【独占1万字】DMM亀山、語られざる「新社長招聘」の舞台裏

2016/12/10
まさに、「電撃発表」にふさわしい内容だった。
12月6日、京都で行われたベンチャー発表会「Infinity Ventures Summit 2016 Fall Kyoto(IVS)」で、DMM.comの亀山敬司会長は、ピクシブ創業者の片桐孝憲氏を来年1月から新社長として招聘すると発表した。
新体制では、亀山氏が新設される持株会社(ホールディングス)と事業会社DMM.comの会長を兼務し、現DMM.com社長の松栄立也氏は持株会社の社長に就任する。
くしくも、同じトークセッションでパネリストとして登壇し、ベンチャー企業の戦略について議論を交わしていた二人。他社の現役経営者を招聘するという驚くべき発表に、会場はどよめきに包まれた。
今回、発表2日後の亀山氏に独占取材を敢行。片桐氏招聘までの全経緯から、これまで公にされることはなかったDMMグループの組織体制、また亀山氏個人のビジョンに至るまで、一連の舞台裏が明かされた。

幻のミクシィ買収計画

──亀山さんと片桐さんは、2012年以来の友人関係です。いつごろ片桐さんの社長就任を構想し始め、具体的に打診したのはいつですか。時系列で経緯をお聞かせください。
亀山 最初にオファーを出したのは、2013年後半ごろ。片桐といろいろ話をする中で、「こいつは鋭い」と思った俺は、冗談半分で「ピクシブ売ってうち入れよ」と言っていた。
しかし、片桐は現金に興味がないようだったし、未上場企業同士がくっついても株の流動性がない。うちは上場するつもりもなかったし。
そこで俺が考えたのは、ミクシィの買収だった。当時のミクシィはまだ時価総額200億円ほどで、全株式の半分を保有している創業者が売りに出すかもという噂が耳に入った。
もともとミクシィのトラフィックに可能性を感じ「もっとやりようがあるのではないか」と思っていた俺は、同社の株を買い取った上で、ピクシブを傘下に収めるという計画を思いついた。
「ミクシィを買収し、ピクシブを傘下に収めようと思っていた」
もっとも、これは俺の頭の中だけで考えていたことで、ミクシィの人と具体的な話をしたわけではない、ただの妄想。しかし片桐には、「お前がその気があるなら、この線で調べてみる」と伝えた。俺は結構本気だったんだ。
結局、片桐からは色よい返事をもらえないうちに、その数カ月後に、スマホゲームの「モンスターストライク」が大当たりし、ミクシィの株価は10倍以上に跳ね上がってしまった(2016年12月9日現在、時価総額は約3308億円)。
それで、この話はいったんお流れとなった。もしその時に買えてたら、俺たちは超ラッキーだったよね(笑)。

一人の若手起業家がきっかけに

その後、再び話が動き出したのは、今年の10月のことだ。
俺が六本木にある行きつけのバー「awabar」で飲んでいると、片桐がある起業家を連れてきた。彼は20代で、アプリ運営のスタートアップを経営しているという。そして、現在売却を考えていて、来週にもある企業と契約書を取り交わす予定とのことだった。
片桐は「この会社、イケてるんですよ」と、とても評価していた。「売却するのはちょっともったいないんですけどね」とも。
その会社のアプリを、俺は見たことも使ったこともなかったけど、こいつが言うぐらいだから、きっといい会社に違いない。だからその場で「もう1億乗っけるから、俺に売らない?」と打診してみた。
それから「トイレに行くから、その間に考えておいて」と席を立ち、10分後に戻った。すると、彼の答えは「やっぱり難しいです。でも、倍額出してくれるなら売ります」というもの。今度は俺が面食らった。見ず知らずの俺に、いきなりふっかけてくるな、と。
しかしその光景を見て、片桐は盛り上がり始めた。「うわすげえ、こいつやばいわ。亀山さん相手に『倍』なんて言ってる」と。そこで俺は「無責任な顔してるな」と思いつつ、「わかった、じゃあ本当に倍額が妥当かどうか、お前考えろ」と片桐に振ってみた。
すると片桐は、しばし考え、「やっぱり、いいと思います」という結論を出した。いわく、彼の会社のエンジニアは優秀で、彼らが戦力になることが、DMM全体にとって価値があるという。
そこで俺は、倍額で彼の会社を買収することをその場で決めた。そして片桐に「お前にも責任が生じるから、うちに来るということだよな」と振ってみた。実際は俺が決めたことなので無茶振りなんだけど、片桐は「そうなるのかなあ……」と真剣に考え始めた。そして最後には「じゃあ、責任取ります」となった。
「お前にも責任が生じるから、うちに来るということだよな」
とまあ、完全に酒の席での話なので、それで決まったわけではないが、それが真剣に話す引き金になったのは間違いない。
もちろん伏線もある。以前、ヤツは川邊さん(川邊健太郎・ヤフー副社長)から「俺は孫(正義)さんと仕事をしているが、時代を作る人と一緒に仕事をするのは本当に面白い」という話を聞いたそうだ。その話を受けて、「自分にとって“時代を作る経営者”とは、亀山さんかな」と思ってくれたらしい。
ただ、お互いに経営者の立場だし「そうは言ってもな……」とこの話は前に進まなかった。それが酒の席できっかけが与えられたことで、本気でDMMに参画することを前提に、いったん二人とも役員たちに相談してみることにした。

なぜ電撃発表になったのか