ロボットが「万年筆で、手書き文字をカードに書く」サービス

2016/12/29

丁寧な礼状や特別な招待状に不可欠

こういうロボットもあったか……。
そう思わされたのは、手書き文字を書いてくれるというロボットを知った時である。2年ほど前に登場し、ニューヨークの開発会社はすでに大手の消費者向け製品メーカーに買収された。
このロボット「ボンド」は、万年筆による手書きのカードを郵送してくれるというサービスの一環で用いられているものだ。
ロボットがサービスというビジネスモデルのなかで使われているというところも重要なポイントだが、そもそもこういう作業をロボットにさせようと思いついたことにも感心する。
最近、手書きで文字が書けなくなってきたと感じている人々は多いのではないだろうか。パソコンやスマートフォンでキーを操作してメールやメッセージはますます高速に書けるようになった一方で、どんどん退化しているのが手書き能力である。
「そもそも、手書きなどもう必要じゃない」と考える向きもあるだろう。
だが、決してそうではない。パソコン以前にタイプライターが発達していたアメリカでも、手書き文字が依然として重要視されているシチュエーションがある。
それは、丁寧な礼状や特別な招待状の世界だ。

依頼者の手書き文字をまねできる

ディナーに招待されたことへの礼状、ビジネスの取引を感謝するカードなど、本当に心からお礼を言いたいとか本当に大切な人だからこのイベントに来て欲しいなどといった場合に、手書きのカードが登場するのだ。
手書き文字は、個人の思いを伝えたり、相手のことを重要に思っているというメッセージを暗にコミュニケートしたりするのになくてはならないものなのだ。
ただ、個人的な礼状では今でも手書きカードを送る人々が少なからずいるが、企業のように顧客が多数になってくると、そう簡単に手書きカードを送っているわけにはいかない。
カードを手配し、手書きで文字をしたため、封をして宛名を書き、切手を貼って投函するという手間を何百枚と処理するのは、そのための特別要員を抱えられるような余裕ある会社でもなければ不可能だろう。
そこで登場したのが、ボンドだ。
ボンドは、カードの文面と宛名さえ送れば、万年筆を握ったロボットがそれを手書きしてくれる。手書き風の文字を印刷するのではなく、一枚一枚インクで書き出してくれるのだ。
万年筆で書かれたカードを受け取ることがまれになっている今、もらった相手がちょっとした感動を覚えることは間違いない。
さらにびっくりするのは、このロボットは個々人の手書き文字自体をまねできる点である。
追加料金を払って特別サービスを受ければ、特別のスマートフォン・アプリが使えるようになり、そこからテキストで文面を送るだけでいい。あらかじめ自分の文字の癖を覚えてくれたロボットがその文面を手書きして、カードが送付される。

3Dプリンターを組み替えたロボット

この手書きロボットは、3Dプリンターを改造して作られているという。コンピューターファイルにあるフォルムのデータをそのままロボットが生み出すのが3Dプリンターだが、それをちょっと組み替えて手書き文字ができるようにしたわけだ。
このサービスは、当初規定のカードしか使えなかったが、最近は自分の好きな写真でデザインしたカードに手書き文字の文面を添えて送れるようになっている。
インターネットとロボットというテクノロジーをうまく利用すれば、ますます個人的な匂いのあるものが作れるようになっているという証しのようなサービスだ。
ただし、安くはない。個人が1枚カードを送るのに支払うコストは5ドルと郵送料。自分で手書きすれば、カード代約2ドルと郵送料とその半額以下で済むのだが、もちろん手間がかかる。
このサービスが重宝されているのは、中小規模のビジネスのようだ。コンサルティングファームとか弁護士事務所とか、そもそも高い料金がかかるビジネスが顧客に高級なイメージのあるカード礼状を送る。
ボンドによると、手書き文字のカードを送ることで実際に顧客から請け負うビジネスが増えたという数字もあるらしい。
ボンド・ロボットを見ていると、ロボットが人の作業を肩代わりできる未発見の場面がまだまだあるのではないかと思ってしまう。意外なところに、ロボットビジネスの種が隠れているはずだ。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子)