ラストマイル搬送ロボット、人口集中地域にマイクロハブを設置

2016/10/20

歩道を走る無人の小型ロボット

ロボット業界では現在、ラストマイルのロボット配達が最も興味深い分野のひとつになっている。
倉庫や製造工場内の搬送ロボット、あるいは病院やホテル内で使われる搬送ロボットなどはすでに実用化されている。だが、屋外の路上が舞台となるラストマイルの配達ロボットは、技術的には可能でも、いったいどうやって運用するのかという関門が残っているからだ。
ラストマイルのロボット配達とは、数キロ先の店舗や配送センターから注文主のところへ届ける配達を自動化することだ。自走車のような仕組みを利用した無人の小型運搬車が、歩道や車道を走って注文主の元へ向かう。
以前、このコラムでも触れたように、ドミノ・ピザなどのレストランチェーン、DHLなどのロジスティクス会社、そしてロボット開発会社が新参者としてこの分野に参入している。
さて、よくわからないのは、ラストマイルの配送とは具体的にどのように行うのか、という点だ。
たとえばウォルマートならば、アメリカの人口の70%が住む場所から5マイル(約8キロ)以内に店舗を有しているという。さすが、同社の店舗ネットワークは全米の津々浦々まで張り巡らされている。
こんなチェーンならば、各店で配達ロボットを抱え、注文商品を積み込んでアプリでタップすれば、そのまま近隣の注文主のところまで向かってくれる。
近所の人気レストランが出前ロボットを導入する場合も、似たような使い方になるだろう。注文を受けて調理を済ませ、料理をパックに詰めてロボットに載せる。ロボットは、やはりタップひとつで注文主の家へ向かい、配達を終えると戻ってくる。

要所要所に「小規模な配送センター」

ロボットの運営者が売り手ではなくロジスティクス会社だった場合は、次のようになるようだ。
これは、現在注目されているラストマイル搬送ロボット開発会社のスターシップの場合だが、同社は対象となる人口集中地域にマイクロハブを設置するという前提で運用を考えている。
これまでのロジスティクスでは、巨大な配送センターが大都市の近辺に建設されるのが普通だった。だが、マイクロハブはもっと小規模なセンターが要所要所に設けられているという図だ。
配達ロボットは、そのマイクロハブで何台かが待機している。マイクロハブには大きな配送センターからトラックで荷が届けられる。それが目的地別に配達ロボットに移し替えられ、ロボットが出発。配達を終えると、またここへ戻ってくる。スターシップは、じつは荷の移し替えも自動化できないかと考えているらしい。
もちろん、この場合は、いきなり世界のすみずみまでマイクロハブを設置しようとは計画していない。住民にある程度の所得のある落ち着いた住宅地で、路上がゴミゴミしていないところなどを選び出すようだ。運用の成功は、場所選びと顧客選びにかかってくるだろう。
自走車と異なるのは、マイクロハブ周辺の地図はあらかじめ記録し、町並みや歩道の状態にいたるまでこまごまと環境を認識できるようにしておくことだという。
それによって、安全で確実な走行ができるだけではなく、どこにロボットがいて、どこへ向かって走行しているのかがピンポイントで把握できる。

自宅から近所の買い物を任せることも可能に

スターシップに限らないが、この種のラストマイルを担う搬送ロボットは、管理センターで生の人間が常時モニターしていることも多い。
センターでは、走行するロボットがとらえる映像を刻々と確認し、もし誰かがロボットや商品を盗もうとすれば、カメラがそれを捉え、双方向のマイクロホンで警告したりすることもできる。
管理センターからすぐに警察に連絡が行ったりもするだろう。もちろん、ロボットの荷台には鍵がかかっているので、中身を盗むのはそれほど簡単ではないはずだ。
最近は、アマゾンなども都市のごく近くに小規模な配送センターを多数作ろうとしていると聞くが、そうしたところでラストマイルの配送ロボットが待機するようになるのも時間の問題だろう。
しかし、ロボットを運用するのは売り手やロジスティクス会社だけではない。 じつは、買い手であるわれわれ個人も、その可能性を握っている。
たとえば、先述したスターシップのロボットは、製造コストが1台2000ドル以下だという。すでに個人が買える範疇(はんちゅう)だ。
そうなれば、家に搬送ロボットがいて、近所の買い物はこのロボットに任せるということも、そのうちできるようになるだろう。食料品の買い出し、レストランからの出前、クリーニング店へのお使いなどが、家にいながらにしてアプリでできるようになるのだ。
今でもすでに出前のオンライン化が進んでいる。それをクリーニング店やドラッグストアなど日常的な買い物ポイントにまで広げ、そこにロボット運用をつなげることができれば、ことは簡単だ。
現時点では、人に交じって路上をラストマイルの搬送ロボットが走っている様を想像すると、おかしくて笑ってしまいそうになる。だが、こうして考えるとかなり実現可能性の高い技術と言える。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子)