ネットフリックスが初めて大々的なオリジナルドラマを配信したのは、2013年のこと。他者が制作したコンテンツのライセンス獲得や配信においては革新性が認められていたが、コンテンツの制作となると話は別だ。「ギャンブル」のように見えた。だが、その懸念をよそに「ハウス・オブ・カード」はヒット。その後、同社のオリジナル作品の戦略は広く成功を収め、クリエーティブな面での評価を高めている。

ネットフリックス:世界戦略の旅は、ブラジルから始まった
ネットフリックス:ブラジル市場の課題と成功した「ギャンブル」

英語圏以外で最大の市場、ブラジル

ネットフリックスは昨年、5億ドル(約570億円)以上を投じて計600時間以上ものオリジナル作品を制作した。ドラマと映画合わせて126作品にもなり、そのほとんどが世界中に配信されている。
オリジナル作品の大半は米国で制作されているが、それも変わりつつある。グローバル市場でのオリジナル作品の制作を率いるエリック・バーマックは、あらゆる方面で積極的に作品の発掘を行っている。
「3%」も、サンパウロで映像を学ぶ学生ペドロ・アギレラがパイロット版を制作したものの、グローボも含めブラジルのテレビ局から見向きもされなかったところをバーマックが発見した。
ネットフリックスが前途多難な状況でブラジル市場に参入してから5年がたち、同国は英語圏以外で同社にとって最大の市場となった。専門家によると、ブラジル国内の視聴者数は、米国と英国に次いで多い400万~500万人と推定される。またネットフリックスによると、ブラジル市場ですでに収益を上げているという。
アギレラや彼の友人たちは、最近のテレノベラ(メロドラマ)よりもHBOの「ザ・ワイヤー」など米国のテレビ番組について話題にすることが多いという。
「多くの若者は自分たちが望むものを、望むときに見たいと思っている」とアギレラは言う。「私がグローボを見るのは五輪だけだ」
ブラジルでも大都市以外ではまだ視聴者を多く獲得できていないが、同社のブラジル市場のマーケティングを統括するティアゴ・ロペスは、安定して成長していると言う。

100カ国以上で新たにサービス展開

ネットフリックスはフランスとメキシコで撮影したドラマも配信しており、メキシコで撮影した「クラブ・デ・クエルボス」はすでに第2シーズンを制作した。
バーマックは最近、イタリアの犯罪番組、韓国のドラマ、スペインの恋愛ものなど、各国の映像・映画界の第一線で活躍する人々に合計20ほどのオリジナル作品の制作を依頼した。
「ローカルなストーリーが多ければ多いほど、その地域の視聴者からの反響も多くなるだろう」とバーマックは言う。
ネットフリックスは昨年、アゼルバイジャンからポーランド、ナイジェリアなど100以上の国で新たにサービスを展開すると発表した。
当然ながらそうした新たな国々に進出するにあたっては、ブラジルで当初体験したのと同じ問題に直面する。お粗末なインフラ、海賊版の普及、国内の強力なライバル企業、競合する低価格なサービスなどだ。
昨年1月、インドネシアの国営通信会社はネットフリックスが番組の検閲を拒否したため、同社の動画配信サービスを遮断した。
また、ネットフリックスは外国メディアに対して厳しい規制をもうけている中国にはまだ参入しておらず、アフリカやその他のアジア諸国でも進出は長い道のりになりそうだ。

焦るライバル企業、対抗策を展開

それでも、テレノベラの国ブラジルで成功したことは、その他の国々でもチャンスがあることを示唆している。
メディアコンサルティング企業、メディア・パートナーズ・アジアの経営者ビベク・コウトは「ブラジルで成功すれば、インドでも成功する」と指摘する。
ネットフリックスのブラジルでの成功に、国内のライバル企業は不安を募らせているようだ。グローボを含むメディアの一部は、ネットフリックスに対するライセンス供与を拒否している。
また、大手通信事業者やメディア企業の中には自ら動画配信サービスに乗り出す一方で、ネットフリックスに対して厳しい規制を課すよう政府に働きかけているところもある。
グローボは、ネットフリックスより低価格で自局の番組のほとんどをオンデマンドで提供する「グローボプレイ」というサービスを開始し、若者を引き付けようとしている。
グローボの広報担当者は「われわれは映像作家、ディレクター、プロデューサー、俳優など、ブラジルの視聴者に質の高い作品を演じ、伝えることを極めた才能あふれる人材を抱えている」とメールでコメントを寄せた。
米国のライバル大手2社も、世界に目を向けている。アマゾンは動画のオンデマンド配信をグローバルに展開しており、料金はネットフリックスよりも安い。またHBOは最近、中南米で動画配信サービスを提供する計画を発表した。
「新たなライバルが大勢出てくれば、市場に注目が集まる」とネットフリックスのヘイスティングスCEOは言う。「市場は成長しつつあり、われわれも成長している」

ポップカルチャーの祭典でファン熱狂

昨年12月、マンガやテレビ、映画などのポップカルチャーの祭典「コミック・コン・エクスペリエンス」がサンパウロで開催された。大勢の人で賑わった会場にはネットフリックスの社員の姿もあった。
熱気あふれる会場内では、スーパーヒーローのコスチュームを着た人々がブラジルの代表的なおやつのポンデケイジョを頬張りながらサインや試供品、記念品を求めていた。
興奮気味の来場者の頭上には、ネットフリックスの赤いサインが掲げられていた。同社は出展スペースを昨年の4倍に拡大。ブースのひとつでは、米国で制作された刑務所を舞台にしたオリジナルドラマ「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」のテーマソングをファンがカラオケで歌っていた。
「3%」のブースでは、何十人もの子どもたちがお気に入りのシーンを再現するために列に並び、その近くのメインホールでは何百人ものファンが出演俳優のパネルの周りに集まっていた。
「3%」のイベントが始まり、ビアンカ・コンパラートなど作品に出演する俳優たちが壇上に上がると、ファンの熱狂は最高潮に達した。俳優たちはネットフリックスの作品に出る喜びを語り、もっと多くのエピソードを制作するようネットフリックスに頼んでほしいとファンたちに呼び掛けていた。
イベントが終わりに近づくと、ネットフリックスのマーケティング部門の幹部ビニシウス・ロサッコが壇上の俳優たちに加わり、サプライズの発表をした。「3%」の第2シーズンを制作するというのだ。
感極まって大声で叫ぶブラジルのファンたちの姿を眺めながら、コンパラートは微笑んだ。彼女はリスクの大きな賭けに出て、大きなリターンを得たのだ。それはまるで、テレノベラのような劇的な結末だ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Lucas Shaw記者、翻訳:中丸碧、写真:SKrow/iStock)
©2017 Bloomberg Businessweek
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