無意識のバイアスを取り除く

人工知能(AI)というと、いつか企業経営にも大きな影響を与える未来のテクノロジーと考えられがちだった。だが、アマゾンやネットフリックスの「おすすめ」機能からチャットボットまで、AIはすでに私たちの日常生活に入り込んできている。
AIを使えば、企業の人事・採用担当者が持つ「無意識のバイアス(偏見)」を見つけて、取り除くこともできる。シリコンバレーに拠点を置くクラウド人材管理会社SAPサクセスファクターズのマイク・エトリング社長は次のように語る。
「あなたの会社の人事部門トップが、会社における男女の役割分担を是正するべきだと言い出したとしよう。そうした企業のバイアスを取り除くには1年半〜2年かかることがある。そのバイアスが無意識のものだからだ」
つまり私たちは、自分にバイアスがあることにすら気づいていないことが多い。だから募集人員の職務内容を書くときも、特定の性別や人種などに対する偏見が無意識ににじみ出てしまう。

人事評価や職場の環境改善にも

SAPサクセスファクターズは、企業が募集人員の職務内容を書くときにスペルチェックならぬ「バイアスチェック」をかけるソフトを提供している。
スペルチェックが誤字脱字や文法の間違いを指摘してくれるように、バイアスチェックは職務内容の記述に、採用者側の無意識のバイアスが含まれていないか調べてくれる。
「テクノロジーがバイアスを見つけて、取り除いてくれる」と、エトリングは語る。「SAPサクセスファクターズのバイアスチェックソフトは、職務記述書の文章をチェックして、バイアスのある表現については修正を促す。特に性別不問の職務記述書でよく使われており、着実な効果が報告されている」
マルコム・グラッドウェルは著書『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(邦訳:光文社)で、自分にも無意識のバイアスがあることにショックを受けたと書いている。グラッドウェルにはアフリカ系アメリカ人の血が混じっているが、連想テストの結果、彼自身、無意識の人種的バイアスがあることがわかったのだ。
こうした無意識のバイアスは、仕事にも影響を与える。SAPサクセスファクターズのソフトは、AIを活用して無意識のバイアスを目に見えるようにすることで、職場環境の改善に貢献してきた。このソフトを使えば、報酬管理でもユーザーの無意識のバイアスを取り除きやすくなる。
「社員の仕事ぶり、職務内容、給与クラスを評価するとき、その社員の顔写真があるとバイアスが生まれがちだ」とエトリングは語る。「写真を非表示にすることで、こうした評価にバイアスが入り込む余地を排除し、実績ベースの評価を可能にする」

「優秀な人材がいない」の嘘

さらに興味深いのは、SAPサクセスファクターズのソフトを使うと、自閉症の採用応募者も公平に評価できることだ。
自閉症の人は、面接をうまく乗り切るのに必要な対人スキルが乏しいことが多いが、それ以外の領域で超人的なスキルを持っている場合がある。
SAPサクセスファクターズのソフトを使えば、採用応募者の人格ではなく、募集ポストに求められる能力ベースでの評価が可能になる。それはこれまで見落とされてきた、極めて優秀な人材を発見する強力な手段になる。
「最近よく人材不足だと言われるが、私に言わせればそんなことはない。ちまたには優秀な人材があふれている。企業リーダーたちは、人材のダイバーシティーにもっと目を向けるべきだ」とエトリングは言う。
SAPサクセスファクターズは、優秀な人材確保がアメリカで最も難しいといわれるサンフランシスコ/シリコンバレー地域で急成長を遂げているだけに、その社長の言葉には説得力がある。
会社のダイバーシティーを高めたいなら、バイアスチェックソフトのようなテクノロジーを積極的に利用するべきだ。無意識のバイアスを取り除き、平等な採用(そして報酬)を意図的かつ意識的に進めていけるようになるのだから。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Bill Carmody/Founder and CEO, Trepoint、翻訳:藤原朝子、写真:portishead1/iStock)
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This article was produced in conjuction with IBM.