賞金総額500万ドル、アブダビでロボット競技会「MBZIRC」開催

2017/3/30

地元のハリファ大学が主催

数年前発表された際に「これ、ホント?」と眉唾もので見られたロボット競技会がある。
中東の国、アラブ首長国連邦の首都アブダビで開催され、賞金総額が500万ドルという大会だ。500万ドルといえば、約5億5000万円。そんな額が本当に? しかも中東?
だが、さる3月16日から18日までの3日間にわたって実際にその競技会「MBZIRC」は開催され、日本を含む世界のそうそうたるチームが参加。ドイツや中国などのチームが賞金を獲得した。
ロボットへの興味は世界共通であるばかりでなく、こうした競技会という機会を与えることによって、自国に優秀な研究者や開発者をつなげることができるという表れだ。
MBZIRCは、正式名を「Mohamed Bin Zayed International Robotics Challenge」という。アブダビ皇太子の名前を冠し、地元のハリファ大学が主催。スポンサーには同国の情報通信技術ファンド、アブダビ国立石油会社、中国北方工業公司(Norinco)があたった。

世界16カ国から25チームが参加

ロボット競技会自体は、3つの種目から構成されている。チャレンジ1は、走行するトラックを発見し、追跡した後、その上に着陸させられるドローンを製作するもの。チャレンジ2は、地上自動走行車とアームがバルブを探し当てて、道具を用いてバルブを操作するというもの。
チャレンジ3は、複数のドローンが対象となる地域の中から特定のモノを探し出し、それを指定の場所に運ぶというものだ。最後にグランド・チャレンジがあり、ここでは上記3つのチャレンジを同時に遂行させる。
DARPA(米国防高等研究計画局)が主催した「ロボティクス・チャレンジ」のように、ヒューマノイドや巨大な昆虫のようなかたちをしたロボットは登場しないものの、現在のロボット技術開発で課題となっているポイントを競い合うものになっている。
チャレンジで勝利を獲得したのは、ドイツ・ボン大学のチーム・ニンブロ。DARPAロボティクス・チャレンジにも参加した同チームは、グランド・チャレンジの100万ドルとチャレンジ2の120万ディルハム(約32万7000ドル)の賞金を得た。
他のチャレンジでは、北京工科大学がチャレンジ1、チェコ国立工科大学プラハ校、ペンシルベニア大学、リンカン大学の合同チームがチャレンジ3で優勝し、同じく120万ディルハムを受け取っている。
2015年にこの競技会の開催が明らかになった当初は、ロボット関係者の間でもことの真偽を疑わしく思う声があったようだ。
何と言っても中東諸国は、ロボット開発に関してはほとんど話題に上らない。いきなりそんな場所で国際的なロボット競技会が開かれるとは、あまりに意外である。
だが、競技会には世界から135チームが応募し、最終的には16カ国25チームが参加した。MBZIRCは、今後も隔年で国際ロボット競技会を開催し続けていくとのことで、ロボット関係者の間では定期イベントとして、これに合わせて技術を高めていこうとするチームも出てくるだろう。

競技会が技術進化に必要な理由

こうした技術競技会は、非常に重要なものだ。熱心なロボット研究者ならば、こうした場にどんどん参加して場数を踏み、その中で世界のチームと競い合って自分たちの研究の強みを知り、弱みを痛感するような機会を増やそうとするはずだ。
実際、技術自体の進歩にとっても、競技会というサポート環境が持つ意味は大きい。周知のように、現在の自動走行車の技術促進のきっかけを作ったのは、2004年に開催されたDARPAグランド・チャレンジである。
砂漠の中150マイル(241キロ)の道のりを自動走行車がスピードを競うという競技会だが、最終的に競技に挑んだ13チームで全距離を完走したところはゼロ。それどころか、最も遠くまで行ったチームですら、スタート地点からたった12キロほどのところで車が止まってしまった。
ところが、翌年に開催された第2回のグランド・チャレンジでは、参加した23チームのうち22チームが完走。1年の間に、各チームがどれだけ改良を重ね、進歩を遂げたかがうかがえる。そこで1位を獲得したスタンフォード大学は、その後の自走車開発でもリードを取った。
DARPAのロボット・チャレンジも同様だ。2回の競技会を経て、ロボットがすでに日常的な技術として浸透し始めている。
国際ロボット競技会を開催するのは、決して安上がりな試みではない。世界中からやってくるチームの交通費、宿泊費だけでなく、ロボットの運搬費も加わる。
だが、MBZIRCが本当にこれから隔年で開催されるとなれば、世界の名だたるロボット関係者をこの地に集め、ロボット地図にほとんど名がなかったアブダビがロボット関係者にとって親しみのある場所に変わることもあるだろう。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文・写真:瀧口範子)