(Bloomberg) -- 原子力事業の巨額損失で経営難の東芝は、資産を融資の担保として差し入れることを取引銀行に提案した。これに伴い無担保である社債の返済順位が下がるため、社債投資家には不利になるとの声がある。

複数の関係者によると、同社は2016年4-12月期決算の発表を再延期した翌日の15日、取引金融機関に支援の継続を要請し、グループ会社株式や不動産を協調融資の新たな担保に差し入れることを提案した。東芝債(18年償還)の対国債スプレッドは、直近では928ベーシスポイント(bp)。銀行への担保差し入れが報じられた前日の14日と比べて、16bp拡大した。

目論見書によると、東芝は社債にも担保を設定できるが、ニッセイ基礎研究所の徳島勝幸年金研究部長は、過去の事例を考慮すると「担保が付けられることはたぶんないだろう」と指摘。国内の「社債は無担保が多いので、ローンとは回収率にもおそらく差がつく。日本の社債は実質的に劣後債だ」と述べ、東芝の場合も融資に担保が付けば社債権者には不利になるとの見方を示した。東芝債の残高は現在2100億円。

日本証券業協会の「社債の活性化に関する懇談会」の資料によると、欧米では社債とローンは優先債務であれば返済順位が同じなのが一般的。これに対し、日本ではスルガコーポレーションやゼファーといった企業がデフォルト(債務不履行)直前にローン債権者が担保を取得し、社債の回収率が想定を下回る事例があったという。

大和証券は16日付のリポートで、融資への担保提供は「融資継続となり、デフォルト確率を下げる意味ではプラス」と評価する一方で、債券がデフォルトした場合には「投資家への弁済率を下げるという点ではマイナス」とした。

銀行優位の歴史

大和証券の大橋俊安チーフクレジットアナリストは、日本では担保設定について「社債間同順位」にはなっていても、「ローンと社債の同順位」という慣行にはなっていないと指摘。企業にとって「ローンが資金調達の多くを占めており、銀行との関係の方が大事にされているし、強いということの表れだ」と話す。

BNPパリバ証券の中空麻奈チーフクレジットアナリストは、経営危機の企業ではメーンバンクに債権が集中しがちなため、「取りはぐれないようにできるだけ担保を取ろうとする傾向がある」という。社債とローンは本来は返済順位が平等であるべきだといい、「融資に担保がつけば優位な債権となり、社債権者にとってはネガティブになる」と話す。

社債保有者の権利をめぐっては、訴訟に発展したケースがある。01年に経営破綻したスーパー大手のマイカルについて、取引銀行が破綻直前に担保付き融資を行ったことに対し、社債投資家らは「社債の管理者でもある銀行が融資の保全を優先し、利益相反に当たる」として、銀行を相手取り提訴。名古屋地裁は「銀行には公平誠実義務に違反する行為はなかった」として、訴えを退けた。

格付け

東芝の格付けはS&Pグローバル・レーティングの「CCCー」を始め、投機的等級となっている。銀行への担保差し入れ報道後の社債利回りの上昇は比較的限定的だが、大和証の大橋氏は「日本企業の場合、信用状況がすごく落ちてくると銀行がローン保全措置で担保を取るのは早めに織り込まれていく」と話し、事前にかなり織り込まれたとの見方を示した。

監査法人承認前の暫定数値では、同社は原子力事業の減損で今期(17年3月期)3900億円の純損失となり、3月末には債務超過に陥る見通し。また米原発事業の内部統制問題などをめぐる混乱から、4-12月期決算の発表を2度も延期。東京証券取引所は同社株を監理銘柄に指定し、上場存続の是非について審査している。

ローンに対する担保提供の有無や社債保有者への影響について、東芝の広報担当、平木香織氏は「資金確保のため、様々な方策を検討しているが現時点でお話しできることはない」と述べた。主要取引銀行の三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友トラスト・ホールディングスの広報担当はいずれもコメントを控えた。

(第3、9、10段落を加筆しました.)

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