(Bloomberg) -- 市場はドナルド・トランプ氏の唱える「アメリカ・ファースト(米国最優先)」の影響をはき違えている-。預かり資産が約2兆ドルに上るUBSウェルス・マネジメントは米大統領選挙後の相場展開を踏まえ、為替見通しを円高・ドル安方向に修正した。

UBS証券ウェルス・マネジメント本部でジャパン・エクイティ・リサーチの責任者を務める居林通氏は28日のインタビューで、トランプ次期米政権の経済政策について「皆が良いところ取りで絵を描いており、過度な幸福感に包まれているが、その解釈は誤解に近いのではないか」と指摘。「期待先行で買われ過ぎた相場は、思わぬところで急にはげ落ちる。対外政策と国内政策の時間差をよく考えるべきだ」と語った。

同社はトランプ氏勝利後の世界的な株高・米金利上昇・ドル高の中で、3カ月後の円相場見通しを1ドル=104円から102円に上方修正。6カ月後は102円、12カ月後は98円に据え置いた。市場で焦点に浮上している昨年6月の13年ぶり安値125円86銭の更新はないとの見方だ。

主要10通貨に対するブルームバーグのドル指数は24日、データでさかのぼれる2004年末以降で最高を記録。円相場は25日に113円90銭と約8カ月半ぶりの円安・ドル高水準を付け、9日の高値から12.5%下落。月初からの下げは09年以来の大きさとなった。

トランプ氏が公約した大型減税や1兆円規模のインフラ投資への期待を背景とした円安・ドル高進行で、為替アナリストは円相場の見通しを相次ぎ下方修正。来年9月末の予測中央値は米大統領選直前の105円から約半月で109円50銭に下がった。仏銀BNPパリバは125円と予測。100円突破を見込む円高予想は90社のうち10社に満たない。

居林氏は、市場はトランプ氏の「国内政策の効果が先に出て、対外政策は後から妥当なところで折り合うと期待している」と言う。しかし、トランプ氏の経済政策は「国内向けは財政出動で成長促進的だが、米議会の承認プロセスが必要だ。影響の顕在化までには時間がかかる」と指摘。一方、「対外政策は貿易に逆風で成長を抑制する方向だ。議会を通さずに執行する権限を大統領が持っているので、早く実施される可能性がある」とみる。

トランプ氏は選挙戦で、オバマ政権が日本などと進めてきた環太平洋経済連携協定(TPP)を米国内の雇用を守る立場から批判。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は20日、貿易を歪曲(わいきょく)する措置と保護主義の撃退を訴えた。しかし、トランプ氏はその翌日、就任初日にTPPから撤退する意思を公表する方針を表明した。

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