スーパーボウルで露呈した、日米メディアの大格差

2017/2/26

世界最大のスポーツイベント

現地時間2月5日にテキサス州ヒューストンで開催された第51回スーパーボウルを観戦、正確に言うなら、仕事をしながら観戦してきた。
ここ数年、日本テレビの中継アドバイザーとしてスーパーボウルに参加しているが、そのなかでも今年は最高にエキサイティングなゲーム内容であった。
定価の最安値が約10万円、観客数7万人、約1.1億人が視聴(平均値)、視聴率の平均は48.8%。これらの数字が、このイベントを物語っている。
日本でもよく話題になる、テレビCMの30秒あたりの料金は、5億円とも6億円とも言われている。まさに、世界最大の国民的スポーツイベントである。
今年2月のスーパーボウルを取材する筆者(写真:著者提供)

メディアとリーグの良好な関係

ゲームの約1週間前に現地ヒューストンに入った私の仕事のメインは、アナウンサーと解説、いわゆるコメンタリー陣のサポートである。つまり、メディアの一員としての活動だ。
ゲームの1週間前から行われるプレスカンファレンス = 記者会見において、メディアに関連した一連のオペレーションが秀逸であったので、以下にまとめてみた。
【メディア】
取材する側である。世界中から多くのメディアが集る。平均200人/1日
【チーム】
①選手とコーチ
(いくつかの例外を除いて)嫌な顔一つせず、丁寧に一つひとつの質問に答えていく。両チームとも普段から取材に慣れ、よく(メディア対応の)トレーニングをされている。
②メディアリレーション担当
チーム側のメディア担当である。彼らが素晴らしい働きをする。時間の仕切りを中心に、表に出ないようにしているが、その場をコントロールしている。
最も印象的だったのは、“報道してもらう立場である”という姿勢があふれ出ていることだ。
【リーグ】
球団側のメディア担当の上にリーグのメディアリレーションスタッフがいる。主な仕事は“仕切り”であるが、チームのメディアリレーション同様に、「メディアあってのスーパーボウルです」と言わんばかりに、メディアに対応する。
メディアが集まる、広大なメディアセンター内にはつねに無料の食事やスナック、ドリンクが取りそろえてある。メディア関係者専用のアプリをダウンロードすれば、ポリスエスコート付きの移動手段の確認や、観光の情報取得や割引までもが可能である。
メディアにさまざまな食事が提供される(写真:著者提供)

記者会見の効果

少し考えてみよう、スポーツメディアが行うプレスカンファレンスの意義を。
メディアがスーパーボウルに向けて連日、各チームの情報を報じることによって、読者や視聴者は、それが何日後に迫ってきたのかを折に触れて知らされることになる。
そして読者や視聴者は報道によって内部に近い情報を知ることになり、そのゲームをより近くに感じることが可能になる。
そればかりか、そのプレスカンファレンスを報道する記事の横には、数え切れないほどの関連イベントや、グッズなどの広告がありとあらゆるかたちで人々の目や耳に飛び込んでくる。
過去の経験からリーグや球団側もそれを深く理解しているため、“メディアさまさま”という扱いになるのである。
つまりスーパーボウルに限らず、報道される価値を持つ、多くのスポーツイベントは、<報じる側のメディア><報じられる側のメディアリレーション担当><全体をマネジメントするリーグのメディア担当>が三位一体となって、そのイベントの効果を何倍にも増幅させる役割を果たしているのである。
スーパーボウルが開催されたスタジアム(写真:著者提供)
われわれスタンフォード大学のAthletic Department にも、その役割を担う部署が存在する。
37ものバーシティー・スポーツ(強化クラブとでも訳してみよう)が存在するわれわれは、メディアとマーケティングを統合して「エクスターナル・リレーション」という部門を設け、約30人が働いている。
われわれフットボール部には専任で3人のメディア担当がいるが、それぞれがメディアと選手・コーチングスタッフの間をうまく取り持っている。彼らが、それをコントロールしていると表現するのが正しいであろう。
今までも当連載でお伝えしてきた通り、カレッジスポーツは一大スポーツビジネスでもあるので、当然と言えば当然だが、その規模と、働いている人間の能力の高さ、特にコミュニケーション能力の高さには驚かされることが多い。

日本のプロスポーツの姿勢

さて、日本のスポーツメディアの現状に目を向けてみよう。私のなかでの“日本3大プロスポーツ”は、野球、サッカー、相撲である。
まず、相撲は除外しよう。(前回のコラムでも書いたが)伝統を守ること以外に興味のない彼らの話をするのは、時間の無駄である。運営を司る相撲協会のなかに「Media relation」と英語で書ける人物がいるかどうかさえ、疑問である。
以下に、日本のプロ野球とJリーグの広報について、私がリサーチした内容をまとめてみた。
【野球】
・担当者は選手出身が多い
・あくまでも選手が優先
・報道してもらっているという姿勢は皆無
・日本のトッププロスポーツであるというおごりが、見て、感じ取れる
【サッカー】
・「企業スポーツ → Jリーグ」という流れのなごりか、スポンサー企業からの出向者が多い
・必ずしも、企業で広報の経験がある人物ではない
・選手出身は、そう多くない
・野球と比較すると報道量が少ないことを理解している分、報道してもらう側という姿勢はある
現場にいない分、詳細なことについては論じられないが、NFLや、その他のアメリカのスポーツのような「メディアの方々あっての、われわれのビジネスです」という姿勢が足りないことは、私でも見て取れる。

東京五輪までの改善案

2020年まで、あと3年。
スポーツメディア全般、チーム所属のメディアリレーションのような“スポーツメディアを取り巻く環境”の成長が期待されるところである。
なぜなら東京で開催されるオリンピックは、治安を含む環境、ホスピタリティ、トランスポーテーション(公共交通機関を含めた移動の利便性)のどれをとっても、歴代オリンピックのトップランクを狙えるはずだからである。
「近代オリンピックのモデル」と言われるような大会にするため、各国のメディアからも称賛されるような大会にするためにも、スポーツメディアに関するいくつかの提案をしたい。
①プロの養成と採用
アメリカでは、メディアやジャーナリズムをメジャー(専修分野)とする大学や大学院が多く、チームやリーグのメディアリレーションで働く人間の多くが、この学位を有している。
職務経験が優先されることは前提として、組織委員会や各競技団体は、メディア関連、特にスポーツメディアに従事したことのある経験者を積極的に採用するべきである。
そして、それらを養成することにも注力すべきである。
各競技団体で役目を割り振られただけのおじさんが、にらみや威張りを利かして「広報担当です」と言うのだけは、見たくない。
②メディア、特にスポーツメディアのあり方の再認識
決して敵対関係ではなく、一方通行でもない。報じてもらうことの意義を再認識する。決して“ひれ伏す”わけではない。組織委員会や競技団体は、その絶妙なバランスを学んでいくべきである。
③選手へのメディアトレーニング
各種、プロの競技団体、オリンピックレベルの選手には、これを徹底する必要がある。いまでもあるのは承知のうえだが、スポーツメディアのプロによるプロのためのトレーニングと位置づけ、始める、または現存のものを見直す必要がある。

2020年への不安と期待

世界のスポーツメディアが一堂に会すると言っても過言ではない、東京オリンピック。
日本のスポーツメディア全体は、あと数年間で、どれくらい成長できるのであろうか。
2020年のオリンピックを報じるのもメディア、そのプロモーションの一端を担うのもメディアである。
目に見えるものでないだけに、評価をするのが難しいが、受け入れ側である日本のスポーツメディア全体が成長すれば、それは東京オリンピック成功の一つの要因となることは、間違いないと言える。
スーパーボウルのそれを目の前で見てきた今、不安と期待が入り混じる、複雑な心境である。
(バナー写真:AP/アフロ)