海外法人とパートナー企業を通じて、アジア・北南米・欧州をはじめとする190を超える国と地域にPCオンライン及びモバイルゲームのサービスを展開。全世界にあるグループ会社を統括するヘッドクオーターとしての役割を担っているのが、日本にある株式会社ネクソンだ。

同社が主力とするメイプルストーリー、アラド戦記、マビノギなどのタイトルは、なんと10年以上もの長期にわたり世界中のユーザーから愛され続けている。

その圧倒的なグローバル展開力を後押ししているのは、ゲームの開発や運用に携わる部署のみではない。同社のマーケット拡大やM&A等の企業戦略を担当する経営企画室が、その屋台骨を支えている。世界を舞台に仕事をする醍醐味はどこにあるのか、経営企画室長を務める熊谷峻平氏に話を聞いた。

既存タイトルの長期的な売上創出が、M&Aなどの新規投資を支える

― ネクソンが運営しているオンラインゲームの主力タイトルは、それぞれどれくらいの期間、サービスを運営しているのでしょうか。
熊谷 メイプルストーリーは13年、アラド戦記は11年、マビノギは12年くらい継続していますね。実は、10年以上続くこれらの主力タイトルの売上だけでも、会社の損益分岐点を超えるどころか、多大な利益を生み出してくれています。風の王国という20年以上継続しているタイトルもありますが、未だに損益分岐点以上の売上を生み出しています。
この図は、ネクソンの中長期にわたる成長ビジョンです。通常、多くのゲーム企業はその年のヒット作の有無によって収益が大きく増減します。ですが、弊社は既存のロングランゲームが収益の下支えをしているため、非常に安定した収益モデルとなっています。
だからこそ、リスクを取ってM&Aや事業投資、新作ゲームの開発にチャレンジできるんです。結果として、様々なゲームタイトルや開発会社との取り組み、非常に多くの国や地域への展開が実現できています。
― それほどまでに安定した経営を実現しているとは……。驚きました。M&Aの話が出てきましたが、熊谷さんが室長を務める経営企画室は、M&Aや事業投資、アライアンスなどグローバル展開において非常に重要となる業務を担当されているそうですね。
株式会社ネクソン 経営企画室長 熊谷峻平
大学在学中の2004年公認会計士試験合格。新日本監査法人 金融部にて会計監査、GCAサヴィアンにてM&Aアドバイザリー業務に従事。その後、ゴールドマン・サックス証券 投資調査部にて、セルサイドアナリストとして
エクイティリサーチ業務を経て、株式会社ネクソン(NEXON Co., Ltd)に入社。経営企画チーム、IRチームリーダーを経て、2015年から経営企画室長として、経営企画(投資/M&A)、IR、企業広報の3チームを統括する責任者を務める。慶應義塾大学環境情報学部 卒業。
熊谷 そうですね。経営企画室だけではなく、日本や世界中のNEXONグループで投資/M&A、事業開発を担当するメンバーと連携しながらM&Aを行うことで、世界中にある企業との業務提携や投資を進めてきました。
― その結果として、何を実現できていますか。
熊谷 主要市場だとアメリカやヨーロッパ、アジアであれば日本や韓国や台湾などに自前の拠点を置き、直接ゲームを配信する体制を作ることができました。
弊社から直接ゲームを配信できない国や地域は、現地のパートナーと提携しながら事業を進め、その結果として約100のタイトルを190か国以上の国や地域へと配信できています。
また、自社で作ったゲームを配信するだけではなく、他社からお預かりしたゲームを世界各国で配信するケースもよくあります。これも、世界中の企業とのネットワークがあるからこそ、実現できていることですね。

中国人には三国志、日本人には戦国時代がウケる

― いわばゲームのローカライズも担い、配信されているのでしょうか?
熊谷 はい。国ごとにゲームというエンターテイメントが歩んできた歴史が違うので、市場の特性も全く違いますし、ユーザーのゲームの楽しみ方も異なっています。そこが大変でもあるのですが、その差異を考えてプロジェクトを進めることが重要だし、ゲームという事業の面白い部分でもありますね。
例えば、中国や韓国は元々、ゲーム機の輸入が禁止されていた国なので、コンシューマーゲームよりもPCゲームの方が圧倒的に普及しています。PCゲームをプレイするユーザーはコンシューマーゲームのユーザーよりも熱量が高いですから、そこのゲームバランスの調整もマストです。
また、国民性によって、好まれるイベントも異なってきます。例えば中国においては、三国志に関連するイベントやアップデートはすごく人気が出ますし、日本だと戦国モノのアップデートを導入すると喜ばれるケースが多い。
そうした国毎の差異があるからこそ、グローバルでゲームをヒットさせる難しさがあるわけですが、故に、チャレンジして成功させるやりがいもあります。それを、経営企画室という経営陣に近い立場からNEXONグループを支えていくのが、私たちの役割ですね。

“童心”と“専門的キャリア”を融合できる、最高の仕事

― かつて熊谷さんはM&Aのアドバイザーをしていた時期もあったそうですが、その当時と今とで、仕事への携わり方はどう変わりましたか?
熊谷 通常、M&Aの専門家は会社を“買う前”までのアドバイザー業務をメインに行います。けれど私たちのように、企業の中でM&Aを担当する部署は違う。
M&Aを実施した後にも、対象会社と継続的に関わり続けることができる点が、事業会社でM&Aを仕事にする醍醐味です。元々異なる文化を持つ企業同士ですから、一緒に仕事をすることは簡単ではありませんが、そこが逆にチャレンジングで面白いところであるとも感じます。
実は、ネクソンが現在主力としているタイトルであるメイプルストーリーもアラド戦記も、元々はM&Aを実施した先の企業が持っていたゲームなんです。どちらも、大ヒットするかどうかわからないくらい初期の段階で青田買いをし、ネクソンが持っていたノウハウをどんどん注入し、人を送りこんで、その結果として10年以上も続くロングヒットタイトルに育てあげました。
― まるで野球監督のように、将来のスターになる選手と一緒になって汗をかき、一緒にスターになっていくような醍醐味があるのですね。
熊谷 そうですね。それに、自分自身が小さい頃に親しんできたゲームというものに仕事として携われるのって、すごく楽しいです。小さいころ、ゲームを大好きだった大人は多いと思いますが、大人になるにつれて遊ぶ機会って減ってしまうのが現状です。
でも、大人になった今でも、やっぱりゲームという文化に触れると胸が躍ります。童心が蘇る感じがするというか。
自分が小さい頃から好きだったものと、大人になってから携わってきた金融や経営のナレッジが融合し、それが仕事になる。自分自身がそれをやっていて、毎日本当にワクワクしているんです。
それって面白いキャリアの歩み方だし、ネクソンでしか味わえない魅力だと思っています。