーを販売している。それらはスーパーやコンビニで手軽に買えて、ミルクや砂糖を入れずにすぐ飲めるものだ。

爆発的な成長を続ける市場

同社のボトルコーヒーは、爆発的な成長を続ける市場の商品だ。
オーガニックや自家農園の作物を原料とする付加価値の高い食品専門の業界団体、スペシャリティフード協会によると、ボトルや缶入りのコーヒー・紅茶業界では、2013年から2015年の間に売り上げが262%拡大したという。これは、スペシャリティフードやドリンク分野においてかつてないほどの上昇率だ。
市場分析を行うグランド・ビュー・リサーチは、アメリカにおけるRTDコーヒー・紅茶の売上は、2015年は1億4300万ドルだったが、2024年には世界全体で1160億ドルになると推測している。
カメレオンも、そうした業界拡大の恩恵を受けている。同社によれば、2015年には900万ドルだった売上が、2016年には2倍以上に膨らんだという(利益が出たかどうかに関しては明言を避けた)。
同社の商品は、濃縮コーヒーも含めて、高級志向スーパーのホールフーズ・マーケットや、ターゲット、セイフウェイなど全米各地で販売されている。
「大きなビジネスを築いて成功しようと思っていた」とキャンベルは語る。「このコーヒーは地元のマーケットで売るつもりで作ったものではない。そんなつもりは毛頭なかったよ。チャンスを見つけたから、やってみたんだ」

自らボトル詰めした「成功の味」

キャンベルとウィリアムズは、コールドブリューコーヒーで起業することを決めた。となると、誰もが喜ぶおいしいコーヒーを生み出さなくてはならない。
そこで2人は、中米産と南米産のアラビカ種をあれこれブレンドし、抽出の温度と時間を何度も変えてみた。業務用厨房にある、ウォークインタイプの大型冷蔵庫内のスペースを借りて、ブレンドした豆をバケツに入れ、時には16時間から24時間も抽出しては味見することをひたすら繰り返したのだ。
「すべては味で決めた」とキャンベルは話す。「研究所にあるような設備はなかったし、いろいろ分析したりもしなかった。私の好み、スティーブの好み、その時にその場に居合わせた人の好みで決めた」
一般消費者の好みを研究するために、2人は地元のコーヒーショップに足を運んでは、注文した商品は何で、砂糖をどのくらい加えるのかを客に聞いて回った。
そうやって出来上ったのが、カカオと香ばしいトフィーの甘さがほんのりと感じられる絶妙な味わいのブラックコーヒーだ。初めて製造したバッチは、2人が自らボトル詰めした。ボトル詰め用の機械は、手羽先用ソースの瓶詰めをしていた工場から借りたものだ。
同社はのちに、フレーバー付きの濃縮コーヒーを開発した。また2013年にはモカ、バニラ、エスプレッソ、メキシカンのRTDボトルコーヒーを売り出した。
しかし、販売を始める前に、まずは商品に名前をつけなくてはならない。ある友人が「カメレオン」がいいと提案した。同社のコーヒー豆の仕入先地域を象徴する動物であり、ロゴとしてもぴったりではないかと考えたのだ。
キャンベルとウィリアムズもその名前を気に入ったものの、問題が1つあった。カメレオンは中米にも南米にも生息していないのだ。それでも、どうしてもこのネーミングにこだわって、カメレオン・コールドブリューは誕生した。

創業6カ月でホールフーズの棚に

2人は手始めに、16時間かけて抽出した濃縮コーヒーを製造し、32オンス(約940cc)入りボトルに入れて販売することにした。水や牛乳で割ると8杯分となり、アイスでもホットでも飲める。
キャンベルとその妻は、自己資金を開業資金に充てた。利益率を高くするために、製造数を抑えようと考えたという。「6カ月間、様子を見て、売れるかどうか確かめることにした」とキャンベルは話す。
キャンベルとウィリアムズは、オースティンの小売店数店に頼み込んで商品を置いてもらった。しかし、販売先として本当に狙っていたのはホールフーズ・マーケットだ。ホールフーズの買い物客なら、オーガニックで倫理的に調達された原材料からできたカメレオンのコーヒーに関心を持ってくれるからだ。
ところが、うまく行かなかった。進展が見られたのは、2011年4月にホールフーズがスポンサーとなって地元で開催されたイベントで商品を提供した時だった。
ある女性来場者に「カメレオン・コーヒーはどうしてホールフーズで販売されていないのですか」と尋ねられたキャンベルは、思わず強い口調でこう訴えたのだという。「もう何カ月も置いてほしいと頼んでいるんですよ」
そしてさらにこう続けた。「(ホールフーズは)地元志向だとか小さなビジネスを大事にしているとか言っているけど、あれはでたらめだ」
「まあ、落ち着いて」とその女性は答えたという。「ぴったりな商品だと思うわ」
「それはよかった」とキャンベル。「で、あなたはどなたでしょう?」。その女性は、ホールフーズ・マーケット・オースティン旗艦店の新しい責任者だと名乗った。
その2週間後、2人のもとに電話が入った。そしてそのさらに数週間後、創業して6カ月にも満たないカメレオンのコーヒーがホールフーズの棚に並んだのだ。

ミレニアム世代を中心に人気上昇中

RTDのコーヒー・紅茶業界ではここ最近、カメレオンのように、創業後まもなく急成長を遂げたスタートアップをよく見かける。
カメレオンは、Inc.誌が発表した、2016年に急成長を遂げたアメリカの民間企業リストで140位にランクインした。同種のドリンクメーカーでは「コハナ・コーヒー(Kohana Coffee)」(225位)、「ルナ(Runa)」(598位)、「ハイボール・エナジー(Hiball Energy)」(844位)も名を連ねている。
「飲食店や外出先で飲むコーヒーの売上は上昇している」と話すのは、調査会社NPDグループのフード&ドリンク業界アナリスト、ダレン・セイファーだ。
「特に、午後の売上が伸びている。午前中に飲むコーヒーはたいてい、目を覚まして元気を出すためという実用的な意味があるが、午後のコーヒーは、自分へのご褒美として飲む場合が多い」。そのため、消費者はフレーバー付きのドリンクを求める傾向があるという。
セイファーによれば、RTDのコーヒーや紅茶は、特にミレニアル世代に受けているようだ。彼らはオーガニックな原材料でできた商品を好み、添加物や保存料を避けたがる。その点、コールドブリューコーヒーはもともと甘みがあって苦みが少ないため、砂糖やミルクを入れて味を調整する必要がない。
ミレニアル世代の消費者はまた「大手メーカーのものではないニッチな商品に惹かれるようだ」とセイファーは言う。
とはいえ、コーヒー業界ではスターバックスが依然として圧倒的な存在感を持ち、競争相手はつぶされかねない。スターバックスのRTDボトル入りコールドドリンク「Frappuccino®」が小売店の主力商品となって20年以上になる。
その点も、スタートアップが同市場にこれまで参入しようとしなかった原因の1つだとセイファーは言う。

従業員35名、925万ドルを外部調達

新たなRTDブランドは、今後ますます競争が激化する市場に直面するだろう。市場参入が困難な理由としては、ボトル詰め会社や卸売業者を見つけなくてはならない点もある。それに、何はさておき、おいしい商品を開発しなくてはならないのは言うまでもない。
今のところ、カメレオンは拡大し続けている。RTD商品をさらに展開するために、よりレベルの高い施設に移転したほか、抽出プロセスにも改良を施した。
従業員が35名に増えた同社は、売上の増加に伴い、925万ドルの資金を外部調達した。そのうちの800万ドルは、フード業界専門のベンチャーキャピタル、ボールダー・フード・グループ(Boulder Food Group)からの資金だ。
ウィリアムズは今も同社株を保有しているが、日常業務からは手を引き、自分のコーヒーショップの経営に戻った。
一方のキャンベルは、コンサルタントとして多忙を極めた生活を手離したことを喜んでいる。ただし、急成長を続ける会社を経営していく上では、個人的な課題も抱えている。
「普段の生活を楽しめるようになりたいと思っている」とキャンベルは話す。「私には幼い娘と美しい妻がいて、私がこの道を進めるように支えてくれてきた。いずれは、少しでもいいから恩返しがしたい」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:ElNariz/iStock)
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This article was produced in conjuction with IBM.